(株式会社農協観光 関谷 紀志)
前回のコラムでは「多様な人材が活躍できる農業現場」、「農業の労働力不足の実態」、「働く人たちの意識変化」について説明をしました。今回のコラムでは当社を通じて実際に労働力支援として農作業に携わった企業や学生団体について事例の紹介と将来性について説明をさせていただきます。
農業に携わりたい人たちのニーズ
前回のコラムにて、働く場所として魅力的な農業の現場について再認識をいただいたと思います。では、実際に農業現場に働きに来る人たちは何を求めているのでしょうか。農業現場で働く場合、日雇いなどの短期、数か月程度働く中期、通年で働く長期と分けられます。それぞれで活躍している人たちが農業現場に求めることについて紹介をします。
日雇いなどの短期で働く人
1日農業バイトアプリ「daywork」や「タイミー」などのスマホアプリで手軽に働きにくる方が多いです。栃木県のトマト農家に働きに来たNさん(40代女性)の声を紹介します。
『コロナなどで“食の安全“に関心を持ち市民農園を借りていたところ、dayworkについて教えてもらい利用を開始しました。初めての現場は緊張もするが、受入れ農家さんが親切で作業も丁寧に教えてくれるので、定期的に働きに行っています。家庭菜園など自分が育てる上でも参考になることが多く、身体も動かすことができ、違う職種の方とも交流を持てる上に、農家さんからも喜んでもらえるのが嬉しかったです。これからますます必要とされる食の生産に携わることができるので、継続的に働きに行きたいと考えています。』
数か月程度の中期で働く人
繁忙期などにアルバイトやパートを採用する形で、地元の求人誌や求人サイトを通じて働きに来る方が多いです。「おてつたび」や「旅ワーク」といった、住み込み滞在型の求人もあり、様々なニーズに答える就業形態が人気です。沖縄の野菜農家に働きに来たSさん(50代男性)の声を紹介します。
『今まで勤めていた会社を早期退職し、色々な場所に滞在しながら仕事をしています。沖縄という地、農業という仕事に憧れと関心があったことから、ホームページの求人を見て申し込みをしました。もともと体を使う仕事であり体力に自信はあったのですが、使う筋力が違うのか今までと違う疲れを感じますが、それがとても心地よいです。農作業を通じて時に無心に、時に生き物を相手に仕事をしていると感じる日々はとても有意義に感じています。一緒に働いている人たちにも良くしてもらい、限られた期間を噛みしめながら働いていきたいと考えています。』
通年という長期で働く人
通年雇用の場合、パートやアルバイトだけでなく正社員として活躍するサラリーマン農家も増えています。パートやアルバイトは求人誌や求人サイト、正社員は転職サイトなどへの求人情報掲載により採用する形が多く見られます。求人サイトを通じて申込み、埼玉県の花農家で年間を通じて活躍するUさん(60代女性)の声を紹介します。
『車で通える範囲で日中に働けるパート先を探していたところ、知り合いを通じて求人サイトの情報を教えていただき申し込みをしました。最初は通勤できる先を優先して探していたので、農業に対しての意識は無かったのですが、日々の仕事を通じて育てたお花が綺麗に咲き、出荷されていく様子にやりがいを感じて、今では毎日楽しく働いています。一緒に働く人たちにも良くしていただき、働く日や時間にも融通を利かせてもらっており、長くこの場所で働きたいと考えています。』
以上のように、農家で働き始める動機は様々ですが、皆さん異口同音に農作業の楽しんでいる様子を伺うことができました。農業に携わっている人たちの多くが、金銭だけではない「やりがい」にモチベーションや働く意義を感じていることが分かります。
農業に携わる企業のニーズ
弊社では、様々な企業に対して「ボランティア」や「研修」として農業を取り入れた提案を行い、「援農ボランティア」、「農作業を取り入れた社員研修」としてマッチングを実現しています。実際にこのような取り組みに参加された企業の目的や効果について紹介をいたします。
CSR活動の一環として援農ボランティアに取り組む金融機関の例
都内のある金融機関では「会社としての社会価値創造に対する取り組み」として、社員によるボランティア活動の推進等を積極的に行っていました。多岐にわたるボランティア活動の一つとして、地域産業という観点と命に直結する食という産業から農業支援に携わりたいというニーズがあり、弊社の提案と合致しました。
実際の援農ボランティアでは東京郊外のタマネギ生産農家の支援を実施。普段、口にしている農作物がどのように生産、収穫、流通しているかを学び、食べ物が生き物であることを再認識することができたことで、大変有意義なボランティアであったという感想をいただきました。
社員研修として農作業を取り入れた研修を実施したIT企業の例
都内のあるIT企業では「デスクワーク中心の業務で、在宅などによる社内コミュニケーションも低下している」という課題を抱えていました。そこで弊社よりオンラインではなく集合して農作業と言う屋外での共同作業を通じた研修を提案したところ、ニーズに合致する形で実施をいただきました。
農作業では静岡県の柑橘農家にて収穫作業の手伝いに携わってもらいました。海を見下ろす傾斜地で無心になってみんなでミカンを収穫する作業は、普段の業務とかけ離れた体験であり、参加者からは「農作業の現場を知ることができてよかった」、「リフレッシュできた」、「普段会話をしない部署の方とコミュニケーションが取れた」、「農家の方に感謝をしてもらいとても嬉しかった」という声を聞くことができました。
このように企業が農業に携わるニーズは様々ですが、参加者からは農作業を通じた学びや感謝、リフレッシュ効果などの副次的効果を実感する声を聞くことができました。
農業に携わる学生のニーズ
最後に弊社を通じて援農ボランティアマッチングを行っている大学生の事例を紹介します。
昨今では「地方創生」や「地域共創」といった分野に力を割く大学が増えており、同時に学生も就職活動対策として「ガクチカ(学業以外に力を入れたこと)」などのキーワードで様々なことに取り組んでいます。
しかし、実際にボランティア活動に参加する学生からはそのような表面的な目的以外の深い意義をもって参加をされている様子が分かりました。
ボランティアサークルとして福島県のトマト農家でボランティア活動を実施した学生
福島県の南会津ではブランドトマトの「南郷トマト」を生産しています。都内の大学にあるボランティアサークルでは、国内や海外の様々なボランティア活動に従事をしており、収穫期のトマト農家が繁忙で困っているというお話をしたところボランティアマッチングが実現しました。
学生は夏休み時期に5名〜10名程度のグループで分かれ全8班にてボランティア活動を実施。トマトの収穫だけではなく、摘芯やコンテナ清掃などの作業にも携わりました。参加した学生からは「農家の方とのコミュニケーションがとても楽しかった」、「早朝からの作業であったが、みんなで苦労を分かち合いながら楽しく過ごすことができた」、「まだ青いトマトを収穫して出荷していることを知り驚いた」といった声を聞くことができました。
その後、冬シーズンにスノーボードを楽しむために改めてトマト農家のお宅にプライベートで訪れる学生もおり、新たな関係人口の創出にも繋がりました。
大学公式で取り組んだ千葉県のイチゴ農家へのボランティアマッチング
都内のある大学では学生のボランティア活動支援として、大学主導でのボランティア企画を実施。背景として、学生のボランティアに対するニーズが一定程度ありつつも、ボランティア活動に参加する取っ掛かりが掴めていない学生が多いことから、学生の後押しをできる企画を立ち上げたいということでした。そこで弊社よりボランティア先として千葉県のイチゴ農家をご紹介、マッチングのお手伝いをしました。
参加した学生からは、「初めてボランティア活動に参加したが、アルバイトと違って純粋に農家さんから感謝されることに喜びを感じた」、「イチゴ生産の大変さを知り、美味しいイチゴを作る苦労が分かった」、「農家さんとの交流が楽しかった」という声を聞くことができました。
このように、学生ボランティアについても、「人の役に立ちたい」という思いから知っているけど携わったことのない農業に触れることで、新しい気付きだけでなく農家さんとの交流が生まれ、新たな繋がりに結びつくことが分かりました。
農業を知らない消費者の感想。受け入れ経験を経て学ぶ生産者
このように「農家で働く」、「農家でボランティアをする」、といった人たちがいて、様々な動機やニーズで農業現場に訪れている事例を紹介しました。このような人たちのきっかけは様々ですが、皆さんの多くが「農業に触れられてよかった」、「農家さんとコミュニケーションを取れてよかった」とお話をしてくれたことが印象に残ります。
この背景には、「普段食べて知っているはずの野菜や果物について、実は生産されている現場や生産をしている人たちなどの情報が抜け落ちていた」ことに対する気付きや学びがあるのではないかと考えています。つまり多くの消費者は本当の意味で「農業を知らない」のです。
同じことが生産者側にも言えます。生産現場に携わる多くの生産者は自分たちの仕事が当たり前なものと受け止めており、”消費者が農業に魅力を感じる”とは想像していないが故にギャップが生じているとも言えます。弊社がマッチングを行う際も生産者からは「こんな作業をお願いしていいのか」、「こんな場所に来てもらって嫌な思いをしないだろうか」というネガティブな声をいただくこともありました。
しかし、実際に作業に取り組んでもらい、笑顔で働き手やボランティアが帰っていった後では、「受入れて本当に良かった」という声を多く聞くことができました。また、「消費者にあたる人たちと多くのことを話すきっかけになり、また頑張ろうという気持ちになれた」という声もあり、ただの労働力支援以上の副次的効果があったのではないかと実感しています。
生産者の方に労働力支援を一度経験してもらえたらと考える理由
普段の農作業でお忙しい生産者の皆さんだからこそ、少し立ち止まって消費者にあたる方々との交流の機会について検討してみてはいかがでしょうか。その方法は直売所で生産品を売るだけではなく、パートやアルバイトの雇用、ボランティアの受入れなどでも実現できます。生産者にとっては当たり前に感じる普段の農作業が、不思議にも実は消費者にとっての新鮮な気付きと学びの現場になり得るのです。
弊社ではこのように労働力支援を通じて、生産者と消費者の懸け橋となれるような企画を様々手掛けております。関心をお持ちいただけた方はぜひ一度、弊社ホームページをご覧いただき、お問い合わせをいただけますと幸いです。
援農ボランティアの様子
<岩手 りんどう>
<静岡 みかん>
<福島 トマト>
<沖縄 パインアップル>
会員登録をすると全ての「コラム・事例種」「基礎知識」「農業一問一答」が無料で読めます。無料会員登録はコチラ!
公開日
