(農林水産省小島 拓磨)
こんにちは。農林水産省 大臣官房 政策課 技術政策室の小島です。スマート農業の推進を担当しております。今回は、農林水産省がこれまで進めてきたスマート農業の取組について、最新の情報をご紹介したいと思います。
農林水産省のスマート農業施策の変遷
前回お伝えしたように、農林水産省が2013年に設立した「スマート農業の実現に向けた研究会」から、スマート農業という言葉が世の中で認知された始めるようになりました。
この研究会では、スマート農業の将来像と実現に向けたロードマップをとりまとめたほか、ロボットトラクタを安全に使用するためのガイドラインを策定しました。その後、ロボットトラクタなどスマート農業技術が市場に出始めましたが、農業現場での活用はなかなか広がりませんでした。
それは、機械は高額なのに、それに見合った効果があるのかはっきりわからない、そして、多くの農業者にとって今直ぐに自分に必要なものとは思えなかったからではないかと思います。しかし、農業者の高齢化や減少、農村地域の衰退が止まらない中で、日本の農業の将来を考えたとき、スマート農業技術の活用はどなたにも必要になってくるものです。
そこで、実際に、スマート農業技術を現場で導入して経営改善効果を明らかにする実証プロジェクトを全国各地で開始しました。2019年から2024年にかけて、全国217地区で行い、例えば、ドローンを活用することで農薬散布の作業時間を6割短縮できたり、女性や若者が農業に参画する機会が増えたりなど、全国の農業関係者にスマート農業とその効果をPRしました。このプロジェクトにより、スマート農業への理解が一気に高まったと感じています。
新章の始まり
一方、このプロジェクトを通じて課題も明らかになりました。それは、単に技術を導入するだけでは効果が発揮されず、農業者側において技術に適した生産方式への転換を行うことが重要であること、機械の導入コストが高いこと、野菜や果樹など技術開発が不十分な分野があることなどです。
これらの課題に対応するため、2024年にスマート農業技術活用促進法が制定されました。そして、2030年までにスマート農業技術の活用割合を50%以上とすることを目標に掲げました。現在、私たちは、この目標を達成するために、法制度に基づく施策を推進しています。まさにスマート農業の新章が始まったところなのです。
スマート農業技術活用促進法とは
スマート農業技術活用促進法について簡単にご紹介します。この法律のポイントは、農業現場側と技術開発側の歩み寄りです。例えば、従来の人手を前提とした作付体系にそのままスマート農業技術を導入すると、収穫時に作物を傷つけてしまうことがありました。このため、機械に合わせて畝間を広げたり、収穫しやすい品種に変えたりなど、農業現場が技術に歩み寄り、今までの栽培方法を変えることで、スマート農業技術の効果を引き出すことが重要です。
また、このような歩み寄りは、技術開発側にも大きなメリットとなります。ほ場の状態や作物の生育がバラバラな状況から、研究開発に取り組みやすい環境に近づけることで、機械化や自動化が遅れている野菜や果樹の収穫作業など、難度が高い領域の開発を加速化することが期待されます。もちろん、技術開発して終わりではなく、開発した技術をしっかり農業現場に届けることまでが重要です。このように新しい生産方式に取り組むことや難度の高い研究開発・供給に取り組むことは、農業者や開発者にとって簡単なことではありません。
そこで、スマート農業技術活用促進法では、このハードルを下げるため、生産と開発の計画認定制度を設け、認定された方には、税制・金融等の支援措置を行っています。さらに、農林水産省の補助事業等も活用し、スマート農業に取り組む方を力強く後押ししています。
【補足】
計画の申請等のご相談については、生産方式確信実施計画の申請・認定に関する情報(相談・申請窓口、各種様式など)をご参照ください。
自身の経営を見つめ直すきっかけに
この法律による認定制度がスタートして間もなく1年半となりますが、認定された計画は100件を超え、全国各地で、スマート農業技術の導入とそれに適した新たな生産方式の取組が広がっています。認定を受けた農業者からは、計画の作成を通じて、改めて自分自身の農業経営を見つめ直すよい機会になったとの声もいただいています。これは、スマート農業技術の導入に踏み出す上で、最も大切な視点です。
例えば、機械の導入・管理コストを抑えるために、経営規模を拡大し、自身で所有するのがよいか、地域で共同利用するのがよいか、農作業受託や機械のレンタルシェアリングなどの農業支援サービスを活用するのがよいかなどを考えることが重要です。
自身の農業経営を改善するため、または地域の課題に対応するために、農作業のどの部分に、どのようなスマート農業技術を導入して、どのような生産方式に取り組むのか、私たちの政策が、そこに向き合うきっかけとなり、皆様の課題解決を後押しできるものとなればと思っています。
スマート農業イノベーション推進会議(IPCSA)について
そして、もう1つ、力強く進めている重要な政策があります。
それは、「IPCSA(イプサ)」です。
IPCSAは、「スマート農業イノベーション推進会議(Innovation Promotion Conference for Smart Agriculture)」の英語略です。
スマート農業技術の活用を促進していくためには、生産現場の課題をできるだけ開発現場に届けるとともに、開発された技術をいち早く普及に移すサイクルを生み出し、それを加速化することが重要です。これは、生産側と開発側の多くの関係者が、それぞれ独立して課題に取り組んでいては実現できません。
生産現場の課題を踏まえて技術開発が行われ、開発された技術を最大限に活用した最適な栽培が行われるといったように、生産と開発の好循環の形成を推進するため、2025年6月、IPCSAを立ち上げました。
IPCSAには、農業者を中心に、民間企業、研究機関、地方公共団体などの多様なプレーヤーが参画しており、スマート農業に関する情報共有やマッチング、人材育成、共通課題の議論などの様々な活動を行いながら、生産と開発の連携に向けた関係者のコミュニティ形成を促進する「場」として機能しています。農林水産省と農業・食品産業技術総合研究機構が事務局を担い、先進的な農業者から助言をいただきながら、農業現場の実態を起点とした活動ができるように取り組んでいます。
※農研機構等と取り組んでいるIPCSAのご紹介動画はこちら
次回お届けしたいこと
IPCSAは、私自身が立ち上げや運営に深く関わっており、今、最も力を入れている活動です。これまで多くの農業者と触れ合う中で、IPCSAに寄せられている期待の大きさを感じております。
AgriweBを御覧になっている皆さんを含め、農業者にとって、近い将来、スマート農業とは無関係ではいられない時代がやってくると思っています。具体的に、IPCSAで何をやろうとしているのか、皆さんにどのようにお役に立てるのか、私たちが日々の運営で考えていることも含めて、次回、お伝えしたいと思います。
シリーズ『等身大の農林水産省。スマート農業への挑戦』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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