(イノチオ中央農業研究所 診断分析チーム)
イノチオグループでは1990年より農業生産者さまの支援として病害虫診断を行っており、現在は年間約1,200件の診断を実施しています。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
今回は、前回と同じく、近年発生が増加し、問題となっているアザミウマ類とハダニ類について生態と防除の際のポイントなど解説していきます。
アザミウマ類(アザミウマ目 アザミウマ科)
主な種類と加害作物
ミナミキイロアザミウマ(Thrips palmi)
野菜類:ピーマン、ナス、トマト、キュウリ、ネギなど
花き類:キク、トルコギキョウ、シクラメン、カーネーションなど
果樹類:カンキツ、モモ、ブドウ、カキなど
ミカンキイロアザミウマ(Frankliniella occidentalis)
野菜類:イチゴ、キュウリ、ナス、など
花き類:バラ、キク、カーネーション、ガーベラなど
果樹類:カンキツ、ブドウ、ナシ、リンゴなど
ヒラズハナアザミウマ(Frankliniella intonsa)
野菜類:イチゴ、ピーマン、トマト、キャベツ、キュウリなど
花き類:キク科、トルコギキョウなど
ネギアザミウマ(Thrips tabaci)
野菜類:ネギ属、キャベツ、アスパラガス、ホウレンソウなど
花き類:キク、カーネーション、トルコギキョウなど
果樹類:イチジク、カキ、カンキツなど
チャノキイロアザミウマ(Scirtothrips dorsalis)
果樹類:ナシ類、カンキツ、カキ、ブドウ、モモなど
樹木類:サクラ類、キンモクセイ、サツキ、ツバキなど
花き類:バラ類、キク、ダリア、トルコギキョウなど
【ネギアザミウマと思われる成虫と幼虫】

生態
アザミウマ類は体長1〜2mmと小さく、さまざまな作物を加害する害虫で、吸汁による直接的な被害に加えて、ウイルス病を媒介する種もいます。卵を花弁などへ産みつけ、幼虫は植物の上で、葉や花粉など餌に成長します。蛹の時期になると幼虫は土中へ移動して蛹から成虫へと成長します。
アザミウマ類は単為生殖・両性生殖を行うことができ、短期間での増殖する危険性が考えられます。
既に多くの薬剤に対する抵抗性の発達が問題視されており、薬剤が効きにくく難防除害虫となっています。
【アザミウマの生活史】
農作物への被害
農作物を加害するアザミウマ類は主に葉や新芽、新梢などを加害しますが、植物の花粉を好んで食べる種類もおり、花や果実も加害します。アザミウマ類の食害を受けた場所は組織が破壊され、残された表皮の裏が銀色に光って見える「シルバリング」がを引き起こします。
- 葉の被害
白っぽい小斑点が生じ、次第に褐色に変色。葉がかさぶた状になったり、新芽が湾曲したり奇形葉になる事もある。 - 果実の被害
がく付近の表皮が褐色のかさぶた状になったり、肥大が悪くなる。ミカンキイロアザミウマの食害の場合、実に黒いそばかす状の汚れを生じる。 - 花の被害
花弁に傷がつく、奇形になる、蕾のまま開花できないことがある。 - ウイルス病の媒介
トマト黄化えそウイルス(TSWV)、メロン黄化えそウイルス(MYSV)、キク茎えそウイルス(CSNV)など
【メロン葉の食害(シルバリング)】
【キクのえそ病(TSWV)と思われる症状】
ハダニ類(ダニ目、ハダニ科)
主な種類と加害作物
ナミハダニ(Tetranychus urticae)
多様な植物
カンザワハダニ(Tetranychus kanzawai Kishida)
多様な植物
ミカンハダニ(Panonychus citri McGregor)
かんきつ類、ナシ、リンゴ、カキ、イヌツゲなど
リンゴハダニ(Panonychus ulmi)
りんご
【ハダニ類】
生態
ダニ類は体長約0.5mm程度のとても小さな生き物で、花、野菜、果樹など多くの植物に寄生します。ダニ類は8本の脚をもつため、実は昆虫の仲間ではなくクモなどの節足動物の仲間になります。
植物に寄生するダニは「ハダニ」、「ホコリダニ」、「サビダニ」などがいますが、ハダニ類は最も多くの植物に寄生する重要害虫になっています。高温で乾燥した環境を好みます。
ハダニ類は卵→幼虫→若虫→成虫と経過します。孵化した幼虫は10日ほどで成虫となり、アザミウマ類同様に、単為生殖(雄のみ生まれる)、両性生殖(雄雌生まれる)の両方で増殖する為、短期間で大量に増えてしまう危険があります。
世代交代が早く繁殖能力も高いことから、薬剤抵抗性の発達しやすい害虫として問題視されています。
【ハダニ類の生活史】
農作物への被害
ハダニ類の被害は、植物の葉裏を吸汁し、葉に白い斑点・カスリ状の痕が発生し、植物の光合成が阻害され生育が悪くなります。
- 葉の被害
白い斑点、カスリ状の痕、多発時はクモの巣状態になる。 - 植物への被害
葉の光合成が阻害され植物の生育が悪くなる。
【スプレーギクの食害】
【カーネーション葉の食害(白いカスリ状の痕)】
農薬が効きにくくなった害虫“抵抗性発達個体”への対応策
今回紹介したハダニ類、アザミウマ類も前回紹介したアブラムシ類・コナジラミ類同様に化学農薬への抵抗性発達の問題や殺虫剤の効果低下が各地で問題となっています。
薬剤抵抗性の仕組みなどは前回のコラムをご覧ください。
前回のコラムはこちら:近年増加する害虫|アブラムシ類・コナジラミ類と薬剤抵抗性のメカニズム
イノチオでは害虫に対する薬剤感受性検定を毎年実施し、薬剤の感受性低下・有効薬剤の確認を行っております。有効な薬剤の把握とともに、これからは薬剤の効果がこれ以上低下していかないような防除提案や技術的指導を行う必要となってきます。
では薬剤に対する感受性低下を回避しながら病害虫を防除するにはどうすればよいのでしょうか。
① 薬剤の「ローテーション防除」を徹底する
前回のコラムにて薬剤抵抗性のメカニズムのひとつとして「同じ作用点・成分の薬剤を連続使用する事で抵抗性獲得個体が選抜されやすくなる」と説明しました。抵抗性発達を引き起こさない為には、防除の度に異なる系統の薬剤を選んで散布する「ローテーション防除」の実施が必須となります。
② 薬剤防除以外の方法で害虫発生を抑制し、農薬使用を最低限度に抑える。
日本の農業における害虫防除は殺虫剤の散布いわゆる「化学的防除」が中心となっています。しかし、薬剤抵抗性の発達が懸念されるようになり、「化学農薬以外の防除方法」の重要性が見直されつつあります。
- 耕種的防除:栽培方法・圃場内外の環境を調整し、病害虫を抑制する方法
・圃場周辺の雑草・植生管理
・残渣の適正な処分
・耐病性・抵抗性品種の導入 - 物理的防除:光(波長)・熱や防虫ネットなどの資材を活用し害虫の行動をコントロールする方法
・有色粘着トラップ(黄色:コナジラミ類、アザミウマ類など、青色:アザミウマ類)
・防虫ネットの展張
・光反射資材、散乱光、紫外線カットフィルムによる害虫忌避
・栽培終了後にハウス内を高温で蒸し込み処理(40℃以上を10日間以上維持) - 生物的防除:害虫の天敵となる昆虫や微生物(天敵生物)を活用する方法
捕食性昆虫:テントウムシ類、タイリクヒメハナカメムシ、タバコカスミカメ
捕食性カブリダニ:ミヤコカブリダニ、チリカブリダニ、スワルスキーカブリダニ
寄生性昆虫(寄生蜂):コレマンアブラバチ、オンシツツヤコバチ、サバクツヤコバチ
糸状菌:ボーベリア・バシアーナ、バーティシリウム・レカニ など
化学農薬とこれらの防除を複数組み合わせて病害虫を防除していく方法を総合防除(IPM:Integrated Pest Management)と言います。総合防除を実践することにより、農薬が効きにくい害虫への対策だけでなく、化学農薬に依存しない「持続可能な農業」の実践に繋がります。

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次回は【ドローンを活用した水稲防除について。カメムシ類対策】についてご紹介したいと思います。
ぜひ、ご覧ください!
シリーズ『病害虫の今!イノチオ診断室の症例から』のその他のコラムはこちら
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