スマート農業は本当に効果があるのか?
「スマート農業は気になる。でも本当に元がとれるのかわからない。」
そんな声を現場でよく耳にする。それゆえ導入をためらう経営体も少なくない。これは技術の問題というよりも、投資判断の難しさに起因する課題である。
一般に、スマート農業の効果は「収量が増える」「人件費が下がる」といった形で語られがちである。しかし実際には、それだけで投資の是非を判断することは難しい。なぜなら、スマート農業は初期投資という固定費の増加を伴い、その効果は経営規模や運用方法によって大きく変わるためである。
規模拡大を阻む“50ヘクタールの壁”
ここで重要になるのが、「どの規模であれば投資が成立するのか」という視点である。
例えば水稲経営において、一定規模までは従来の人手中心の管理で対応できる。しかし、管理する圃場数が増え、50ヘクタールを超えるあたりになると、従来の手書きや口頭指示では管理が行き届かなくなり、作業の遅れや品質のばらつきが生じるようになる。結果として単収が低下し、規模拡大がかえって収益を圧迫する状況に陥る。
この段階で経営は新たな選択を迫られる。すなわち、人員を増やして対応するのか、あるいは技術によって生産性を維持・向上させるのか、という判断である。前者は固定費の増加を伴い、経営リスクを高める可能性がある。一方で後者、すなわちスマート農機の導入は初期投資こそ大きいものの、人員を増やさずに規模拡大を実現する手段となり得る。
おしの農場が選んだスマート農業
山形県天童市の「株式会社おしの農場」では、経営面積の拡大に伴う管理負荷の増大に対し、200圃場を超える辺りからスマート農機を積極的に導入し、人員を増やすことなく経営規模の拡大と単収の向上を実現している。
その結果、作業負荷の軽減により女性や高齢者でも従事しやすい環境が整い、新たな人材の確保にもつながった。同社は、これらの成果が評価され令和7年度農林水産祭の農産・蚕糸部門天皇杯に輝いた。
株式会社おしの農場のみなさん
おしの農場の経営理念
スマート農業は規模拡大を支える経営インフラである。
このように見ていくと、スマート農業は単なる効率化の手段ではなく、「規模拡大を成立させる経営インフラ」として位置づけることができる。言い換えれば、スマート農業は「人を減らすための技術」ではなく、「人を増やさずに経営を拡大し生産性を上げるための技術」ともいえる。
ただし、すべての経営体にとってスマート農業が有効とは限らない。初期投資の大きさを考えれば、小規模経営においては投資回収が難しい場合もある。実際に、規模拡大を志向しない経営にとっては、必ずしも導入が最適解とは言えないだろう。
だからこそ重要なのは、「導入すべきかどうか」ではなく、「自らの経営において投資が成立するのか」を見極めることである。その際には、令和6年度から始まった「スマート農業技術活用促進法」に基づく認定制度などのフレームを活用し、自社の経営戦略や投資計画を整理することも有効である。おしの農場はこの認定第一号となったが、認定申請の際に「生産方式革新実施計画」を作成したことで、自社経営の将来像や活動計画が明確になったと話す。認定の本質は優遇措置ではなく、経営の未来を具体化する思考プロセスにある。
スマート農業とは、機械を導入することではない。
自らの経営において、何に投資し、どう成長するかを決めることである。
【追記】
本連載では、押野社長のご了解をいただき、山形県の「株式会社おしの農場」の取組みを事例として紹介する。スマート農業を単なる技術導入ではなく、経営改革として実践している点が非常に示唆に富むためである。連載を通じて、その実践から、これからの農業経営について考えていきたい。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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