規模拡大したのに儲からない理由
面積は増えているのに、作業は追いつかず、品質も安定しない。結果として、思ったほど利益が残らない。そんな経験はないだろうか。
おしの農場のスマート農業の場合はこうだ。現在は天童市の水田の約4割135haを管理し、水稲を中心に大豆、麦などを栽培し、従業員は7名で560筆にものぼる圃場を管理。品質も反収(1反あたりの収量)も素晴らしい成果を上げている。
そんなおしの農場だが、一夕一朝に今の管理ができたわけではない。約40年前、押野社長は就農した。経営規模は2ha。もう少し大規模な農業をやりたいと周りの農家に働きかけるもなかなか集積は進まなかった。
しかし、10年ほど前から、高齢や病気などで田んぼの管理ができない農家が増え、「田んぼを預かってほしい」という要望が増えるようになった。当時は30haほどを家族経営で回していたが、面積が50ha、200筆を超えるあたりになると、状況は一変する。
圃場が増えると何が起きるのか?
圃場が増えると、目に見えないロスが積み重なる。例えば、水管理のわずかな遅れ。防除のタイミングのズレ。見回りの不足による異変の見逃しが頻発する。一つ一つは小さなミスでも、圃場数が増えることでそれが積み重なり、品質や反収の低下につながっていく。
押野社長はこう振り返る。「当時は、周りの農家さんのご要望に応じてどんどん規模拡大していきました。圃場が100筆を超えるあたりから地図を印刷して、圃場ごとに何をしたか日誌を書いていました。しかし、次第に私の目が行き届かなくなってきました。例えば、水の管理が不十分、作業遅れ、防除の判断ミスが続発するようになり、次第に品質も反収も悪くなっていきました。」
「また、作業の管理は私がすべて指図していました。従業員はいちいち聞かないと何もできない状態でした。これでは、いろいろな所でロスが増えてしまいます。規模は拡大したが、儲からない。このままではいけないと思いました。」
仕組み化とデータ管理
令和元年、長女が就農することになったこともあり、誰でもできる栽培管理を定着させるために生産管理システムやロボットトラクターなどを導入しはじめた。若手はすんなり受け入れて、作業をやるごとにスマホに入力したが、ベテランが受け入れてくれない状態が続いた。
転機は、大手農機メーカーのクラウド型生産管理システムを導入し、圃場毎に作業を入力できるようになったころに訪れた。これまでかたくなにアプリを使うのを拒否していたベテランも、使い勝手の良さからきちんと作業記録を残すようになった。このことで、圃場毎の作業の進捗が可視化できるようになり、圃場の注意点等も共有できるようになった。
また、食味センサー付きコンバインの導入により、圃場毎の反収や食味まで明確に把握できるようになった。蓄積した圃場毎の反収や食味の結果をモニターで共有しながら、次年度の栽培計画、管理方法等を検討している。成果は明解で、水稲の反収は通常の2割向上し、大豆に至っては県平均の単収の2倍となっている。
スマート農機を導入したばかりのころから従業員は増えていないが、管理する面積は約3倍に拡大している。
生産管理システムを確認しながらのミーティング
おしの農場は圃場ごとに目標とする反収を決めている。
押野社長は、「1反に8俵とれる田んぼも、10俵とれる田んぼも手間は一緒」という。とすれば、同じ手間をかけるのであれば、デジタル技術やスマート農機を使って管理し反収をあげれば、経営が改善することになる。面積拡大=雇用を増やすとこれまでの延長線上で考えず、もしスマート農機をいれればどの程度回るか?またシステムを使うとどのぐらい管理できるか?という視点で投資判断することが重要である。
回らない原因は“変わらない管理方法”と“みえないロス”
規模拡大によって経営が回らなくなるのは、面積が増えたからではない。
管理のやり方が変わっていないから、手が回らず小さなロスが積み重なるからである。そして、もう一つ重要なのは、こうしたロスは“見えていない”という点である。
どの圃場でどの作業が遅れたのか。どの判断が反収低下につながったのか。これが把握できなければ改善はできないのである。
次回は、データを活用した経営管理の考え方について整理していく。
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