企業には希望者全員の65歳までの雇用義務がある
現在、年金支給年齢の高齢化に伴う無収入を阻止することを目的とした高年齢者雇用安定法により、事業主は、「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」または「定年の定めの廃止」により、年金支給開始年齢までの安定した雇用の確保が義務づけられており、具体的にはすべての企業に原則として希望者全員の65歳までの雇用が義務付けられています。
企業の多くは、定年時にそれまでの労働契約を一旦終了し、新たに有期雇用の嘱託社員として、現役時代より低い賃金で雇用契約を締結する継続雇用制度を導入しています。
定年後再雇用されたトラック運転手3人が、定年前と同じ職務にもかかわらず3割程度賃金を下げられたのは違法として定年前と同じ賃金を支払うよう横浜市の運送会社に求めた裁判の判決が5月13日にあり、佐々木宗啓裁判長(東京地方裁判所)は、賃金引下げを労働契約法第20条に違反し無効とし差額約415万円を支払うよう同社に命じました。
農業においても雇用実績が豊富な法人等では、定年年齢を60歳(またはそれ以上)として、定年後も雇用を希望する者を再雇用する例は多く、今回の判決の影響を受けるケースがあることも予想されます。
労働契約法第20条とは
労働契約法第20条は、同一の使用者と労働契約を締結している、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることを禁止するもので、一切の労働条件について、適用されます。具体的には、賃金や労働時間等の狭義の労働条件だけでなく、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生など、労働者に対する一切の待遇が含まれます。
労働条件の相違が不合理と認められるかどうかは、①職務の内容、②当該職務の内容および配置の変更の範囲、③その他合理的な労使の慣行などの諸事情等、を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されます。とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、①〜③を考慮して、特段の理由がない限り、合理的とは認められないと解されます。
判決のポイントは
被告の運送会社では、正社員と嘱託社員の賃金体系が異なり、正社員には役付手当や運転する車種に応じて支払う職務給、賞与などが支払われていましたが、嘱託社員にありませんでした。原告3人は、定年退職後、有期雇用契約の嘱託社員として再雇用されましたが、職務内容などには変更はなく、このため定年後再雇用の嘱託社員と正社員の間に不合理な労働条件の相違があり、これが期間の定めがあることによる不合理な労働条件を禁止する労働契約法第20条に違反するとして訴えたものです。被告企業側は、「労働条件の相違は定年後再雇用のため設けており、期間の定めがあることが理由ではない。同法は適用されない」と主張しましたが、正社員と嘱託社員は実際には同一の職務内容であり、賃金に相違を設けることは、差の程度にかかわらず、特段の事情がない限り不合理として同法違反であると判示しました。また同地裁は、高年齢者雇用安定法で雇用確保措置が義務付けられ、そのために定年後継続雇用者の賃金を引き下げること自体には合理性が認められるとしましたが、職務や配置の変更の範囲に変更がないのに引き下げることは、社会通念上相当なものとして広く受け入れられている事実はないとし、被告の再雇用制度は賃金コストの圧縮の手段としての側面があると指摘、そのことを正当と解することはできないと一蹴しました。
再雇用の労働条件はどうすればよいか
定年後に有期労働契約で再雇用する場合においては、労働契約法第20条を考慮せざるを得ません。したがって、職務の内容や責任等に変化がなければ賃金を低下させることは違法となります。企業の多くは、定年の前後で職務内容を変えたり、労働日数や労働時間を少なくしたり、また、役職を解いたりといった方法等により労働条件を変更し、一般的には低下した労働条件に合わせ賃金を低下させており、このようなケースでは特段の事情がない限り不合理とは認められないと考えられています。
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