今回は、会社の現状を知らないままに会社を継いでしまった後継者が、その後10年間に渡って苦労した事例を紹介し、どう考え、どう行動すればよかったのか、について解説していきます。
事業承継の事例
A社の経営者Bさんは現在50歳。10年前に父親である社長が倒れたのをきっかけに事業承継をすることになったが、当時はA社に入社して従業員として働いてはいたが、経営は初めてであることに加え、突然の事業承継で右も左もわからない状態でした。
事業承継をしてからの10年間は、苦労の連続で、いつ辞めてもおかしくない状態、暗黒の10年だったのです。
様々な苦労がありましたが、主な事業承継をしてからの苦労を挙げると以下のようなことがありました。
- 事業承継後に、会社に多大な借入金があることがわかり、この10年は借金を返すことのみを考えてきた。
- 事業承継をしてから、年々売上高が減少していった。事業が陳腐化して勝ち戦のできない事業になっていることに気付くまでに時間がかかり、事業の立て直しに数年を要した。
- 事業承継をしてから、いままで見えていなかった社員の問題行動がわかったが、どう変えて良いのかもわからなかったので組織を変えていくのに5年はかかった。
- 事業承継をしてから、法令違反をしている業務が発覚し、ペナルティを受け、周囲の信頼回復のため10年を要した。
他にも小さいことを言えばきりがないですが、代表取 締役になって10年は苦労している記憶しかありませんでした。
こんなはずじゃなかったのです。
事業承継をする前までは、自分が経営することが楽しみでしたし、夢も持っていました。
ただ、会社の現状を知らな過ぎたのです・・・・
継いでから継いだことを後悔することも多々ありました。
解説
Bさんは、10年前の事業承継の際に、どう考えて、どう行動すればよかったのでしょうか?
当然のことですが、経営者は会社の現状を知らずに経営をすることはできませんし、また、継ごうとする会社の状況を知らずに事業承継を進めてしまうこと自体が、大きなリスクとなります。
後継者は事業承継する時、承継する会社を「乗っ取っていく」という考え方で、自身が経営するために会社の状態を把握する必要があります。
また、事業承継後に経営上の問題点が発覚すると、そこから後手後手で対処することになってしまい、結果その対処に忙殺され、本来すべき未来に向けた経営が出来ずに10年間ほどの時間を損してしまう可能性があるのです。
会社の現状把握をしないで事業承継をすると発生し得る主なリスク
では、具体的に現状把握をしないで事業承継をしてしまうと、どんなリスクがあるのでしょうか。
主なものをまとめました。
1 後継者が経営者になる覚悟がない状態で事業承継をしてしまう
いくらやる気があったとしても、会社の現状を知らずに経営者となる覚悟は生まれないものです。
例えば、借入金がいくらあるのかを知らないのに、本気で経営者になる覚悟はできないと思います。
また、本物の覚悟がないままに事業承継をしてしまうと、やる気は続かず、結果として「こんなはずじゃなかった」と後ろ向きになり、やりたくない経営をすることになってしまう可能性があります。
2 事業が負け戦になっていることに気付かない
事業や商品は、当たり前に売上が続いていくものではありません。事業承継時に今の事業が今後何年続いていくのか、負け戦になっていないか、しっかりと市場と自社の現状を見据えていなければなりません。
事業承継の後で事業が負け戦になっていることを気づいたのでは、経営者になってから事業を見直していくことになってしまい、手遅れになってしまう可能性があります。
3 財務状況が最悪な状態かもしれない
決算書は見たことあるが、内容については詳しく把握していない後継者は結構いらっしゃいます。
借入金の内容や連帯保証の状態、実際の資産状態の詳細などを把握して、真実の財務状態を見てみると会社は決算書で見えているよりも最悪の状態かもしれません。
また、事例のように借入金の残高すらも知らないで事業承継をすることもあったりして、借入金の返済を含めた財務状態の立て直しに追われてしまう可能性もあるのです。
4 コンプライアンス違反があると責任を負うのは経営者
会社に法令違反があった場合、その責任を負うのは経営者となります。過去に賞味期限偽装の問題などありましたが、先代経営者の時代から慣習的にやっていた業務であっても、法令違反が発覚して責任を負うのは当代の経営者となりますので、法令違反を放置している、もしくは見えていないのは大きなリスクなのです。
これも表沙汰になった場合、信頼を取り戻すには数年かかりますし、最悪の場合、会社を倒産させてしまいます。
5 知らない株主がいる
誰が株主なのか、詳細を知らずに事業承継をすることもあり得ます。
株式(権利)が分散していることによって、経営を進める上での障害になるのはよくあることです。
例えば、突然株主と名乗る男が乗り込んできて「決算書を見せろ」と言ってくるかもしれません。株主が結託して、経営者を退任させられるかもしれません。また、親族間で権利の奪い合いになるかもしれません。
株主はだれか?相続でだれが引き継ぐのか?事前に把握をしたうえで手を打って置かなければ、大事になる可能性があります。
後継者は、上記のようなリスクを踏まえて、自らが経営していくことをしっかりと考えて、会社の現状を徹底的に把握していくことが大事なのです。
現状把握の進め方について
ここからは、現状把握を進め方についてポイントをご紹介します。
1 資料・書類を集める
まずは、現状把握をするために会社の現状を把握するための書類や資料を集めます。無い資料は作成します。
M&Aをするための書類リストなどを参考にして書類を集めるとよいと思います。
2 自社の現状把握をする
次に、集めた資料を整理して、徹底的に現状把握をしていきます。
現状把握は、自社の隠れた問題を明らかにし、自社の価値と可能性を明らかにするために行います。
現状把握は、デューデリジェンスとも言います。
具体的には、大きく3つの視点で実態を把握していきます。
(1) 財務の現状把握
財務の実態を把握して、 財務状態を分析し、 会社の健康状態の見える化をしていきます。
例えば、実態BS・実態PL・資金繰り・個人との貸借等について実態を把握します。
(2) 法務の現状把握
会社の土台である株式やコンプライアンス、法務のリスクを正確に把握していきます。
例えば、株式・契約・許認可・コンプライアンス・紛争等の状況について実態を把握します。
(3) 事業の現状把握
今やっている事業が どれだけ勝ち戦を続けていけるか把握していきます。
例えば、市場環境・顧客・商品・競合・SWOT分析等について実態を把握します。
3 対策を検討する
現状把握をしたら、隠れた問題に対する対処や未来の可能性に向けた課題に対して、対策を検討して実行していきます。
具体的な現状把握(デューデリジェンス)の方法については、別途ご案内したいと思いますが、後継者が現状把握をしないで、事業承継をしてしまう怖さはイメージしていただけたかと思います。
これを機に気づきがありましたら、ぜひ徹底的に会社の現状把握をしてみてください。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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