突然ですが、牛肉はお好きですか? すきやき、しゃぶしゃぶ、焼肉にステーキ、ご馳走と呼ばれる料理によく登場する牛肉ですが、日本には「神戸牛」「松阪牛」「近江牛」「米沢牛」などの高級和牛ブランドが存在します。海外では、日本食レストランなどで提供され、また昨今増え続ける訪日外国人観光客も、日本滞在中に高級和牛を食べてみたいという人も少なくありません。今回は、海外のソーシャルメディア(SNSやブログ、電子掲示板など)からこの和牛が海外でどう認知をされているのか、国によって違いがあるのかなどを探っていきたいと思います。
1.日本の和牛と海外のWAGYU
まず、日本と海外の和牛について触れておきたいと思います。
私たち日本人が、和牛と聞くと日本の牛、日本の牛肉というイメージがあるのではないでしょうか。確かに日本で流通する和牛は日本産ですが、海外で表現される和牛(WAGYU)の中には、海外産も含まれるため、必ずしも和牛=日本産というわけではありません。 和牛とは品種のことを指す言葉であり、その定義としては、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種の4品種とその品種間の交雑種の牛が和牛とされています。日本国内においては、農林水産省のガイドラインや精肉業界の公正競争規約などが存在するため、基本的には日本産が流通していますが、海外では同様の規制・ルールが存在しないため、日本産でない海外産の“WAGYU”が流通しているのです。
こうした海外の“WAGYU”の流通背景には、諸外国による日本産和牛輸入禁止措置が理由のひとつとしてあげられます。日本の和牛輸出は、1990年代から始まりましたが、2001年に日本国内でBSEが発生したことで、各国で輸入禁止措置が取られました。(現在では29カ国へ輸出がされています)この輸入禁止措置がとられていた10年以上の間に、日本から輸入されていた和牛が現地で交配を重ね、海外産“WAGYU”の生産が続けられました。特に、アメリカ産やオーストラリア産の”WAGYU”はアジアやヨーロッパにも輸出され、世界に広がっていきました。現在、日本産和牛が輸入解禁された国々では、日本産なのか海外産なのか分からない“WAGYU”が流通し、“WAGYU”の高級牛肉というイメージを利用して販売されているケースもあります。そのため、海外においては、「和牛=日本の牛肉」というわけではなく、海外産の”WAGYU”が消費されているのです。
こうした背景があり、良くも悪くも海外では一定の認知度がある和牛ですが、海外のソーシャルメディアではどのくらい話題にされているのでしょうか。日本の高級和牛ブランドとともに比較して見てみたいと思います。
2.高級ブランド和牛、最も話題にされているのは?
今回、「和牛」と「神戸牛」「松阪牛」「近江牛」「米沢牛」の4つの和牛ブランドに関してソーシャルメディア上の投稿を調査しました。検索キーワードは英語で作成し、期間は2017年7月1日から9月30日までの3か月間、対象言語は英語、地域は日本以外の世界各国としています。
表1はその結果を表したもので、1番投稿量が多いのは「和牛」(10,792件)であり、和牛ブランドの中では、群を抜いて「神戸牛」(9,597件)の投稿量が多い結果となりました。その他の和牛ブランドは「松坂牛」(208件)が投稿されているものの、「神戸牛」と比較して投稿量が少ない結果となっています。
最も大きな話題の盛り上がりが見られたのは、7月26日の「神戸牛」の投稿で、「The MOST EXPESIVE BEEF in South Korea: Hanwoo Beef VS. Kobe Beef(韓国で最も高価な牛肉:韓牛対神戸牛) 」(注1)という内容の動画に、多数のコメントが確認できます。内容としては、アメリカ人の投稿者が、韓国で韓国産「韓牛」を食べ、日本で食べた神戸牛とどちらが美味しいかをレポートするという動画が投稿され、コメントでは、「神戸牛は過大評価されている」「最近日本の和牛を食べたけど高くてたいしたことがない」などネガティブな意見が見られる一方、「日本で食べたのではないのならおそらく偽物のWAGYU(神戸牛)かもしれない。」「アメリカやオーストラリアで育った和牛が偽神戸ビーフとして出されていたのを食べたのでは?」という視聴者同士のやり取りが確認できます。
投稿量を比較した結果、「神戸牛」と「和牛」が同じくらいの投稿量があることがわかり、一方で、他の和牛ブランドの投稿量は少ないという結果となりました。また、コメントのやり取りからは、海外では日本産ではない和牛が出回り、和牛の評価を落としているような投稿も確認でき、和牛を取り巻く海外の人々の反応が見えてきました。
3.和牛と神戸牛、ソーシャルメディア上の国別投稿と輸出状況を比較
次に、ソーシャルメディア上の投稿と日本からの輸出状況を比較したいと思います。表2は、検索結果の件数の多かった「和牛」と「神戸牛」の投稿数を国別に分けたものです。(上位7か国)どちらもアメリカ、イギリス、カナダ、シンガポール、マレーシア、中国といった国が上位にあがっています。一方、輸出状況を見てみると、農林水産省の発表(注2)では、2016年の牛肉の輸出先上位国は、香港、カンボジア、アメリカ、シンガポールとなり、輸出量全体の75%を占めています。アメリカとシンガポールに関しては、日本産和牛が現地にも流通していていることから、ソーシャルメディア上でも投稿されていることが分かります。一方で、中国とマレーシア(2017年11月より輸出解禁)は、データ対象期間において日本から牛肉が輸入されていないにもかかわらず、投稿が確認できます。
投稿を詳しく見てみると、マレーシアでは、Lowyat.netという掲示版で、神戸牛と和牛の違いに関するやり取りや、神戸牛の評価、日本で神戸牛を食べたいという内容の投稿が見られました。また中国でも、様々なメディアで、神戸牛を食べた、神戸牛を食べたいといった声を確認することができます。中国とマレーシアでは日本産の神戸牛が輸出をされていなくとも、神戸牛に一定の認知度とニーズがあると投稿の内容から推測できます。また、オーストラリアにおいては、現地のレストランやバーベキューなどで和牛を食べたという投稿がみられました。オーストラリアでは、現地で生産された”WAGYU”が流通し、消費されている様子がうかがえます。
実際の輸出状況とソーシャルメディアの国別投稿を比較すると、日本産和牛を輸入していない国々でも投稿されているということが分かりました。今回取り上げていない国においても、似たような現象が確認できるかもしれませんね。
まとめ
今回は、ソーシャルメディア上の和牛と和牛ブランドに関する話題を見ていきました。海外では、神戸牛が高級ブランド牛の中で最も認知されている一方、その他の和牛ブランドはそれほど話題に上っておらず、認知度向上の施策が必要になるかもしれません。
また、中国、マレーシアなど日本産和牛が流通していない国でも話題が見られました。すでにソーシャルメディア上で認知をされている国で輸入が解禁されれば、消費者に広く受け入れられる可能性があります。しかし、オーストラリアのように海外産の“WAGYU”が現地で広く流通している場合は日本産和牛との差別化が課題となってくるでしょう。
農林水産省は、2019年の牛肉の輸出額の目標を250億円(4,000トン相当)とし、牛肉の輸出額を伸ばすべく、日本産牛肉の輸入が禁止されている各国に対して、輸入解禁を積極的に働きかけています。今年9月には台湾、11月にはマレーシアで日本産牛肉の輸入が解禁されており、今後、ますます日本産の和牛が世界に流通していくことが期待されます。個人的には、ソーシャルメディア上で和牛の話題が見られたマレーシアで、輸入解禁後どう消費者に受け入れられるか気になるところです。
世界の人々が日本産和牛の美味しさを知り、日本産の和牛ブランドを世界にもっと広めていきたいですね。
参考資料
(注1)
YouTube動画
Strictly Dumpling「The MOST EXPENSIVE Beef in South Korea: Hanwoo Beef VS. Kobe Beef」
https://www.youtube.com/watch?v=FxOtUvFiT4I#z13tjlzoitjuunvas04cefsrgtb2unmyy5o.1501101782943458
(注2)
農林水産省「平成29年度全国家畜衛生主任者会議 資料4 牛肉等畜産物の輸出について」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/shuninsha/attach/pdf/h29-16.pdf
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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