余剰品は女性目線の提案、希少品は外国語での情報発信
農林水産物・食品の輸出額は7000億円を突破し、順調に成長しています。ただ生産者の皆様にはどう対応すべきか分からないことが多いと思います。世界の事例では協業で市場調査し有利な出荷先を見つけ、余剰品をロットで輸出するのが一般的です。例えばアメリカの柑橘生産組合が母体であるサンキストはかつてレモンの余剰に悩んでいました。海外の市場調査したところ、レモン非生産国の日本市場が有望だと判明します。特に女性が新しい価値を求めて紅茶のティーバッグの消費量が大きく伸びている点に着目し、女性週刊誌にお洒落で新しい飲み物としてレモンティーを提案することでブームとなり輸出は大成功を収めます。成功要因は消費価値に敏感な女性向けの提案を行い、共感を得ることなのです。
一方、品評会向きの希少品・伝統物産品は美的価値が認められれば世界中から買い付けに来るものです。例えば埼玉県の盆栽はベトナムで人気があり、新潟県の錦鯉は香港などに多く輸出されています。美味な旬のブドウ・モモなどの高級果物もよいでしょう。これらは個人商店でも英語や中国語のホームページで世界と繋がることができます。ポイントは決済は必ず前金制か国際カード決済にすることです。
なぜおにぎりではなく回転寿司が海外で普及するのか
さて世界的な日本食ブームと言われる一方で、海外にはそれぞれ固有の農業と食文化があります。だから日本人が連想する伝統的なスタイルではなく、現地のニーズと融合して普及するのが普通です。例えば回転寿司は健康志向のサラダ感覚で食されており、日本人には「ご飯のサンドイッチ」といったほうがわかりやすいような別のスタイルであり、洋の東西を問わず世界中でこのような回転寿司店が盛況です。他方日本人が多く消費するおにぎりがあまり普及ないのはなぜでしょうか。
これを掘り下げるため日本と世界の回転寿司を簡単に比較してみましょう。
①ハード
ハードの比較ではかつて日本に上陸したレモンティーと同じで、女性が好むデザインになっています。日本人の伝統食は外国では斬新でお洒落な食べ物なのです。
②商品性
寿司がおにぎりより普及した理由は商品性です。海苔巻きは金太郎飴方式で具材が見える上に規格大量生産しやすく、視覚性と作業の「見える化」が重視される海外には都合がよいのです。
③食材
食材は健康志向と安全性重視です。米のサラダとして天然素材で酢飯ができると微生物リスクを軽減できて好都合です。実際日本でもおにぎりはpH調整が難しく、家庭は傷ついた素手で作りがちであり食中毒の常連です。また昔から食される地域の素材を具に使ったほうが早く馴染みます。日本でも従来は魚が入るのは海の側だけで、未だ農村部では山の幸が入ったスタイルが中心です。
④ソフト
ソフトがサプライチェーンマネジメントの導入に都合がよいのです。コンベアで店内物流が合理化される上、ITの活用でチャンスロスと在庫ロスが減少します。また海外の都市部では既に事務職より担い手が少ない皿洗いなどの従事者の給料は倍以上と高いので、こうした機械化・IT化は日本より導入されやすいのです。また皿の色で価格がわかる明朗会計も安心です。このように比較して要素を取り上げてみると、嗜好性より合理的な理由で寿司が普及したことが浮かび上がってきます。
回転寿司を呼び水にする農産物加工戦略を
農産物の海外展開は実績が伸びているナガイモ、カンショが有望です。それ以外では回転寿司を呼び水にして加工産業化で対応すべきではないでしょうか。例えば日本茶は戦略品目として既に輸出額は50億円と5年で150%成長です。アメリカ以外の市場開拓には輸出用GAPの取得など安全性の担保に加え、回転寿司との関連した抹茶の加工品や茶由来の抗菌商品でさらに伸長するでしょう。成長率で見ると食酢の輸出額は16億円ですが過去25年で9倍に伸び、既に輸入額を上回っています。海外は日本のように淡麗を好むわけではないので、醸造用アルコール用入りではなく余剰米と酒粕を原料にして健康志向の提案をしていくべきしょう。最後に可能性ではワサビが面白いと思います。肉にも油にも相性がよく、その抗菌効果や機能性を中心に啓蒙訴求して高級品(根部・花)、汎用ペースト(葉茎)、抗菌フィルムなど用途に合わせて輸出すれば普及しそうです。もっとも国内市場が輸入のホースラディッシュ粉末で満足しているのも問題で、消費者啓発と振替需要に対応した中山間地への生産振興に注力すべきでしょう。
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