農業におけるITとロボティックス活用の最前線
今回より本コラムコーナーで、農業におけるデータ活用の最新事例や今後の動向について紹介させていただきます。
凸版印刷がなぜ農業ITに取組するのか?グローバルでの人口爆発や既存の慣行農法の弊害による土壌や病害虫、耐性菌などの課題。農業生産の超大規模化や日本においては農業の担い手の急減など、既存の農業の生産体系は持続可能ではありません。次世代の農業生産体系を確立すべく新たな事業ドメインとして食や農の先端的な取組を進めています。凸版印刷はその名のとおり、印刷会社。これまで、出版社、メーカー、小売、サービス業や自治体様あらゆる情報を印刷という技術でパンフレットや冊子、Web、など生活者の方々に届ける形にすることを生業としてきました。現在、それらの技術、ノウハウを活かし、農業における多様な情報を生産者の方々が活用できる仕組みづくりを進めております。PLANT DATAは愛媛大学発のアグリテックベンチャー。コンピューターが社会実装され始めた1970年代に提唱された植物生体情報活用の基礎概念「Speaking Plant Approach」、植物の生育状態のデータ化を起点に栽培管理を合理化するというコンセプトです。愛媛大学が研究、開発している多元的な植物生体計測と活用のためのハード、アルゴリズム、ソフトウェアをサービス化し、生産者の方々に届けています。我々は各々の要素技術とシステムを組み合わせ、農業現場におけるデータ活用のインフラ構築をコンソーシアムを組み進めています。本コラムでは、我々のつくる先端のソリューションと、農業現場におけるデータ活用の最前線を紹介します。少しでも皆様の農業生産の更なる発展に寄与できますと幸いです。
多くの現場で行われているテープメジャーを使った生育情報の記録
アグリテックの現状と課題
農業へのデータ活用などITやAIの適用、ロボティックス活用については、農業ICT、精密農業、アグリテックなど様々な表現でのメディアでの報道や取組が知られるものの、社会実装という観点では現状は限定的です。
植物生理学の知見の不足、商業的な農業生産においてデータ化する目的や現場での課題や栽培管理への活用方法、現場業務に負担をかけない計測手法や経済合理性の検討が不足しているためです。
一方、そうした取組を通じて蓄積されたデータの一部には、現象の説明や予測のためのモデル構築に有用なもの存在し、そうした過去データの分析と網羅的な植物生体情報と外的環境のデータ化対象の精査と新規取得が始まりつつあります。
植物栽培の合理化には、純光合成の最大化だけではなく、光合成によってできる光合成産物の分配状況の見える化と管理が極めて重要です。この、花や果実などの子作り(生殖成長)と、茎や葉などの体作り(栄養成長)のバランス(草勢)を見える化し管理するサービスがPLANT DATAが提供するサービスの1つである「生育スケルトン」。
例えばトマトの場合、茎頂から50cm以内の特定部位をテープメジャーやノギスを使って計測する簡易的な生育調査が世界中の施設園芸において行われています。しかしルーチンが忙しい生産者がデータの羅列を眺めても、生育状態の特徴を捉えることは困難です。
生育スケルトンは、個々のデータに強調変数をかけてインフォグラフィック化することで、生育状態の特徴を直観的に把握できるUIです。これにより自分の植物体の経時変化を追えるだけではなく、同じエリアで同じ品種を栽培する他の生産者との比較。また、目指す草勢を理想個体として目標設定し、週次で行われる計測との乖離を数値評価しコメントを生成するサービスです。これは、生産者を管理したい複数のJAなどにより、JAの要求品質を満たす草勢の設定と管理を目的として導入されつつあります。
計測した記録用紙をスマホなどのカメラで撮影し、メールで送ることで、1営業日中にPDFでレポートを生成します。現在、PDFによるレポートからWebインターフェイスによるサービス提供に形態を移行しており、スマホやパソコンからのデータの直接入力できるインターフェイスも近くリリース予定です。
先端の網羅的データ計測、分析、活用プロジェクト「ai tomato」
我々の取組の1つに、「ai tomato」というプロジェクトがあります。
植物自体の多元的な植物生体情報、栽培設備内の作業員の作業記録や動線の把握、作業品質のディープラーニングによる評価、従前から取得されている環境情報など、植物を取り巻く要素を経済合理性を満たす限りデータ化し、網羅的にAIで分析。
管理判断の出力や、環境制御システムへのフィードバックによる自動化や省資源化、生育制御による経営リソースの効率的活用などを目標としています。データ計測や記録も自動化を目指します。
ですが、当初より、人による判断や作業をいきなりAIやロボットに代替する訳ではありません。異常検知によるアラートや判断の選択肢のリコメンドなど、計測、分析、活用を段階的に省力化、自動化へと移行して行きます。
我々は、分析対象や分析の目的に応じて、異なるAI技術を適用します。現在AIというトレンドが再び発生している大きな要因であるディープラーニングというブレークスルー。現状ディープラーニングは時系列データの処理に関しては、その効果が期待し辛いことから、まずは人が仮説を与える古典的なAIにより分析を行い、ディープラーニングは画像処理による収量予測などと可能性調査に留め、4〜5年目には、人が仮説を与える分析と機械が自ら学習する分析の合理性を実データで検証します。
大規模化する栽培設備は、人が観察するために移動するだけでも大変な労力です。また人による観察と主観による判断には、思い込みや期待や希望などによりその判断の不安定性や属人性は非常に大きな課題です。
ai tomatoが実現する次代の農業生産体系
当プロジェクトは農水省「人工知能未来農業創造プロジェクト/AIを活用した栽培・労務管理の最適化技術の開発」に採択され、参画機関7社、協力機関を入れると18事業体のコンソーシアムにより、5カ年の計画で進められています。雇用労働時間を10%以上削減する大目標と、管理判断の出力や環境制御システムの自動制御などデータ活用に関し、複数のシナリオと小目標を設定し、必要なハードウェア、アルゴリズム、ソフトウェアの実装を進めます。
ai tomatoにより構築されるソリューションは、モジュール化され、必要な機能のみを利用できるようサービス設計。現行の農業生産にある属人性の排除や工程管理の見える化、自動計測や制御を通じ、農業の産業化と参入障壁の低減を実現します。
データは、生産工程だけではなくバリューチェーン全体で活用されるべきです。例えば流入流出人口や気象予測、ID-POSなどを元にした需要予測や販売計画など、加工、物流、流通、再資源化の各工程の合理化と質、時、量、値の4定や収穫物の生産履歴まで参照できるトレーサビリティの実現などに寄与するものです。
既に商業的に大規模な農業生産を行う生産者の圃場にて、ビジネスとして経済合理性を満たす実装
今回は、ITやロボティックス活用の先端的な取組の現状と目標の概略をお伝えしました。次回以降、具体的な計測技術や
今回は、データ活用の最前線ということで、データを活用することとは?、活用するための最新の事例を紹介させていただきました。次回は、もう少しデータ活用の詳細を皆様にお伝えするために、「ai tomato」がどんな計測技術を用いて多くのデータを得るのか、またどんな解析をしようとしているのか、ご紹介したいと思います。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日