1.増加続く農産物輸出
農林水産省は先日、今年6月までの農林水産物の輸出実績を公表した。我が国の農林水産物・食品の輸出は、平成27年には7,451億円と、3年連続で過去最高を更新。今年1〜6月は、前年同期比2.1%と伸びが鈍化したものの3,622億円と、増加はなんとか維持した。鈍化の原因はホタテやサンマの不漁が大きいが、一方でブドウやサツマイモは昨年同時期に比べほぼ倍増、コメやリンゴ、イチゴも40%ほど輸出額を増やした。今年1月以降、円高が急激に進んだことを考えると、健闘していると言って良く、海外における日本産食品の人気の底堅さを感じさせる結果だった。
政府は8月に纏めた経済政策で、食品加工施設や卸売市場などを海外への輸出基地として整備、輸出に関わる手続きを簡素化したり、農業者のサポート体制を築くなどして、さらなる輸出の拡大を目指している。
2. 地域の伝統食品に注目を
国内の産地では、日本人特有の鮮度志向や他の国にはない品質の高さもあって、農産物を生鮮で出したいとの希望は強い。しかし長距離での輸送や、コールドチェーンが十分整備されていない東南アジアのことを考えると、産地としては生鮮よりも加工食品に目を向けたい。 幸い日本には、土地に根ざした様々な伝統食品がある。
愛知の八丁味噌など地域の伝統食品製造業者が共同で出資設立したテロワール・アンド・トラディション・ジャパンは、国内の伝統食品をフランスや中国、台湾など各国に輸出する取り組みを進めている。取り扱う品目は、八丁味噌の他、飛騨の山椒や、沖縄の黒糖など昔ながらの手法でつくる伝統食品ばかり。取引も地域の食材を大切にするという価値観を共有する相手とだけだ。現地小売りと直接取引を行い、中間業者を排除することで価格を安く抑えることが出来、取引は広がっているという。
写真:八丁味噌の仕込み
3.取引先と価値観を共有する大切さ
注目したいのは、こうした伝統食品に価値を見いだす取引相手が、どの国にも一定数存在することだ。世界的に大規模店舗を展開するカルフールは、フランス国内ではフランチャイズで高級食料品を取り扱う店を抱える。フランチャイズをまとめる同社の社長は、フランス国内で開かれた展示会で、日本の伝統食品を目にし、ブルターニュの店舗での専門コーナーの設置を決めたという。
もちろん日本の伝統食品なら何でも良いと言うわけではない。そもそもテロワール・アンド・トラディション・ジャパンという会社、厳選された地域食材を原料とし、伝承した伝統の技で製造した食品を、農林水産省の補助事業「本場の本物」として認定された事業者が中心となって作った会社だ。名前にテロワール(風土)とトラディション(伝統)をつけたことでも分かるように、扱う商品が一定の品質を守り、土地に根ざした伝統的な技術で作られた食品ばかりなのだ。
写真:カルフールでの様子
4.地域が一体となれるか
農林水産省も、地理的表示制度などを整備して、地域と強く結びつく農産物や伝統食品を守る取り組みを応援する。問題は事業者同士の連携だ。農林水産省の地理的表示にしても、特許庁の地域団体商標にしても、地域ブランドを立ち上げるためには、複数の業者が食品の定義を共通化しなければならない。漬物であれば、原材料や桶などの容器、仕込みの時間や味付けに何を使うのかなど。こだわるのであれば、原材料の産地や時期、桶は木製などと、共通化するところは限りなくある。しかし、どの事業者も自らの作り方にこだわりを持つ。本家だの元祖だのと主張しあい、ほとんど纏まらないのが実態だ。
農林水産省が推進する地理的表示が、発足して1年経つのに全国で14認定に過ぎないのは、こうした業者間の調整が難航し、地域の合意が得られないことが背景にある。
5.輸出増のカギは加工品か
ただ、世界を見ても、生鮮品が輸出の主力になっているのはバナナやオレンジ、キウイくらい。フランスのワインやイタリアのパスタ、オリーブオイルを引き合いに出すまでもなく、先進国は多くが加工品が主力だ。政府の輸出戦略も、2019年の目標額1兆円のうち半分を加工食品が占める姿を描いている。
政府は輸出戦略と共に、6次産業化を進める。しかし新たな食品を開発するよりその地域で昔から作られている、伝統食品の方が生産者にとっても取り組みやすい。地域で一定のまとまりが必要なら、JAなど農業団体の出番だろう。世界で続く日本食ブームを考えれば、付加価値を見いだしにくい生鮮食品より、地域性を強くアピールできる伝統的な加工食品を手がける方が反響は大きいと思うがどうだろうか。
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