通勤といえども場合によっては雇用主が責任を負うことも
農業法人等で雇用されている者の多くがマイカーによって通勤しています。もし、自社の従業員が通勤途上に第三者の身体や財物を傷つけるような事故を起こした場合、雇用主も損害賠償義務を負うようなことがあるのでしょうか。例えば、従業員が自動車による通勤途上に歩行者をはねたようなケースです。
従業員の通勤途上の事故について雇用主は責任を負わないのが原則ですが、その実態によって、会社等の使用者責任を認める判例もあります。自動車は従業員の所有のもので、この自動車を業務に使用することがなく、雇用主が駐車場を貸すなどの便宜も与えていない場合には、原則的に雇用主に責任が生じることはないでしょう。
ただし、雇用主が仕事で従業員の自動車やバイク等を利用させて、その分のガソリン代を出していたりすると、たとえ通勤途上の事故であっても雇用主が責任を負うことがあります。
マイカー通勤者のマイカー情報等を管理する
このように従業員のマイカー通勤は雇用主である事業主もリスクを負っています。したがって、従業員がマイカー通勤をする際は、事前に従業員から通勤に使用する自動車等の情報を入手しておきましょう。
入手する情報は、①自動車免許証のコピー、②車検証のコピー、③自動車保険の保険証券のコピーです。また、万一に備えて「道路交通法その他の関連法規を遵守して安全運転に努めます。万一、交通事故・事件を発生させたときは、私の責任で一切を処理し、会社に迷惑をおかけしないことを誓約いたします。」等の文言を記載した誓約書もとっておきましょう。
自動車任意保険の加入は絶対条件
例えば、マイカー通勤者の自動車やバイクに保険が付いていない場合、最終的に資力のある雇用主が賠償しなければならなくなるという可能性もあるため、自動車任意保険の加入をマイカー通勤者に課してください。
特に、原付自転車の場合は、車検制度の適用を受けないため、自賠責保険が切れてもそのまま乗り続けてしまうということも考えられます。したがって、原付自転車の場合には、自賠責保険の加入状況を必ず定期的に確認してください。
また、業務使用を認めてしまうと、雇用主は事故における責任の回避が困難になります。
例えば、従業員が業務に自分の通勤用のバイクや自動車を使用し、雇用主も業務使用を容認している場合、もし事故が起これば雇用主も責任を負うことになります。マイカーの業務使用を禁止していても、これに違反している者を放置している場合は同様となるので注意が必要です。
通勤災害において雇用主は災害補償義務を負わない
雇用主は、従業員の仕事中のけが等に補償責任を負いますが、通勤途上のけがに対しても補償責任を負うのでしょうか。例えば、従業員がバイク通勤中に転倒してけがをしたような場合に事業主が治療費負担等の補償責任を負うのでしょうか。
労働基準法では、雇用主に対して様々な災害補償義務を課していますが、これはあくまでも労働者の業務上の負傷に対してです。したがって、従業員が通勤途上に災害にあっても雇用主が治療費等の補償義務を負うことはありません。
ただし、通勤は、労働者が労務を提供するための不可欠な行為であることから、労災保険において通勤災害は、業務災害と同様の保険給付が行われます。
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