前回のコラム 【管理サイクルを変える】前編では、管理指標を運用する上でポイントとなる管理サイクルについて解説した。
今回の後編では、適切な管理サイクルを見極め、経営と現場を管理して成果につなげたA社の事例をもとに管理サイクルの重要なポイントを解説する。
適切な管理サイクルで運用する
適切な管理サイクルは、経営形態や経営方針、組織体制、農作物の栽培サイクルによって、異なってくるが、自社の特性にマッチした管理サイクルを見極め、運用することが重要となる。
実際のJMACのコンサルティング指導を通じて、管理サイクルを構築し、運用して成果を出した事例をもとに、ポイントを解説する。
A社は、ビニールハウスで葉物野菜を周年栽培・出荷しており、従業員は20名、圃場の管理者1名、包装出荷の管理者2名の組織体制で、播種〜収穫の栽培サイクルは、20日〜50日、1ハウスで年7〜8回作付している。
これまでのマネジメントは、年1回の年度方針説明と、毎日の朝礼での作業指示、都度の打合せであった。朝礼は、日々の出荷量に対する指示が中心で、生産性は管理していなかった。また月次では経営者が売上高、販売単価、出荷量を確認する程度で、振り返り分析はしていなかった。反収を季節単位、圃場単位、作付単位で分析することもなかったため、市場動向や天候や病害虫次第で経営や売上・収益が左右されるのは仕方ないという認識で、マネジメントできていない状況だった。
経営診断では、栽培〜収穫について、重点管理指標となる面積当たり収量(反収)を圃場別、作付別に定量化し、その要因を解析し、対応策を検討した。また、収穫後の調整・包装については、個人別の生産性(時間当たり出来高)を重点管理指標として定量化し、作業者別の生産性のバラツキを見える化するとともに、個人別にVTRで作業分析した結果から生産性のバラツキ要因を作業区分別に考察し、改善案を検討して実施した。
加えて、改善案実施後の状況をモニタリングするために、栽培〜収穫では、圃場別・作付別に反収を把握して、管理者が作型ごとに振り返り分析を実施した。調整・包装では、日次で個人別の生産性を把握し、日々の生産性のバラツキについて、管理者が都度、改善指導を実施した。
また、月次で経営会議を開催し、経営者と管理者、JMACが、重点管理指標の実績を見ながら、問題認識、対応策の適切性について、議論し、当月を振り返って、次月の目標値、目標達成に対応すべきこと、具体的な行動予定、を決定し合意することとした。開催当初の2ヶ月は、実績を把握することが中心で、指標低下の要因となる問題特定には至らなかったが、3ヶ月目からは問題点を特定し経営会議で取り組むべき対応策を決定、4ヶ月目からは、少しづつ取組内容が成果として現れ始めた。5ヶ月目には管理者が、日々の生産性グラフに問題点を書き込み、事前に対応策を検討し実施済という内容が報告されるようになった。経営者は目標値設定と状況確認が中心となり、1年後には、前年度の実績をベースにした目標設定や、前年度の指標低下要因に対して、事前の予防策などを検討するようになった。1年間で生産性向上1.8倍を実現し、更なる向上のための改善検討を推進している。
更に、経営者は前年度の結果をふまえ、年度計画を作成し、現場に目標展開をしている。具体的には、1年間の利益目標(売上高、利益率)を設定し、反収目標と作付計画、季節別の生産性向上目標に展開し設定した。1年間を52週に区分し、週単位で計画を作成し、月次経営会議で、当該期間4〜5週分の計画と実績の差異を、管理者と一緒にモニタリングして、当月振り返りと次月計画の確認を実施している。意識的に年度目標を高く設定しているため目標達成は容易ではないが、市場動向、天候影響を受けながらも、毎月モニタリング結果を管理者と一緒に確認しながら、目標達成に向けて、計画を見直し、追加対応策を検討し、より高みを目指して活動している。
管理サイクル運用は経営の最重要テーマ
基本的な管理サイクルとしては、年度で経営計画を作成し、売上・利益目標を各経営指標に展開し、経営指標(結果指標)を現場管理指標(プロセス指標)まで目標展開し、目標達成するためのテーマを設定する。また、四半期、月次単位で経営指標を確認する場を設定し、計画と実績の差異を確認するとともに、現場管理指標と関係性を確認し、対応策を検討することが重要である。また現場管理指標は、日次、週次、作型完了時など、各社、農作物の特性に応じた適切な管理サイクルを見極めて運用すべきである。
事例のA社では、作型サイクルが短期間であることから、作型のサイクルに合わせて振り返り分析を実施し成果を創出できた。しかし北海道のB社では、年1回作付の農産物のため、作型サイクルで振り返り分析していると問題点が過去のこととなり忘れる可能性が高いので、栽培工程プロセス(約1カ月)ごとに計画と実績の差異を振り返り、問題点と次期の改善対応策検討を実施し、次期経営計画に反映した。
また、管理サイクルは、農作物の特性に加えて、管理サイクルの管理推進者と従業員や、計画と実績データ収集タイミングも考慮して決定すべきである。短サイクルで運用することが理想であるが、管理指標の実績データがない、管理サイクルの推進者と参加者の予定が合わない、など、せっかく運用スタートしても形骸化する恐れがあるためである。日次、週次、月次で管理すべきことを見極め、各自が推進できるサイクルやタイミング、打合せ時間も考慮して運用することが重要となる。
管理サイクルをきちんと運用できると、目標意識、計画的な行動が身につき、計画を振り返ることで失敗をもとに前向きに改善検討し、迅速な対応で成果を積み上げることができるようになるなど、管理者、従業員の成長が期待できる。また階層間、部門間のコミュニケーションが良好になり、部門を超えた取組などもスタートするなど、組織風土にも大きな影響を及ぼす。
多くの農業生産者は、成果(収益性向上)と成長(人材育成)が経営の重点課題となっているはずである。とするならば、管理サイクルの適切な運用を、最重要テーマとして、位置づけ、再度、自社を評価してみては、いかがだろうか?
公開日