1 小売における地域商品の位置づけ
日本において、スーパーなどの小売業の地域密着の動きが加速している。この背景には、人口減少・少子高齢化で需要が減少していく中で、少しでも他店と差別化を行いたい小売業の意向がある。大手メーカーの商品は、どの店でも扱っているため、商品の品揃えによる差別化が困難である。そのため、自分の商圏の人々にアピールできる地域商品によって価格ではなく、価値で差別化を行いたいということである。
2 アメリカにおける地域商品、ローカル傾向
さて、この傾向は日本だけのものであろうか?
今回は、世界のマーケティング動向としてアメリカの現状をレポートしよう。今年の6月20日〜24日にアメリカの食品マーケティング協会(FMI)が開催した年次大会であるFMI Connect に弊所では特派員を派遣し、情報を収集した。アメリカの小売トレンドは、その多くが時を置いて日本にも伝播する傾向があるほか、北米への輸出を目指す場合には知っておいて損は無い情報である。
今回のFMIでは、アメリカの消費者のLocal傾向が発表された。図表1はATカーニー社による「アメリカ小売業界のインサイト」という調査結果の1つであるが、野菜・果物、日配食品(チーズなどの冷蔵商品)、調理食品(惣菜等)、パンなどにおいて、2015年は2014年よりも消費者がローカルな商品への志向性を高めていることが確認できる。
図表1 アメリカの小売業におけるカテゴリー別のローカル商品の重要性
また、消費者の定義するローカルの定義についても、その範囲が狭まってきていることが確認できる(図表2)。アメリカの消費者は、自分の行動範囲、あるいは居住している州をローカルとして認識している。
図表2 アメリカの消費者が「ローカル」だと認識するエリア
出典:A.T.Kearney “Insights into U.S. Retailing(June,24,2016)
さらに、アメリカ人消費者の78%以上はローカルな食品に対して、多少(10%〜25%)高い値段を支払っても構わない、と考えていることも明らかになった(図表3)。
図表3 地域商品に支払っても良い金額
出典:A.T.Kearney “Insights into U.S. Retailing(June,24,2016)
こうした消費者の動きをアメリカの小売業では、的確にとらえ、対応を行っている。たとえば、イタリアの産地と契約した高品質なチーズを小売チェーンがPB化し、専売商品として展開する、あるいはワイン売場においてチェーンが独自に点数づけを行って販売するなどの取り組みだ。
また、大手小売業や外食産業を中心に、仕入れ先の生産者の育成にも力を入れていることがアメリカ市場の特徴としてあげられる。高品質なオーガニック系スーパーとして有名なホールフーズ(Whole Foods Market)では、独立系のローカルファーマー(地場生産者)に対し、低金利融資を実施している。
3 まとめ
以上、アメリカの食市場における「ローカル」志向のトレンドについての概要であった。地域密着の売り場づくり、地域産品の取り扱い強化は、今や日本だけでのトレンドではなく、アメリカでも大きな動きとなっている。特に注目したいのは、こうした地域商品に対し、消費者が追加のコストを払うことに同意している点である。消費者が商品の価値を理解しているからこそ、価格への付加価値の転嫁が許容されているのである。今後、さらにアメリカにおけるローカル商品の消費者へのコミュニケーション手法なども報告していきたい。また、小売業が独自に生産者への支援策を打ち出していることも特徴的である。
今後、本コラムの中では、オーガニックやヘルスケア、ローカルといった言葉をテーマに定期的にアメリカ市場の動向などもレポートしていく。
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