昨今、「ハラル認証」という言葉をよく耳にする。昨年度、弊社が作成した「6次産業化優良事例集」の事業者の中にもこの「ハラル認証」を取得した事業者が複数登場する。「ハラル認証」は農林漁業の活性化の糸口となるのか。今回から複数回に亘り「ハラル認証」の可能性について述べたい。
拡大するイスラムマーケット
イスラム教徒の人口は2011年時点で18億人に達しており、世界の人口の4人に1人となっている。2050年には28億人に達すると推測されており、世界の人口の3人に1人に達すると推測されている。東南アジアではイスラム教徒の人口は7億5,000万人に上っており、特に最近注目されているのがインドネシアとマレーシアである。インドネシアは総人口2億4,000万人のうち2億人がイスラム教徒であり、国別のイスラム教徒の人口でも1位である。また、マレーシアは総人口2,400万人のうち2,000万人がイスラム教徒である。
イスラム教徒の人口の推移
ハラルとは?
「ハラル」とは、イスラム教徒(ムスリム)にとって「許可された」という意味があり、イスラム教唯一の神であるアッラーに許可された行為のことを指しており、イスラム教徒の行動基準は「ハラル」か「非ハラル(ハラムとも言う)」かで判断している。それは食に限ったことではなく、全ての行動についての基準になっている。
食に関して述べると、神はコーラン(聖典)の中で、①死肉、②血、③豚肉、④神以外の名で供えられたものを禁じており、また、アルコールについても禁じている。そして非ハラルの中で最も不浄とされているものが、豚とその派生品である。つまり、ムスリムは豚肉のみならず、豚から派生した商品、例えば豚の骨皮を原料とするゼラチンや豚脂肪から製造される調味料、豚皮を原料とするコラーゲンも食することが禁じられている。ゼラチンは食品添加物として日本でも多くの商品(アイスクリーム、マシュマロ、ヨーグルト、ゼリー)に使用されている。特に注意しなければならないのは、豚肉を触れてしまったものについても不浄とされてしまうことである。つまり、肉を輸送する際に、豚肉と直接触れてしまった牛肉や鶏肉に関してもムスリムは食べることができなくなってしまうのである。
ムスリムの悩みを解決するハラル認証
そのようなムスリムの悩みを解決する為に考えられたのが「ハラル認証」である。「ハラル認証」は40年前にマレーシアで考えられたと言われており、現在では世界中で約150〜200の認証機関が存在し、日本でも注目が集まってから急速に拡大し、80〜90を越える認証機関が設立されている。
ハラル認証の考え方は「トレーサビリティ」と同じ考えである。つまり、その商品の原材料に何が使用されているのかを明確にし、その上でハラルな原材料を使用していることを証明するのである。それ以外にも、例えば、レストランであれば、調理場や包丁等の調理器具、食器等を一般的な商品と分ける必要があり、工場であればハラル専用のラインを確立する必要がある。また、ハラル対応部署も設置する等様々な条件が決まっている。
世界各国のハラル認証
ハラル認証ありきではない
ここで肝心なのが、「ハラル認証」を取得するメリットがあるのかということである。「ハラル認証」を取得したからといって海外で他の日本製品よりも高く売れるわけではない。また、認証の取得や更新の際には少なからず費用がかかる。しかし、国内で考えた場合、日本へ観光に来たムスリムが購入する選択肢を提供することによって販売チャネルが増えることは間違いない。また、「ハラル認証」を取得したことによって、外国人対応のホテルやレストランからの商談の問合せが増えたという話も聞いている。一方、輸出に打って出る場合には先にも述べた数十億人のマーケットが広がっており、また「ハラル認証」がある商品はムスリムしか買わないわけではなく一般の人も当然購入する。すなわち今までのターゲットにムスリムが加わると考えることができる。
まずはムスリムを理解することが大事である
「ハラル認証」とはムスリムにとっては商品を購入する判断の基準になっており、ハラルか非ハラルかわからないもの(シュブハとも言う)は購入しない。無宗教が多い日本人にとっては、なかなか馴染まない文化かもしれない。しかし、まずは「イスラム文化」や「ハラル」をきちんと理解することこそが、イスラムマーケットにおいてビジネスチャンスを切り開くきっかけになるのである。
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