前回のコラムでは、「管理者意識を変える《前編》」として管理者育成のためのポイントについて解説した。今回の《後編》では、実際の事例を紹介して管理者が意識を変えて成果につなげるためのポイントを解説する。
経営者一人で管理する限界
A社はこれまで、社長が栽培現場から調整・包装現場を仕切り、各現場に管理者はいたが、管理者の業務は、作業者兼現場のまとめ役的な位置づけで、管理者らしい業務は新人が入った時の作業指導や、作業の準備がメインであった。何か問題が発生しても、社長が都度、管理者や現場作業者に確認しながら都度対応してきた。
しかし、事業拡大に伴い圃場と作物種類が増加し、経営者一人で管理することが難しくなりつつある中で、天候不順や害虫発生もあり、栽培が不安定となり、収益が低下することが散見されるようになった。圃場管理者は、様々な環境変化が要因で、また特に経営者からの特別の指示もなかったため、作物の品質低下になったと言い訳し、調整・包装の管理者は、作物の品質が低下したため、調整に手間がかかる、袋詰めしづらいなど、問題点のみを指摘した。
順調な時は、不具合が発生せず、問題は目立たなかった。しかし、何か変化があると、対応が後手となり、収益性が低下することが多くなり、コンサルティング相談を受けた。
管理者の役割を明確化し、意識を変える
日本能率協会コンサルティング(JMAC)では、管理者の意識を変えるために、経営者と相談し、まず管理者の役割を設定した。圃場管理者には、「良い作物を適期にたくさん収穫できること」を役割とし、作物の品質向上・維持と収量目標の達成率向上の目標を設定した。調整・包装管理者には、品質向上と効率化、および作業指導と改善を役割とし、1箱あたり工数を管理指標に設定した。
次に、個人のあいまいな感覚ではなく、数値で実態を見えるようにするため、調整・包装現場では、商品出来高とそれにかかる工数(人数×時間)を1日単位で集計しグラフ化した。2週間12日分の結果をみると、日によって1箱あたり工数(投入工数÷出来高箱数)に20%から30%の差異が見られた。管理者との打合せで差異の要因を確認すると、2週間も前のことで忘れたが、雨の日の収穫で葉が濡れていたとか、B圃場の作物品質が悪く、調整しづらい感じだった、とヒアリングできた。そのためJMACから、「ではその要因を日々のグラフの数値の横に記入することをトライしてみましょう。」と提案した。
さらに2週間後の打合せで確認した時は、日々の数値の横に、良かった理由と悪かった理由が毎日記入されていた。また、日報を記入しグラフ化して要因管理を始めただけで、1ヶ月前と比較して、10%程度の効率化が確認できた。グラフで実態を見える化しただけで、管理者の意識に少し変化が生まれ、現場の作業者にも伝わり、良い成果を出す意識が芽生えたのである。
次の1カ月では、朝礼で、グラフを活用して前日の結果を発表することにした。すると、今度は作業者の数人から、指標が悪化した日の状況報告(愚痴と課題の混在)が自然と出てくるようになった。管理者は、問題点を確認して解決策を検討し、できる対策から実行するようにしたところ、2ヶ月前と比較して20%程度改善した。
3ヶ月目には、グラフに改善目標のライン(40%改善)を赤線で引いた。作業者からは難しいとの意見も出たが、管理者は、これまでの改善実績から、きちんとやれば達成できない目標ではないことを認識していた。まずは現場の意見を取り入れるために現状のやりづらい点を作業者にヒアリングし改善するとともに、JMACと一緒にこれまでと違う方法で調整包装できないか?レイアウト変更、作業手順変更も含めた改善案を検討し、実行に移すことにした。変更当初は、慣れない作業で一時的に指標は悪化したが、管理者が丁寧に作業指導し作業に慣れ始めると、5ヶ月目には35%改善を記録した。
そのころになると、これまでは経営者やコンサルタントが、管理者に指示して改善を推進していた状況が、逆に管理者から改善提案を受けたり、管理者では解決しきれない課題について意見を求められたり、管理者から経営者が実行承認を急かされるなど、嬉しい悲鳴が聞こえるようになった。経営者が多忙で、備品購入準備が遅れた時は、管理者が100円ショップで備品を購入して自ら製作し現場を変えることもあった。徐々に管理者主体の現場マネジメントがレベルアップしていった。
見える化は、成果だけでなく、管理者と作業者の成長を促進する
管理者は、見える化グラフを管理ツールとして活用し、目標設定し計画的に行動して、成果や問題点を明確化して、改善を推進していくことで、活気ある現場を構築している。管理者の意識と行動の変化が作業者にも伝播し、作業者も自分たちで、作業台を無理のない作業しやすい高さにしたり、商品箱の傾斜を工夫したり、調整包装前の作物の冷蔵庫での保管方法や冷風の風向きの最適化など、現場にいくたびに改善の変化が見られるようになった。
経営者は、この半年での出来事を振り返り、管理者の意識変革や、現場の変わり様、効率化の結果に驚き、見える化の効果を実感している。一方で自分ひとりでは、限界があることを実感し、以降は管理者中心の現場マネジメントを推進し、経営者自身は、管理者のフォローと経営全体のマネジメントを主軸にして、今後の事業安定化と拡大を検討、推進している。
A社は、収益性を向上させただけでなく、将来に向けて右腕となる管理者を育成できたことが一番大きな収穫となった。役割を見える化し、日々の成果を見える化することで、効率面での成果に加えて、管理者や作業者の成長も実現できたのである。
読者の経営者の皆さんは、管理者に思いを伝え、管理者の役割を明確化しているだろうか?管理者に任せることは任せ、活躍する場や成長する機会を提供しているだろうか?企業的農業経営を推進するためには、良い経営者の右腕となる管理者は必要不可欠である。管理者育成は手間と時間がかかり、我慢が必要で、難しいことであるが、それゆえに、だからこそ、優秀な管理者は、それ自身が競争優位となるのである。管理者育成は、経営者の重要な仕事の一つと言えるだろう。
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