こんにちは!フィデスの久保京子です。
私は消費生活アドバイザーとして、消費者目線で考えるこれからの食ビジネスのヒントをお届けします。
6次産業化への取り組みにおいて、農産物の機能性食品など保健機能食品の開発に関心が高まっていることと思います。
健康食品市場は、収縮を続ける国内市場における数少ない拡大市場です。一方で、一つ間違えば、許可取り消しや表示違反のリスクの高いビジネスでもあります。
そんな中、2016年9月に起きた、トクホ制度が始まって25年目の初の許可取り消し問題は、業界に大きなインパクトを与え、国の制度運用にも変化が起きようとしています。
事件の経緯とそれを受けた行政の動向を確認しながら、健康食品の品質管理と健食ビジネスに求められる企業倫理について考えます。
なぜ、許可取り消しになったのか?
今回のトクホ許可取り消しに至った経緯は、以下の通りです。
- 特定保健用食品の表示許可商品について、関与成分の含有量が規格値を満たさない疑義があること等が判明した。
→健康増進法第 28 条第1号に抵触。 - 許可を受けた日以降における科学的知見の充実により、関与成分が商品中に含まれていない疑義があることが判明した。
→健康増進法第 28 条第3号に抵触。 - 会社側はこうした事実を2014年の自社検査で認識していたが、同庁に2016年9月15日に報告するまで、2年以上公表せずに販売を続けていた。
現状、特定保健用食品の許可は更新制ではなく、許可時の条件として、「当該食品の保健の効果又は安全性につき、新たな知見を入手した際には、遅滞なく消費者庁食品表示企画課まで報告すること」とされ、再審査については事業者の良識に期待せざるを得ない制度となっています。(※)
そのため、事業者が事態を消費者庁に報告しないまま放置していたことを悪質と判断し、二度とあってはならないことを示すための処分であった、ということです。
※消費者庁では、特定保健用食品の許可時に許可の条件として、「当該食品の保健の効果又は安全性につき、新たな知見を入手した際には、遅滞なく消費者庁食品表示企画課まで報告すること」を付している。(許可取得者が当当該知見を把握してから30日以内に消費者庁への報告を求める)
「健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令」(平成21年内閣府令第57号)第5条第1項において、内閣総理大臣は、新たな科学的知見が生じたときその他必要があると認めるときは、食品安全委員会及び消費者委員会の意見を聴くこと、同条第2項において、消費者庁長官は、その意見を踏まえ再審査を行い、必要に応じ当該特定保健用食品に係る許可の取り消しを行うことが規定されている。
消費者庁 認可取り消しで既存のトクホ全商品の品質調査
許可取り消し問題を受け、消費者庁はトクホ許可商品(1271品目)について、関与成分量が許可申請書の記載どおり適切に含有されているかの調査を、業界団体を通じて全ての申請者に依頼しました。
調査結果は以下の通りです。
- 調査対象となった商品数1271品目のうち、現在販売されていない品目数は903品目。(うち失効予定品目数は196品目)
- 現在販売中の366品目の有効成分量は適切。
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特定保健用食品の関与成分に関する調査結果について(第2報)
(消費者庁 平成28年11月29日)
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin1578.pdf
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懸念された関与成分量についてはひとまず問題なしでしたが、現在販売されている366品目のうち、半数以上の195品目が外部の試験・検査機関による検査ではなく、自社検査だったことにやや不安が残ります。
また、許可を受けていた1271品目中、現在販売されていない品目数が71%の903品目にも上り、連絡先不明の事業者が2社存在したことは、国の管理の甘さと言わざるを得ません。
加熱するトクホ制度・運用見直しの議論
平成28年4月12日付の「健康食品の表示・広告の適正化に向けた対応策と、特定保健用食品の制度・運用見直しについての建議」への、消費者庁の対応実施状況報告を求めた消費者委員会本会議でも、今回の許可取り消し問題を踏まえて議論がなされています。
本調査結果により明らかになった課題に対して、消費者庁は以下の対応により消費者への特定保健用食品の最新かつ正確な情報提供を行うとしています。
課題:
許可条件どおりの製品が販売されているか把握できていない。
対応:
- 平成28年度に前倒して買い上げ調査の実施 (対象は今回の調査で試験時期が古い品目及び自社分析品目)
- 第三者機関による定期的な分析を義務化(次長通知の改正)
課題:
許可後に販売の状況を正確に把握できていない。
対応:
- 販売の有無に関する定期的な調査(毎年1回)の実施とその結果を許可(承認)一覧に追記
- 申請者と連絡がつかない品目について、 許可(承認)一覧に状況等を追記(平成28年11月1日)
- 失効届の提出依頼を課長通知にて発出(平成28年11月9日)
課題:
新たな科学的知見の報告が法的に明確化されていない。
- 新たな科学的知見を入手した場合、消費者庁への報告を義務化(内閣府令の改正)
第238回 消費者委員会本会議(内閣府 2016年12月20日)
【資料3】「健康食品の表示・広告の適正化に向けた対応策と、特定保健用食品の制度・運用見直しについての建議」説明資料
http://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2016/238/doc/20161220_shiryou3_1.pdf
更に、消費者委員会は今回のトクホ取り消し事案の発生で、「再審査制」の事後チェック機能がうまく働いていないことが明らかとなったとして、「更新制」の導入に向けた検討を強く求めています。
第238回 消費者委員会本会議(内閣府 2016年12月20日)
【資料1】
「健康食品の表示・広告の適正化に向けた対応策と、特定保健用食品の制度・運用見直しについての建議」の実施状況報告において説明願いたい事項
http://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2016/238/doc/20161220_shiryou1.pdf
機能性表示食品の品質チェックは?
一方、平成27年4月に新設された機能性表示食品については、どうでしょうか?
機能性表示食品制度は、トクホや特別用途食品のような許可制ではなく、事業者責任の下安全性や機能性を担保し、国の事後チェックを前提とした制度です。
27年度の消費者庁の検証事業では、「届け出された研究レビューの検証」「機能性関与成分の分析方法の検証」「機能性表示食品の買い上げ調査」を行っています。
結果、以下のような品質管理上の問題点が見つかっています。
- 研究レビューの質に問題がある。
- 分析法について関与成分の同定や定量可能性が低いまたは不可能。
- 商品中の関与成分の含有量が表示値を下回る、過剰に含まれる、ロット間で大きなばらつきが見られる。
この検証事業を踏まえて、機能性表示の届出を取り下げ、今後は「いわゆる健康食品」として販売すると判断した企業もありました。当該企業の発表によると、自社機能性表示食品について社内調査した結果、「採用論文中に科学的な根拠の弱いものが含まれていることがわかり、機能性表示を行うには十分ではないとの判断を下した」ということです。
健食ビジネスに求められる企業倫理
以上のように、保健機能食品事業は許可取り消しや表示違反のリスクの高いビジネスであり、それぞれの食品制度を俯瞰して、戦略的な事業判断が求められます。
また、製品の品質に関して不備に気付いた場合は、その時点ですぐに「どのような対応をとるのか」を企業判断する必要があります。
判断基準で最優先されるべきことは、「消費者に対する信頼を裏切らない姿勢はどうあるべきか」といえるでしょう。
もしも貴社が健食市場へ参入している、あるいは新規参入を検討されるのであれば、これまでの事例を反面教師とし、厳しい品質管理と消費者に対する正しい啓発活動を行うことで、「毎日の健康をサポートするパートナー」としての企業ブランドを確立していただくことを、心から願います。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
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