こんにちは!フィデスの久保京子です。
私は消費生活アドバイザーとして、消費者目線で考えるこれからの食ビジネスのヒントをお届けします。
国内で製造または加工された全ての加工食品を対象に、原料原産地表示が義務付けとなる食品表示基準の一部を改正する内閣府令が、2017年9月1日に施行されました。
今回は、新たな加工食品の原料原産地表示制度への移行に向けたマーケティング対応について3回シリーズで考えます。
第1回は新たな食品表示基準に対する、食品製造業者の対応状況について。
新たな原料原産地表示では、一番多い原材料の産地を国別重量順で表示することを原則としつつも、頻繁な原材料の原産地の変更に伴うパッケージの切替え、煩雑な作業の発生等、事業者の実行可能性を考慮して、困難な場合には次のような例外的な表示方法が認められました。
(1)「又は」表示、(2)大括り表示(「輸入」表示)、(3)大括り表示+「又は」表示
例外的な表示方法(表示例)
出典:食品表示基準一部改正のポイント(消費者庁)
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/quality/country_of_origin/pdf/country_of_origin_171027_0002.pdf
(1)「又は」表示
原産地として使用可能性がある複数国を、使用が見込まれる重量割合の高いものから順に「又は」でつないで表示する方法。過去の使用実績等に基づき表示する。
(2)大括り表示(「輸入」表示)
3か国以上の外国の原産地表示を「輸入」と括って表示する方法。
(3)大括り表示+「又は」表示
過去の使用実績等に基づき、3か国以上の外国の原産地表示を「輸入」と括って表示できるとした上で、「輸入」と「国産」を、使用が見込まれる重量割合の高いものから順に、「又は」でつないで表示する方法。
事業者の実行可能性を考慮したとしつつも、なかなか複雑で消費者にとっても混乱しそうな表示制度であることは否めません。
新たな表示方法の経過措置期間は、改正食品表示基準の施行の日(2017年9月1日)から、平成2022年3月末日までとなっています。この期間に製造した一般用加工食品、販売される業務用生鮮食品及び業務用加工食品については、改正前後のいずれの規定によっても表示可能ですが、この期間後については、改正前の食品表示基準に基づく表示では販売できません。
そんな中、2017年7月時点で、食品製造業者の約9割が新たな原料原産地表示を実施する意向を示し、5割近くが原料原産地表示を営業・販売戦略に活かせると回答しているという調査結果が出ています。
(株)日本政策金融公庫が食品製造業者1,695社を対象に実施した原料原産地表示の取扱い調査から、データを確認してみましょう。
《調査のポイント》
- 食品製造業者の約9割が原料原産地表示を実施する意向
- 実施予定事業者、「国別重量順表示」6割、「可能性表示」3割、「大括り表示」1割
- 食品製造業者の5割近くが原料原産地表示を営業・販売戦略に活かせると回答
- 原料原産地表示の活用方法は、「商品PR」(60.8%)、「競合他社商品との差別化」
- 食品製造業者の3割が営業・販売戦略に活かせないと回答
原料原産地表示の実施状況
「既に実施している」(50.5%)、「現在対応中である」(14.5%)、「実施していないが、今後実施予定である」(22.6%)を合わせた 87.6%の食品製造業者が、原料原産地表示を「実施済み」または「実施予定」である。 売上高階層別に見ると、売上高が小さい階層ほど既に原料原産地表示を実施している割合が大きくなる傾向となっている。
検討中の表示方法
実施予定(「現在対応中である」「実施していないが、今後実施予定である」)と回答した食品製造業者(555 社)が検討している表示方法は、「国別重量順表示を行う」(61.3%)、「産地を切替える可能性があるため、可能性表示を行う」(28.8%)、「輸入国が3か国以上のため、大括り表示を行う」(9.9%)。約6割が原則的な国別重量順表示を検討している。
売上高階層別に見ると、売上高が小さい階層ほど国別重量順表示を、売上高が大きい階層ほど可能性表示を検討している割合が大きくなる傾向となっている。
原料原産地表示を営業・販売戦略に活かせるか
「大いに活かせる」(12.7%)または「活かせる」(33.9%)と回答した食品製造業者が46.6%となった。5割近くの食品製造業者が原料原産地表示を営業・販売戦略に活用できると考えている。
一方、「あまり活かせない」(21.7%)、「活かせない」(10.2%)と回答したのは31.9%。
売上高階層別に見ると、売上高が小さい階層ほど原料原産地表示を営業・販売戦略に活用 できると回答している割合が多くなっている。
原料原産地表示の営業・販売戦略への活用方法(複数回答)
原料原産地表示を営業・販売戦略に「大いに活かせる」「活かせる」と回答した食品製造業者(743社)の活用方法では、「商品PR」(60.8%)、「競合他社商品との差別化」(57.3%)となった。原料原産地表示を、消費者に商品の価値を伝えることができるポジティブなものとして受け止めていることがうかがえる。
原料原産地表示が営業・販売戦略に活かせない理由(複数回答)
原料原産地表示を営業・販売戦略に「あまり活かせない」「活かせない」と回答した食品製造業(493社)の理由は、「効果が期待できない」(43.6%)、「営業販売戦略との関連性が乏しい」(43.0%)、「表示のためのコストが増加するだけ」(39.8%)、「表示のための工程が増加するだけ」(26.8%)となった。
原料原産地表示についてマーケティング戦略上メリットがあると考える事業者が5割弱、メリットがないと考える事業者が3割と評価が分かれる状況が明らかとなりました。
特に売上高が大きい事業者ほど原材料の海外調達が複雑で、メリットがないと考える傾向が高くなっています。
このような状況の背景には、加工食品の原材料のグローバル調達と消費者の国産食材志向があると考えられます。
次回は、加工食品の生産・流通の現状と、消費者の国産食材志向の傾向についてデータで確認してみます。
(※)
原料原産地表示に関する調査結果
(日本政策金融公庫 平成29年7月調査)
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_171201c.pdf
【調査概要】
調査時点 平成 29 年 7 月 1 日
調査方法 郵送により調査票を配布し郵送により回収
調査対象 全国の食品関係企業(製造業、卸売業、小売業、飲食業) 7,027 社
有効回収数 全体で 2,571 社(回収率 36.6%)のうち、製造業の 1,695 社
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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