農業におけるITとロボティックス活用の最前線
本コラムでは、農業におけるデータ活用の最新事例や今後の動向について紹介させていただいております。第3回目の今回は、栽培におけるデータ活用と少し離れ、ITやロボティクスの技術、またそれらを活用した施設栽培の事例として、精密農業の先端をいくオランダの現状をご紹介したいと思います。
植物の生産ポテンシャルを顕在化する太陽光植物工場とその社会実装
植物を、光と水、そして二酸化炭素(以下CO2)から炭素化合物を生成する装置と考えてみてください。太陽光エネルギーを最大限に活用し得て、気温、湿度、CO2などを対象とした環境制御技術と、ICT、自動化、機械化など先端工業技術とが融合したものが次世代の太陽光植物工場です。農業先進国オランダでは、その農作物生産の生産性を最大化するシステムの社会実装が進んでいます。
同時に、経営、生産規模拡大による競争力強化を目的とした超大規模化も進行しており、栽培面積が数十haに達する事業者も存在しています。この傾向はグローバルに世界的に拡がり、北米の施設園芸のトマトの約7割は、上位の4生産者により生産されている状況です。
オランダより日射量が多い日本は、オランダ以上の増収を実現できる可能性がありますが、現状でその日射量を最大限に活用する太陽光の植物工場の普及状況は、オランダとの環境や経緯の違いにより大きく遅れています。
オランダの高効率栽培管理とオートメーション
オランダのトマトの長期多段栽培において、日々のルーチンの栽培管理作業スピードは、日本と比較にならないほど速いです。熟練者の中玉トマトの収穫スピードは房どりで1時間450kgを越え、作業効率は日本の約4倍にもなります。この背景については、次回の記事にて紹介したいと思いますが、オランダの生産者は自らの力で対応できる作業管理について一切の妥協をしません。日本の生産者がまず学ぶべき本質は諸技術より、この経営姿勢かもしれません。
房どり収穫は、収穫と同時に箱詰めされ、出荷プロセスの簡略化に寄与しています。トマトを満載したキャリアは通路に埋め込まれた駆動チェーンにより自動走行し、出荷エリアへと運ばれます。この出荷エリアでの人間による目視による品質チェック以外の全ての工程は自動化されており、最終的にトラックに積載するためにパレタイズされています。
オランダの作業者間でも作業能力の高低は存在します。興味深いのは、その作業能力の高低に関わらず、全ての作業者の時給はほぼ16?18ユーロとほぼ同様です。これはオランダの人材育成の方針を反映しているためです。作業者ごとの労務実績レポートは休憩ルームに配布され、このレポートをキッカケとしてスキルの下位者と上位者のコミュニケーションが促進され、指導的役割が担える作業者には時給以外の労働条件上のインセンティブが付与される仕組みとなっています。データの活用とは決して栽培管理だけではなく、作業の効率化にも使われるのです。
業能力の高低に対応した時給を支給する作業者評価の体系の場合、作業スピードの遅さを改善する機会が失われます。これに対してオランダのモデルは、国をあげての作業者全体の作業効率を上げることに寄与しているのです。
作業管理では顕在不可能な生産ポテンシャルの考え方と、2つも栽培管理戦略の解釈の違い
オランダで標準的な栽培設備のスペックでは、理論上、年間最大収量は平米年間200kgとも言われます。しかし、実際の収量は平米70-80kgに留まっております。これは、太陽光植物工場の潜在能力の高さと人間の経験と勘に依存した環境制御の限界を示していると言えるでしょう。
上図は、2つの栽培管理戦略の考え方を図にしたものです。この2つには根本的な解釈の違いがあります。
左は、「上手な環境制御」や「作業等の頑張り」といった“良い”栽培管理作業が収穫量を増大させるという加点法の考え方に則ったものです。この考え方では課題の抽出や改善案が栽培管理上のどのフェーズにどのような影響を及ぼすのかを検討することさえもできません。
一方、右は減点法の考え方に則ったものとなります。栽培設備のスペックと設備が立地する気象条件により、最大収穫量は規定されます。この最大収穫量は気候になどよる環境ストレスなどが一切発生しなかった場合に実現し得る理論値です。実際の収穫量はこの理論値を大きく下回りますが、これは天候不順などの不可避の生育不順と、その生育不順に対する人による判断や管理ミスによる人為的な生育不順により実際の収穫量が形成されると解釈されます。この減点法モデルを用いれば、収穫量の期待値を下げている課題の抽出が容易となり、その打ち手のコストパフォーマンスの評価が可能となります。
人により把握可能な瑕疵に適切に対処するという範囲において、高度な先端的ハードウェアを使いこなすノウハウの情報化や、事業としてのサービス化は、オランダにおいても、まだまだ未踏です。今後、オランダに遅れをとる日本においても、ノウハウの情報化に資すると同時に、人には把握不可能な瑕疵の回避を高精度植物生体計測技術や労務管理技術により実現を目指す動きは加速していくものと思われます。
次回第4回目も、もう少し学ぶべき事例としてオランダの最新動向をご紹介したいと思います。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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