少し前に、「そだねー」が特許庁に商標登録出願されたという話が注目を集めました。今回は、「そだねー」の商標登録出願を題材に、ブランド保護と商標制度の関係について解説したいと思います。
1 「そだねー」の流行と商標出願
2018年2月25日、平昌オリンピックが閉幕しました。日本人選手は、冬季オリンピックでは過去3番目に多い計10個のメダル(金メダル3個、銀メダル4個、銅メダル4個)を獲得し、その活躍に日本中が沸きました。中でも活躍が特に目立ったのは、女子カーリングチームのロコ・ソラーレ(LS北見)ではないでしょうか。男女通じてカーリング史上初のメダルとなる銅メダルを獲得したという結果のみならず、ハーフタイムの食事「もぐもぐタイム」や、試合中に交わされる会話の中での一言「そだねー」などが話題を集めました。
そして、その「そだねー」が商標登録出願されているというニュースがお茶の間を賑わせました。最初はロコ・ソラーレの地元北海道の菓子メーカーの出願が報じられ、その後、九州の酒造メーカーの出願や、地元北海道の大学職員の方の出願が取りざたされました。この「そだねー」商標をめぐる騒動を題材に、商標とはどのようなものか、「そだねー」の商標権は誰のものになるのか、そして農作物のブランド保護において商標の果たす役割について解説していきたいと思います。
2 商標とは
商標とは、事業者が自分の取り扱う商品やサービスを、他の事業者の商品やサービスと区別するためのマークのことです。「マーク」といっても、図形や記号だけに限られるものではなく、文字や立体的な形状なども含まれます。
例えば、以前の記事でも解説したイチゴを例に取ってみます。イチゴといっても、品種も産地も様々で、実際にいろいろな名称のイチゴが販売されています。具体的には、「あまおう」、「スカイベリー」などがありますが、この「あまおう」、「スカイベリー」という名称が商標です。
そして、この商標を独占的に指定した商品やサービスに使うことができる権利が「商標権」です。商標権を取るためには、特許庁に出願をして登録を受けることが必要です。「指定した商品やサービス」というのは、商標権を取るために特許庁に出願する際、出願する人が「この商品やサービスのためにこの商標を使いたい」ということを決めて書類に記載するのですが、その際に決めた商品やサービスのことです。この指定した商品のことを「指定商品」といい、指定したサービスのことを「指定役務」といいます。例えば、「あまおう」であれば、「果実、野菜、苗」などが指定商品とされています。
「あまおう」と聞くとどのようなイチゴであるかが思い浮かぶように、商品に特定のマーク(名称)を付けて生産し、販売し続けることで、そのマーク(名称)に接した人々(消費者など)は、その商品がどのような特徴の商品であるのか、イメージするようになってきます。品質が高い商品の場合は、その商品に対するいい印象や信頼が築かれるようになってくることでしょう。それこそが、一般に「ブランド」と呼ばれているものの一部だといえます。商標は、ブランドを確立する上で大きな役割を果たすものなのです。
3 「そだねー」の商標権は誰のもの?
それでは、今回の「そだねー」の商標権は誰のものになるのでしょうか?
商標権を取得する手続などについて定めている商標法では、指定商品又は指定役務が同じか似ている場合に商標権を取得することができるのは、特許庁に一番早く出願した人だとしています(商標法8条1項)。これを「先願主義」といいます。「指定商品又は指定役務が同じか似ている場合」とあるように、出願した商標が同じであっても、指定商品や指定役務が違っていて似てもいない場合は、このルールは当てはまりません。
まず、2018年3月1日に、北海道の菓子メーカーが菓子及びパンを指定商品として「そだねー」を出願していることが報道されました。次に、その前日である2月28日に、九州の酒造メーカーが酒類を指定商品として出願していることが報道されましたが、その後その酒造メーカーは出願を取り下げたそうです。その後、さらにその前日である2月27日に、北海道の大学職員が指定商品を菓子、パン等として「そだねー」を出願していることが報道されました。他に「そだねー」を出願している人がいるという情報は、今のところありません。
そして、菓子メーカーの出願した商標と大学職員が出願した商標は同じ「そだねー」です。そして、菓子メーカーの出願の指定商品は「菓子及びパン」ですが、大学職員の出願の指定商品はこれを含んでいます。
以上の事実関係が正しいとすると、大学職員の方が菓子メーカーより先に出願している以上、「そだねー」の商標権は、大学職員が取ることができる可能性があることになります。ロコ・ソラーレ(LS北見)の選手が流行らせたといえるにもかかわらず、関係のない人(なお、報道によれば、ロコ・ソラーレの選手の1人は、その出願した大学職員の所属する大学の出身だそうです。)が商標権を取ることができるとすると、それはおかしいのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし、先にも述べたとおり、商標権を取るためには、特許庁に出願することが必要です。ある言葉を考え出したり、使い始めたり、流行らせたりした人が自動的に商標権を取れる訳ではないのです。この点は注意が必要ですね。
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