農業におけるITとロボティックス活用の最前線
本コラムでは、農業におけるデータ活用の最新事例や今後の動向について紹介させていただいております。第4回目の今回は、前回に続き、ITやロボティクスの技術、またそれらを活用した施設栽培の事例として、精密農業の先端をいくオランダの現状をご紹介したいと思います。
オランダと日本の労務管理水準のギャップ
農業においては収穫作業だけではなく、日々の生育管理に伴う作業が重要となります。上図は、日本のトップレベルの生産者、農業参入して日が浅い生産者、オランダの生産者の3者のつる下ろしおよびずらし作業の品質をデータ化したものです。このように、今日では1つ1つの作業もデータ化し評価することが可能です。作業ごとにプロフェッショナルな人材を活用するオランダの栽培管理は、作業速度と作業精度が高いレベルで両立されていることがわかります。
植物生育の時間軸による影響要因とプロフェッショナル人材のシェアリング
トマトやパプリカ等の果菜類の植物の生育を単純化すると、光合成の最大化と光合成産物の主要器官への適正分配に構成されます。
光合成は短期的には、光、CO2、気温、湿度、養液に律速されますが、中期的には群落構造の基本となる葉や茎の状態によっても大きく変化します。また、長期にわたって生産性を高く維持し続けるためには、葉、茎、果実、花の良好なバランスの維持が不可欠であり、これが光合成促進を目的とした環境制御の効果を最大化させるための必要条件となります。
光合成産物の分配の制御方法としては、気温や養液などの環境制御と同程度に重要なのが、葉かきやつる下ろしなどの栽培管理作業による群落構造の制御や、摘花や収穫頻度の調整による果実への分配の調節です。
重要な視点は、たった1日であっても不適切な栽培管理作業が放置されれば、それが植物生育に与える悪影響は甚大で、これに起因する収穫量の低減は予想もできないという点です。
オランダの大規模生産者の多くは労務管理のための専用システムを導入しており、1~2時間毎に作業の現況や履歴を確認し、作業計画の見直しや作業者の再配置を行います。
オランダの最大の特徴は、この作業者の追加発注が容易である点です。発注した翌朝には熟練した作業者が追加動員され、栽培管理作業の遅れは速やかに解消されます。
作業者の多くは、栽培管理作業を専門に扱う人材派遣会社やグループに所属し、生産者からの依頼に応じて派遣。プロフェッショナル人材の業界でのシェアリングが社会インフラとして実装されています。
広域でのCO2施用設備のシェアリング
もう1つ、オランダにおいて経営リソースとしてシェアリングされているのがCO2です。
CO2は光合成の主な律速要因であり、太陽光植物工場の生産性向上には、CO2施用設備は必要不可欠です。
オランダでは2005年にOCAP(Organic Carbon Dioxide for Assimilation of Plants)がサービスインし、CO2ガス供給設備の広域でのシェアリングが開始されています。石油精製等で生じたCO2をロッテルダムからアムステルダム間に敷設された85kmものパイプラインを通じて580もの栽培設備にガス状態のCO2を供給されています。
これにより、従前のCHP(Combined Heat and Power)と比較して、化石燃料使用の削減と熱が発生するため使用が困難だった夏季でも安定的なCO2施用が可能となりました。
日本国内においても、CO2施用設備のシェアリングは極めて有効と考えられ、経営リソースのシェアリングによる個別農業生産事業者の経営効率を高めることや、そもそも単一の事業者では導入が困難な規模の設備でもシェアリングにより、経済的な設備の導入障壁を低減することができると考えられます。
この規模となると、ITとロボティクスからかけ離れていると思われがちですが、こういった規模の仕組みは今日のデータを活用した管理制御による栽培を最大化するために考えられ、オランダでは国、地域を挙げて取り組まれてきた事例となります。
ITとロボティクスは個々の生産者による活用だけでなく、その活用を最大値化するために生産者間による協力もより重要視されていくでしょう。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
公開日