3.ミネラル施肥で光合成能力を向上させる。
上の図は、光合成を行っている酵素にどのようなミネラルが関与しているかを示した模式図です。光合成は、ぞれぞれ役割を持った酵素の連携プレーで成り立っています。光合成を担う、それぞれの酵素が機能するには、マグネシウム・マンガン・鉄・銅・硫黄・塩素・リン酸など、酵素別に特定のミネラルが必要不可欠なことが分かっています。これらのミネラルが一種類でも欠けてしまうと、光合成能力の全体が低下し、品質も栄養価も低下します。逆に、これらのミネラルが十分に根から吸収された場合は、光合成のブドウ糖を作る能力が向上し、品質も栄養価も向上すること分かっています。
このことから、有機農業に限らず、農業全般において「品質向上・収量向上をめざす場合」は、まず土壌分析を行い、作物を作るための土壌の現状値を正確に把握し、必須のミネラルを、必要な量だけ十分に施肥して、圃場の土壌の環境を整えることが基本となります。
高品質・高栄養価・多収穫・病害虫に負けない安定生産を目指すには、必要なミネラルを不足させてはいけません。日本有機農業普及協会では、「農業者が土壌中のミネラル成分を調べたいときに、すぐに調べられることが、非常に重要なこと」だと考えています。そのため、農業者向けに簡易の土壌分析器の使い方を学ぶ講習会を開催するほか、農業者自らが施肥量を設計できるソフトを開発し、このソフトの使い方の講習会や、施肥設計の添削も行っています。共通の設計ソフトを使うことで、農業者同士での施肥設計のアドバイスも可能になっていきています。
有機農業では、有機物を肥料として施用します。アミノ酸は、まさに酸であり、発酵肥料も良質の堆肥も酸性で、これらの酸は土中のミネラル成分を良く溶かし、根からの吸収を良くすることが分かっています。これによってミネラルが良く効いた栄養価の高い農産物が生産できます。しかしこれは、諸刃の剣であり、ミネラルたっぷりの農産物を出荷することで、田畑の土壌からは、ミネラルがごっそりなくなっていきます。農業者は農産物という形で、土壌のミネラルを食べる方に提供しているのです。「質量保存の法則」を持ち出すまでもなく、出荷されていったミネラルの分だけ、肥料としてミネラルを施肥する必要があります。これは農業の宿命です。良質な農産物を安定的に生産し続けるためには、土壌の必須ミネラルの量を毎作ごとに土壌分析によるモニタリングを行い、施肥設計し、正確な量を精密に施肥をすることで土壌のミネラル環境を最適に保ち続けることが重要になります。
4.炭水化物の多い良質堆肥で根の量を増やす
土壌に施した細胞をつくる肥料=アミノ酸肥料とその細胞の生命維持に不可欠な肥料=ミネラル肥料。これらは施用しただけでは意味がありません。作物の根から吸収されて、はじめて成果を発揮します。施用した肥料を作物に効率よく吸収させるには、根の量を増やすことが重要です。根に栄養成分を十分に吸収させるには、土壌は障害物となることがあります。この障害となる土壌を取り除く方法が水耕栽培です。土で作ることを重視する有機栽培は、水耕栽培を超える優位性がないと、これから農業に取り組みたい方にはお勧めできません。
有機栽培は、根の伸びを促進し、量を増やすため、堆肥を活用して土壌の物理性・生物性・化学性のすべてを改善します。そのため、堆肥の良し悪しが品質・収量の良し悪しに直結します。上の図は堆肥の持っている6つの効能について示したものです。
堆肥に含まれる微生物は農業生産を支援しています。その役割は大きく2つに分けることができます。一つは、炭水化物から生きるためのエネルギーを取り出すために、炭酸ガスと水に分解する微生物。もう一つは、有機物を占有し腐敗菌や病害菌の繁殖を阻害する微生物です。前者は水溶性炭水化物を食べて炭酸ガスを発生させます。その膨張圧で、土壌を膨らませ、根が張り易いフカフカの状態にします。後者は、作物の根を害するカビや線虫などの繁殖を抑制し、連作を可能にします。また、有機物を発酵させることで、腐敗を防止し、ビタミンなどの様々な生理活性物質を生産し、作物に提供し、生育を助けます。堆肥は、有用な微生物とその活動のエネルギー源となる炭水化物を豊富に含んでいるものが良質といえます。
根は、人間にとっての腸にあたります。どちらも栄養を吸収する器官です。食物繊維は、わたしたちの胃腸では消化することも、吸収することもできないので、栄養素とは考えられていませんでした。近年では、食物繊維は腸内細菌が活動するためのエネルギー源となることがわかり、腸内細菌がビタミンなどを作り、私たちに供給し、健康を支えていることが分かってきてたことから、食物繊維は健康を支えるための重要な栄養素として注目されています。同様に、農業の土づくりでも、食物繊維や腐食を施用することにより、土壌の有用な微生物を活性化させ、作物の健康状態を良くし、品質と収量を向上させることができることが実証されてきています。
5.ブラックボックスを無くし、農業生産全体をプログラミングする
現代社会はテクノロジーの進歩でブラックボックスが非常に多い社会になってしまっています。パソコンで何か作業をするとき、作業の裏で働いている複雑なプログラミングのことが、一切分からなくても、わたしたちは、それを簡単に利用できます。そこに入力すると、答えが得られるというブラックボックスに慣れ過ぎていて、ブラックボックスの中身をあえて知ろうとも思わなくなってしまっています。農業にもこの傾向があるように思えます。
農業初心者に農業技術を教えるとき、レオナルド・ダ・ビンチの「自分を一番欺くのは自分であり、自然は自己の法則を絶対に裏切らない」という言葉をよく引用します。自然生態系のメカニズムには、常に正確で一定で狂いはありません。自然生態系は農業者がインプットした結果に基づいて、常に正確にアウトプットしてくれます。農業をしていて、作物がうまく育たないなどのトラブルに見舞われたとき、ほぼ100%に近い確率で、農業者の土壌環境に対するアプローチ、作物に対するアプローチが間違っていると考えてよいと思います。よく分かっていない部分があり、そこを解決しないまま、曖昧なまま作物を作ったために、その落とし穴にはまってしまった場合が多いと考えます。高品質な農産物を安定生産したいと考えるなら、まずよく分からない部分・ブラックボックスな部分をなくしていく必要があります。そしてより完璧なプログラム(栽培設計図)を完成させていく必要があります。芸術を極めようとしたレオナルド・ダ・ビンチは、人間の肉体を正確に描くために、骨や腱の構造や筋肉のつきかたなど知りたくて解剖まで行ったといいます。とことん知り尽くしてやろうという意気込みのある農業者ほどよい農産物をつくります。それはより完璧な栽培設計図に基づいて栽培を行っているからということに尽きるのだと思います。
レオナルド・ダ・ヴィンチは「知ることが少ないと愛することも少ない」という言葉も残しています。わたしたちは自然生態系のメカニズムを深く知ることで、農業生産の安定性を高めることができます。ただ知っているというレベルでは、人間はなかなか実行に移せないものです。実際に取り組むためには「腑におちる」という経験が必要となります。たとえば農業をする上で、作物の調子がいいとか、作物の調子が悪いとかを見極める「観察眼」を身に付けることは重要です。「観察眼」という重要なスキルは、まず、準備として、作物のどこを見て、どのような状態なら良く、どのような状態なら悪いのかという知識を身に付けておく必要があります。しっかり準備された心で見るからこそ、状況が的確にわかるのです。ものすごく単純なことですが、わかれば楽しくなり、ますます面白くなっていきます。しかし、わからなければ、つまらなくなり、田畑へ行く回数も減ってしまうでしょう。BLOF(ブロフ)栽培は、自然生態系のメカニズムを学ぶことを進めますが、それは田畑へいくことに喜びを抱いてほしいからです。農業を楽しむためには、自然生態系のメカニズムを理解することが不可欠なのです。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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