5.整備した水田の土壌管理
農業者の減少や高齢化がますます進む中、作業効率を高めて省力化をはかる目的から各地で水田の大区画化が進んでいます。大型化のために複数の水田が統合されることで来歴や種類の違う大量の土壌が削られたり盛られたりし、大規模化された圃場内で地力の極端な差が生じることが多くあります。
一般に削られたあとは地力が少ないため生育不良に、逆に盛られた部分は地力が高まり生育旺盛になります。またりん酸成分やケイ酸成分も生育に大きく影響するため、土壌分析を複数ヵ所実施して部分的な土壌改善をすることで平準化します。
一方、土木機械が入ることで水田の作土直下に耕盤のような硬い層ができ、透水性が不良になることがあります。その場合は排水溝による地表水の排除や、ひどいときは暗渠による積極的な排水が必要になります。深耕による作土層の拡大と有機物の施用による膨軟化も効果的です。
逆にすき床層が十分できていない場合は、漏水が大きくなるため、せっかく施肥した肥料成分の流亡を招くことがあります。減水深が大きすぎる場合は、床締めを行ったり、ベントナイトなどの施用により肥料成分の保持力をアップすることをお奨めします。いずれにしても、土木工事などのあとは、水持ちに十分注意する必要があります。
また下層から土を掘り起こして表面に載せた場合は、水田特有の空気に触れたことのない土壌(泥炭や黒泥など)が表面に出てきます。これが空気に触れると急に酸化が進み、pHが極端に下がることがありますので、石灰を混ぜて十分に耕うんし、pHを下げることが重要です。
6.畑から水田に戻すときの注意点
高収入のために水田を畑に変えるケースが増えていますが、反対に2〜3年後また水田に戻す場合もあります。畑を水田にした場合、1〜2年目は生育が比較的に旺盛になり、倒伏しやすく、減収や品質低下を招きやすくなります。
これは、①畑栽培では作土全体の土壌が空気と触れやすく酸化状態になるため有機物が分解されて地力窒素が高まる、②土壌がより多くの酸素を含むため水稲の根の活性が高まることで根がよく延びて窒素を多く吸収する、などが理由です。
一方、野菜栽培のために施肥した肥料が残っていて窒素過剰になることもあります。
これらを回避するためには、まず減肥が必要となります。品種の倒伏しやすさの違いや、土の種類によっても考え方は多少異なってきますが、表1のように、倒れにくい品種(ここでは「初星」)と倒れやすい品種(「コシヒカリ」)では、いっそう「コシヒカリ」の施肥量を押さえる必要があります。また泥炭土のような窒素供給量が多い土壌はさらに控えめな窒素施肥が必要で、前作物がムギ・ダイズであった場合は、3年間無窒素で栽培したほうが良いという報告があります。
表1 転換田の水稲に対する基肥(窒素)の減肥率
7.水田の排水対策
(1)暗渠排水
水稲は水を張って栽培する期間だけでなく、水を抜いて乾かす期間も非常に重要です。乾かすことで、土壌に空気が入り根の活力が高まり、有機物が分解し、空気がない状態で発生しやすい「わき」と呼ばれる硫化水素(水田を歩くと出てくる泡)の発生を抑えることができます。このような「中干し」の期間にしっかりと水を排水できないと、根が弱り夏場を乗り切れなかったり、登熟期の窒素吸収が弱まって収量を落とす原因になります。そのためにはきちんと排水できる水田づくりが必要です。
深い耕うんや溝掘りなどで排水を促しても水が抜けない場合は、暗渠で強制的に排水することを奨めます。暗渠排水は、一般に塩ビ管や土管またはコルゲート管(穴の開いた管)などを1〜1.5mほどの深さに埋めて、土壌水を地下から取り出すしくみです。その間隔や太さ、張り巡らし方は土壌の種類や地形によって変わるので状況をよく確認することが重要です。
管を埋める場合も、図1のように籾殻や石れきを混ぜて縦の透水も良くしておきます。また排水の効率が高まるように傾斜をつけることも重要です。土木工事が必要ですので、地域の業者などに相談して施工するのが得策です。
図1 暗渠施工後の断面
(2)FOEASについて
排水機能だけでなく、同じ管を利用して給水(水を地下から土に吸わせる)機能も持たせた装置が「FOEAS」(地下水位制御システム)という名前で開発されています。
図2のように、地下に埋設した暗渠管と補助孔、水位制御器を通じて地下水を上げたり下げたりとコントロールできます。水を溜めたい場合は地下から水を入れることができ、抜きたい場合は暗渠の役割もはたします。また水位制御器を調整することでその中間の水位も可能となるため、圃場の水分を細かく設定できるメリットがあります。水田から畑に、畑から水田に変える場合にも有効です。現在全国で1万haほどが導入されており、さらに普及が進んでいます。
図2 FOEASのイメージ図
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