前回、『イスラムビジネス「ハラル認証」の可能性』というタイトルで「ハラル認証」が将来のビジネスチャンスになりうるのでないかと述べさせていただいた。しかし、「ハラル認証」戦略に懸念点はないのだろうか。今回は日本における「ハラル認証」戦略について述べたい。
ハラル認証における課題
弊社は毎年、農林水産省の支援を受け、全国の6次産業化優良事例を調査しているが、調査した事業者の中に「ハラル認証」を取得した企業がある。その企業は菓子製造業であり、すでにISO9001やHACCPを取得している。その企業が「ハラル認証」を取得するにあたっては、原材料の中に豚由来の材料やアルコールが使用されていないかのチェックだけですんなり取得できたという。
確かに、菓子類等においては、上記に述べたように使用している原料を明確にし、製造ラインや調理場をハラル専用に確立することが出来れば、「ハラル認証」を取得することは決して難しいことではないかもしれない。
しかし、日本において、国産の材料を使用した「ハラル認証」レストランを運営する場合や、「ハラル認証」を取得して牛肉や鶏肉を輸出しようとする場合は、非常に難しい状況となっている。何故ならば、「ハラル認証」の要件の中に畜産におけると畜の要件が厳しく定められているからである。
現在の日本において、「ハラル認証」の要件を遵守しながらと畜することは現実的に難しい。また、仮に「ハラル認証」の牛肉や鶏肉を仕入れることが出来たとしても、流通量が限られており、コスト面で大きな負担になってしまう。
ハラル認証以外の選択肢
では、日本において、ムスリム向けにレストランを運営するのは不可能なのか、また、海外において日本産の食材を使用して外食事業を行うのは不可能なのか。結論から言うと決してそんなことはない。すでに日本の大手外食企業はムスリムの多いマレーシア、インドネシアにも進出しており、成功を収めつつある。
では、彼らがどのような方法で事業展開を行っているのか。その方法の一つが「No Pork(ノーポーク) No Alcohol(ノーアルコール)」である。つまり、「原材料に豚肉・アルコールに由来する原材料は使用していません。」とムスリム消費者にアピールすることが重要なのである。そもそも「ハラル認証」の商品は、認証機関が「ハラル」だと認めた商品ということもあり、ムスリム消費者は安心して購入することが出来る。しかし、「No Pork No Alcohol」の商品も「ハラル認証」こそ取得していないが、原材料に、豚肉に由来する材料やアルコールを使用していない点においては、ムスリムが食することができる商品なのである。"
「No Pork No Alcohol」で気を付けなければならないこと
「No Pork No Alcohol」であったとしても、しっかりとトレーサビリティが確立出来ていれば、許容できるムスリムも大勢いる。実際にインドネシアやマレーシアに進出している外食企業で、「ハラル認証」を取得していないが、「No Pork No Alcohol」をアピールし、さらにムスリムの従業員を雇用することによって、ムスリムから「この店はムスリムを雇用しているし安心だ」と受け入れられ、大繁盛をしている事例もある。
しかし、必ず注意しなければならないことがある。「No Pork No Alcohol」と言いながら、意図的ではなかったとしても、実際は豚に由来する原料やアルコールを使用していたことが公になってしまった場合、日本における偽装問題どころではない大問題になってしまう。ある食品企業の商品が、地元業者側のミスで「ハラル認証」を取得していないにも関わらず、「ハラル食品」の棚に陳列されていたことが発覚し、国を挙げての不買運動に繋がりかねない状況になった事例もある。ムスリムにとって上記の問題は、偽装問題ということだけではなく「宗教への冒涜」となり、国際問題にも発展しかねない大変な問題なのである。
マーケットありきではなく戦略が大事
インドネシアは総人口2億4,000万人のうち2億人がムスリムであり、マレーシアは総人口2,400万人のうち2,000万人がムスリムである。また、ムスリムは世界で増え続けており、世界人口の4人に1人、将来的には3人に1人となるイスラムマーケットは非常に有望なマーケットであることは間違いない。また、イスラムマーケットを対象とするからといって、「ハラル認証」を取得することが唯一の選択肢とは限らない。自らが勝負する商品が、日本において「ハラル認証」を取得しやすい商品なのか、インバウンド向けなのかアウトバウンド向けなのか、しっかりと戦略を練ってイスラムマーケットに挑むことが重要なのではないだろうか。
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