これまで、「知的財産推進計画」や「農林水産省知的財産戦略2020」など、農業分野における政府の知的財産戦略についてご紹介してきましたが、それらの中では、農産物のブランド保護に関する施策の重要性が強調されています。今回からのコラムでは、農産物のブランドを保護するためにはどうすればいいか、その具体的な方法について解説していきたいと思います。
1 ブランド保護の必要性─偽物や便乗商品などをめぐる事例
これまでにも、我が国の農作物の名称や品種を勝手に利用した農産物が海外で出回っているという事例が、多数確認されています。
例えば、中国では、ブドウの「シャインマスカット」が無断で栽培されているそうですし、韓国では、栃木県のイチゴ「とちおとめ」が勝手に他品種と交配され、「錦香(クムヒャン)」という品種として出回っているそうです(2017年12月18日付け読売新聞記事)。同じく栃木県のイチゴ「スカイベリー」は、中国で無関係な上海の企業に商標権を取られてしまっているそうです(2017年9月27日付け東京新聞記事)。
その他、中国などで日本の地名やブランド名の商標出願が勝手になされることが多く、これまでにも「松阪牛」に似た「松坂牛」や「松板牛」、「西尾の抹茶」をローマ字で表した「NISHIO MATCHA」などが出願されているそうです(2017年9月6日付け日本農業新聞記事)。
このように、海外で我が国の農作物の名称や品種が勝手に使われるという事態が相次いでおり、このような名称や品種の無断利用による経済的損失は、決して小さくないものと考えられています。
2 ブランド保護のための知的財産権の重要性
このような事態を避けるためには、海外で商標登録や品種登録などを行う必要があります。
商標登録をすれば、農作物の名称やマークなどについて商標権が取得できますし、品種登録をすれば、登録した品種について育成者権を取得することができます。
商標権を持っていれば、指定した特定の商品やサービスについて、独占的に登録した名称やマークを使用することができますし、育成者権を持っていれば、登録した品種について、独占的に業として生産・販売などをしたりすることができます。「独占的に」というのは、他の人が無断で登録した名称や品種を使おうとしたときであっても、それをやめさせることができるということです。
例えば、福岡のイチゴ「あまおう」は、商標登録も品種登録もされています。これを例に、商標権と育成者権についてまとめると、以下のようになります。
3 海外でのブランド戦略
知的財産権は、基本的には国ごとに認められる権利ですから、国内で商標登録や品種登録を行っていても、海外で商標登録や品種登録を行っていなければ、海外での名称や品種の無断利用を防ぐことはできません。せっかく苦労して品種を開発し、有名になってきた農作物であっても、何もしないままでいると、偽物や便乗商品などに勝手にその名称や品種を利用されてしまう可能性があるのです。
このような偽物や便乗商品などが出回るという事態を避けるために、上記の商標権や育成者権など、知的財産権をうまく活用することが必要になってきます。商標権や育成者権を取得するといっても、いろいろと手続や条件がありますので、まずは制度を正しく理解することが重要です。次回以降のコラムでは、商標権についての制度の概要を解説していく予定です。
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