地域はこの機会を活かすために、マーケティングを強化。
訪日個人旅行者の動き、Wi-Fi接続データによる分析が可能になった。
以前からじゃらんリサーチセンター(以下JRC)では、国内の携帯端末の位置情報による旅行者の動態調査をしてまいりました。今回新たに、同様の手法で訪日旅行者にフォーカスした動態分析サービスを開始しました。試験的に分析を行った奈良県での結果から、特に個人旅行者の動きを把握した施策の考案が見えてきました。
個人旅行者に多いWi-Fi経由の情報収集
国内旅行者・訪日旅行者問わず、その大半が所持しているスマートフォンやタブレットです。これらの携帯端末が発する位置情報を分析すると、旅行者の動きを把握することができます。分析に使用するデータは、携帯端末が基地局と通信する電波(訪日旅行者の場合は国際ローミング)や携帯端末に内蔵されているGPSから収集することができます。
JRCが行った奈良県での調査は、Wi-Fi接続が可能な『Travel Japan Wi-Fi(以下TJW)』という観光情報アプリ利用者のWi-Fi接続履歴データを活用しました。旅行者は事前に携帯端末にこのアプリをダウンロードし、国内最大20万カ所のアクセスポイントを通じてWi-Fiに接続ができます。ここに今回のデータ元となる“接続履歴”が残ります。このデータでは、全国の観光地別の来訪者数ランキングや地域ごとの来訪者数、曜日・時間ごとの滞在人数といった静的分析はもちろん、地域内でよく通行されている経路、流入・流出経路などの動的分析も可能になります。
奈良県来訪率は全国7位、他データでは10位
奈良県内のアクセスポイントは2300カ所ありますが、対象となった7万1672人のうちここへ接続した人は調査期間中に1万2908人で全国7位。しかし、奈良県が従来把握していた訪日旅行者全体の奈良県への来訪率は全国で10位前後。この違いは、TJW利用者に個人旅行が多いと仮定すると、個人旅行者の奈良への訪問率が高いことに因ると考えられます。
「滞在は奈良市に集中、夜間人口は少ない」
地図上をエリアで分け、滞在人数別に色分けをした「ヒートマップ」では、より人が集まっているエリアを感覚的につかむことができます。県全体への来訪者1万2908人のうち、奈良市の来訪者は1万2221人と圧倒的なシェアになっており。奈良県の来訪者数をそれぞれ昼間(6時〜18時)、夜間(18時〜24時)、深夜(24時〜6時)と分けてみると、宿泊時間帯と想定される深夜帯はより滞在エリアが限定されています。さらに、奈良市内に限定してフォーカスすると、JR奈良駅のある三条本町周辺に人が集中している様子が見て取れます。また、指定したエリアへの曜日別・時間帯別の滞在人数を把握できる「タイルマップ」では、滞在人数が多い曜日・時間帯は赤、少ない曜日・時間帯は緑に塗り分けられ、視覚的に全体像をつかむことができます。奈良県の場合、曜日別では週末、時間帯では昼間に滞在が集中し、夜間〜深夜帯には人口が大きく減少しています。これらの結果は「地域内での夕食やお酒を飲むなどの比較的高単価な消費」や「宿泊滞在者」が少ないなどの奈良県が事前に感じていた課題が示されています。
サンプル数は少ないものの、国籍別の曜日別滞在者数の違いなども見ることができ、曜日ごとのイベント実施なとの施策も考えられます。
滞在は大阪と京都のセット
動的分析として、旅行者が県内のどこを通っているのかを見ることができるのが「主動線分析」。奈良県では、集中した動線が見られたのが近鉄・JR奈良駅周辺であり、奈良市内のこれらの拠点が訪日旅行者の観光におけるハブとなっていることが再認識できました。こういった拠点に対し外国人向けの情報発信をしていくことで、観光施策として効果を上げていくことができるのではないかと、考えられます。
客観的に「傾向」を把握
今まで奈良県では、地域の事業所(宿泊施設等)発信のデータは集まりづらかったり、自県への訪日外国人についてのJNTO(※)発表の全体データは実際の感覚値とは異なる印象を受けていたりとデータ収集に課題がありました。一方で今回の調査では明確な客観的データを得ることができました。現状で絶対数の多い中国人団体客の誘致にミスマッチを感じ、「自ら携帯端末で情報収集をしつつ旅をする個人旅行者」に着目していた奈良県にとっては、仮説の裏付けともなりました。今後は、町の「通り」単位での動線を見たり、ターゲット旅行者別に絞り込んだりとより詳細な調査を重ねていく考えのようです。
(※)JNTO:Japan National Tourism Organization(正式名称:独立行政法人 国際観光振興機構)
世界14 都市に海外事務所を持ち、日本へのインバウンド・ツーリズム(外国人の訪日旅行)のプロモーションやマーケティングを行っています
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
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