高まる国産チーズ熱
国内でもチーズ作りが盛んになってきた。去年11月、都内で中央酪農会議が開いたナチュラルチーズコンテストでは、全国73カ所のチーズ工房から160余りのチーズが出品され、その美味しさを競い合った。
国内で作られているのは、ブルーチーズやゴーダチーズなど長期間熟成させたものから、モッツアレラやカマンベールなどのミルクの美味しさをそのまま味わえるものまでさまざま。それをチーズの種類ごとに、6人の審査員が、見た目や香り、それに食感や味などを確かめ、受賞製品を絞り込んでいく。
このコンテスト、酪農家の生産者団体やチーズの専門家団体が、チーズ作りの技術向上や情報交換を目的に、毎年開いているもので、こうした取り組みもあって、いまや国産のナチュラルチーズは海外のコンテストでも賞を獲得するなど高い評価を受けるようになってきた。
牽引するのは農外からの新規参入
チーズは生乳の質や乳酸菌、熟成させる期間で様々な味と種類があり、比較的特徴の出しやすい商品だとされる。
こうした国内のチーズ作りを牽引するのは、酪農家とともに、農業以外から参入してきた若い人たちだ。
2006年は106だったチーズ工房は年々増え、いまでは284と3倍近くになり、北海道から沖縄まで分布する。その半数がこうした農外からの新規参入だとされる。
拡大するチーズ需要と逆風
背中を押すのは国内のチーズ消費の拡大だ。1995年には18万トンだった国内のチーズの消費量は、2016年には30万トンにまで増えた。しかもそれでも、チーズの一人あたりの消費量は年間2.2キロと、フランスの26キロやアメリカの16キロと比べるとずっと少ない。こうした国には及ばないとしても、国内のチーズ需要は今後も伸びると見られている。
ただ、日本のチーズを巡る環境は、順風ばかりではない。需要が増えてきたとはいえ、80%以上は、オーストラリアやEUなど海外からの輸入品。チーズの種類も豊富で、国内産チーズの割合は10数パーセントに過ぎない。さらに先月、日本とEUは経済連携協定の交渉が妥結し、一定の枠内とはいえ、ナチュラルチーズの関税が撤廃されることになった。競争はますます激しくなる。
地域性と鮮度を活かす
原料の生乳が半額程度のEUのチーズが安く入ってくれば、価格では敵わない。であれば、ある程度高くても、消費者が買ってくれるチーズを作るしか無い。そのカギともなるのが、鮮度と地域性を活かした日本ならではのチーズだろう。
長野県佐久市にある「ボスケソ」は、自動車メーカーでF1やジェット機などの開発に関わっていた是本健介さんがチーズの美味しさに魅せられ、2年前に立ち上げたチーズ工房だ。ボスケソはスペイン語で森という意味のボスとチーズのケソを合わせた森のチーズという意味で、工房が森のそばにあることに由来する。
是本さんが目指すのは、佐久の料理にあうチーズだ。長野県佐久市と言えば、ワインだけでなく日本酒やキノコ、ジビエなどが有名。そのために原料は地元の生乳や山羊の乳。チーズを発酵させる乳酸菌も、近くの酒蔵から譲ってもらったものも使っている。
地元の食材を生かすのは、その地域でとれた生乳や、地元の酵母や乳酸菌で作られるチーズだとされる。出来たチーズは地元のレストランに卸すほか、インターネットや、店舗でも販売している。レストランで食べた客が、店舗まで買いに来ることも多いという。
新たな参入が産業を活性化する
是本さんのチーズ工房は、佐久の市街地からも車で30分ほど、値段も100グラム当たり500円から1100円と安くは無い。それでも遠くから買いに来たり、地元のお酒と楽しんだりと人気は高い。その土地にはその土地なりのチーズがあり、それを地域の中で楽しむ。しかも消費期限の短いフレッシュなチーズは、輸入チーズでは味わえない。そう考える消費者も増えてきた。
いま全国各地に広がるチーズ工房の半数が、チーズ好きが高じてこの業界に参入してきた人たちだ。そこには生産者にはない消費者の視点がある。チーズ好きの人が次々とチーズ作りに参入し、業界を活性化している。
チーズの原料となる生乳はかつては大手メーカーでなければ、利用することは難しかった。しかし規制緩和により小規模なチーズ工房でも生乳を手に入れやすくなり、さらに今後、法律改正で生乳の確保はより簡単になる。外部の人たちを受け入れる準備は整いつつある。そこで国内のナチュラルチーズがどんな発展を遂げるのか、消費者としても注目している。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日