今回は、これまで解説してきたものを含む、個人情報保護法に登場する基本的な概念を踏まえつつ、個人情報取扱事業者の義務の全体像を解説します。
1 個人情報保護法に登場する基本的な概念のまとめ
(1) これまでに解説した概念の確認
「個人情報」とは、生きている個人に関する情報であって、特定の人のものだとわかるもののことです(個人情報保護法2条1項参照)。
「個人データ」とは、個人情報のデータベースに入れられた個人情報のことです(個人情報保護法2条6項参照)。
「保有個人データ」とは、6か月以内に消す予定のない個人データのことをいいます(個人情報保護法2条7項、個人情報保護法施行令5条参照)。
「個人情報取扱事業者」とは、個人情報のデータベースを事業のために使う民間事業者のことです(個人情報保護法2条5項参照)。個人情報のデータベースとは、特定の個人情報を検索できるようにまとめたもののことで、具体的には、五十音順に見出しラベル付きで整理された名刺の束、個人情報がまとめられたパソコンの表(名簿)、個人情報が登録された携帯電話の電話帳などが個人情報のデータベースの例です(個人情報保護法2条4項参照)。
(2) 要配慮個人情報
個人情報保護法に登場する基本的な概念のうち、これまでに解説していないものとして、「要配慮個人情報」があります。これは、本人に対する不当な差別や偏見などの不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮が必要な内容が含まれる個人情報のことです(個人情報保護法2条3項参照)。具体的には、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪によって被害を受けた事実などが含まれる個人情報が、要配慮個人情報に当たります。
詳しくは、今後個人情報に関する義務などの中で改めて解説しますが、この要配慮個人情報については、本人の同意がある場合のほか一定の場合以外取得することができないなど、特別なルールが設けられています。
2 個人情報取扱事業者の義務
個人情報保護法は、個人情報取扱事業者が個人情報などを取り扱う際のルールなどを定めた法律です。そして、先回のコラムで述べたとおり、個人情報保護法では、個人情報、個人データ、保有個人データと取り扱う対象が変わるに従って、個人情報取扱事業者に課せられる義務が重くなっていきます。
この、個人情報取扱事業者が取り扱う対象と課せられる主な義務の関係を示したものが、下の図になります。具体的にどのような義務が課せられるかはまだ解説していませんので、個人情報・個人データ・保有個人データについて、義務が重くなっていくイメージだけつかんでいただければ結構です(要配慮個人情報については、ひとまず気にしないでください。)。
個人情報保護法上、個人情報に関して個人情報取扱事業者に課せられる義務は、①〜⑤の5つです。個人情報取扱事業者が個人情報を取り扱う際は、①〜⑤の義務を守らなければなりません。
これに対し、個人データに関して個人情報取扱事業者に課せられる義務としては、①〜⑤の義務に加え、⑥〜⑬の義務があります。個人情報に関する5つの義務の上に、8つの義務が上乗せされるわけです。
さらに、保有個人データに関して個人情報取扱事業者に課せられる義務としては、①〜⑬の義務に加え、⑭〜⑱の義務があります。個人情報に関する5つの義務、個人データに関する8つの義務の上に、5つの義務が上乗せされるわけです。
いかがでしょう。義務が重くなっていくイメージ、分かっていただけたでしょうか?
なお、個人情報取扱事業者といっても、事業者の規模や取り扱う個人情報の量は様々ですから、全ての事業者に同じレベルの対応を求めるのは難しい面があります。そこで、一部の義務(上の図の⑦安全管理措置)については、中小規模事業者に配慮した対応方法の例が、個人情報保護委員会の定めたガイドライン(「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)で示されています。詳しくは、個人データに関する義務の中で解説します。
以前のコラムでも述べたとおり、改正された個人情報保護法の内容が全て施行されるのは、平成29年5月30日と決まりました。個人情報保護法の改正によって、個人情報のデータベースを事業のために使う事業者であれば、事業で取り扱う個人情報の数に関係なく個人情報取扱事業者に該当することになります。これまで個人情報保護法を意識してこなかった事業者は、平成29年5月30日までに個人情報保護法のルールを理解し、課せられる義務を守るための体制を整える必要があります。
先ほどの図のとおり、個人情報取扱事業者の義務は多種多様ですので、このコラムでは、主な読者である農業経営者の皆さんにとって重要と思われる義務を中心に解説していきます。次回のコラムでは、個人情報に関する義務について取り上げる予定です。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
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