先回は、農業分野での知的財産に関する最新の取り組みとして、政府が定める「知的財産推進計画」における最新の取り組みをご紹介しました。今回は、農林水産省が定める「農林水産省知的財産戦略2020」の内容を取り上げ、今後の農業分野での知的財産に関する政策の展望をご紹介します。
1 「農林水産省知的財産戦略2020」について
これまで農林水産省は、農林水産業分野での知的財産に関する政策の方向性について、平成19年に「農林水産省知的財産戦略」を、平成22年に「新たな農林水産省知的財産戦略」を、それぞれ策定してきました。平成19年の「農林水産省知的財産戦略」では、概ね3年程度を念頭に具体化すべき必要な施策が取りまとめられ、平成22年の「新たな農林水産省知的財産戦略」では、平成22年度から平成26年度までの5年間に実施する戦略が取りまとめられました。
そして、平成27年に定められた「農林水産省知的財産戦略2020」では、平成31年度までの概ね5年間に実施する戦略が取りまとめられました。先回ご紹介した「知的財産推進計画」は毎年定められるもので、その時々の最先端のトピックが取り上げられていますが、「農林水産省知的財産戦略」は数年ごとに定められるものです。「知的財産推進計画」の内容と重なる部分もありますが、これを見れば、農業分野における知的財産に関する政策の長期的な方向性がわかるということができるでしょう。
2 「農林水産省知的財産戦略2020」の内容
「農林水産省知的財産戦略2020」では、主に以下のような内容が取り上げられています。
① 技術流出対策とブランドマネジメントの推進
外国で、ブランド品の偽物(「模倣品」といいます。)などが出回っているという話を耳にしたことがあると思います。これは、農産物についても同じで、外国では勝手に日本の著名な地名をうたった農作物が流通していることがあります。これでは、日本の農作物のブランドの価値が大きく損なわれてしまいます。そこで、「農林水産省知的財産戦略2020」では、知的財産を活用して、特殊な農法でつくられる農産物についての技術の流出の防止という観点を踏まえながら、日本の農産物のブランドを守り、そして世界的に展開していこうという方向性が打ち出されています。
知的財産を活用してブランド価値を守り、高めている例としては、先回のコラムでも図表で紹介した、イチゴの「あまおう」が挙げられます。「あまおう」は、外国でも知的財産権を取得しており、外国の市場において高値で取引することに成功しているということです。
農林水産省「農林水産省知的財産戦略2020〜そのポイント〜」3ページより
② 知的財産の保護・活用による海外市場開拓
また、上記①とも関連しますが、「農林水産省知的財産戦略2020」では、和牛、果実等の産品について策定された統一マークや輸出促進ロゴマーク(おいしいマーク)を活用するなどして、海外の市場で日本の農産物がより広く受け入れられるような施策を進めていくこととされています。
農林水産省「農林水産省知的財産戦略2020〜そのポイント〜」5ページより
③ ICTによる農林水産業の知の抽出と財産化、及びその活用による新事業の創出
先回のコラムでも述べたとおり、農業分野では、農業従事者の高齢化と労働力不足が課題として認識されています。これらの課題を克服するため、「農林水産省知的財産戦略2020」では、農業においてもロボット技術やICT(情報技術)を活用していくという検討がされています。これは、先回のコラムでも「スマート農業」としてご紹介したものと同じようなものです。
例えば、熟練農家の経験に基づく技術やノウハウ(匠の技)について、ICTを活用してデータ化し、分析して、今後新たに農業に携わる人などにスムーズに受け継いでいくことができるようにすることが検討されています。
そして、その具体例としては、JAふくおか八女の取り組みが挙げられます。福岡県八女市のカンキツ産地では、一部で導入されている被覆資材(マルチ)と点滴灌水(ドリップ)を組み合わせた栽培法を、アイカメラや動作センサー等のITを活用してデータ化し、新規就農者が簡単に技術やノウハウを身に付けることができるようにするという実験を平成24年度から行っているそうです。その結果、平成26年度の実験では、新規就農者が栽培するミカンの最終の品質(評価点)が9%向上したということです。
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