農業の所定労働時間
労働基準法は、1週40時間、1日8時間労働と1週間に最低1日の休日を原則としていますが、労働基準法第36条により時間外労働・休日労働に関する協定(以下「36協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出ることを要件として、時間外労働として、1日または1週の法定労働時間を超えて労働させ、あるいは休日労働として1週1日または4週4日の法定休日に労働させることを認めています。労働基準法で限度として定めている1日8時間及び1週40時間のことを「法定労働時間」といいます。また、「所定労働時間」とは、会社等で定めた労働者に働かせることができる労働時間のことで、たとえば、1か月の所定労働時間とは、月給制の従業員が1か月間に働くことを義務付けられている時間のことです。農業では、労働基準法第41条で労働時間、休憩、休日等のいわゆる労働時間関係については適用除外とされており、労働基準法の規制がありません。これは、他産業では所定労働時間を設定するにあたっては、原則として法定労働時間である1日8時間、1週40時間を超えて設定することはできませんが、農業では法定労働時間を超えて所定労働時間を設定することが可能だということです。
もちろん、他産業でも労使間で36協定が締結されていれば、使用者は労働者に法定労働時間を超えて労働させることは可能ですが、この場合、法定労働時間を超えて労働させた分については法律で定められた割増賃金を支払わなければなりません。ところが農業では、法定労働時間から大きく逸脱しない範囲で、1日の所定労働時間や1週間の所定労働時間を法定労働時間に縛られることなく自由に設定することが可能だということであり、また、他産業のように残業時間に対して割増賃金を払わなければならないということもありません。
したがって、この労働時間の設定が農業の労務管理の大きなポイントだといえますが、農業の労働時間関係が労働基準法の適用除外となっている理由は、農業は、農閑期に十分休養を取ることができる等の理由から、法定労働時間等の原則を厳格な罰則をもって適用することは適当でなく、法律で保護する必要がないと考えられているからあり、使用者は、労働者に「長時間労働をさせてもよい」などと誤った理解をしないよう留意しなければなりません。
たとえば、農繁期には1日や1週間または1か月の所定労働時間を長く、反対に農閑期には所定労働時間を短く設定するといったことが可能です。休日を農繁期は少なく、その分農閑期に多くし、年間を通じた休日数を他産業並みに付与しているというケースもあります。
所定労働時間を法定労働時間の「週40時間」を基本に設定している事業場が農業の現場でも年々増えています。最近の農業労働は、高度化・通年化など大きく変化してきていますし、他産業を大きく下回るような労働条件で優秀な労働力を確保することは困難なことなどの理由から、所定労働時間や休憩・休日の設定は、できるだけ法定労働時間に近づけるよう努力すべきでしょう。
外国人技能実習生の所定労働時間
外国人技能実習制度(以下「技能実習制度」という)は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、開発途上国等の青壮年労働者を日本の産業界に技能実習生として受け入れ、一定期間在留する間に実習実施機関において技術・技能、知識を実践的かつ実務的に習熟させる機会を提供することで、諸外国等への技術・技能の移転と経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする制度です。技能実習制度においては、他産業との均衡を図る意味から、①労働時間関係を除く労働条件について労働基準法を遵守すること、②労働基準法の適用がない労働時間関係の労働条件について、基本的に労働基準法の規定に準拠すること、とされているため、所定労働時間は法定労働時間に縛られることになります。具体的には、原則として1日8時間、1週40時間を超えて労働させてはならないということになり、技能実習生に時間外労働や休日労働をさせるには事前に「36協定」の締結及び届出を済ますことが必要になります。また、法定労働時間を超えて労働させた時間については法定以上の割増賃金を支払う必要があります。
なお、36協定に記載する「延長することができる時間」は、技能実習生と結んだ雇用契約書の「所定時間外労働」欄に記載した時間の範囲内となり、一般的に「1日」と「1か月」及び「1年」で定めます。中には、労働基準監督署の調査で技能実習生の時間外労働が36協定で定めた時間より多いと指摘されるケースがありますが、協定で定めた時間を超えて労働させることはできませんので注意してください。
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