今回は農産物加工の成功ポイントについて述べる。加工は6次産業化において1次産品に新たな価値を加える為の重要なプロセスである。しかし、間違った加工を行うと、かえって価値を損なう場合もある。
一概に加工すると言っても多岐に亘る選択肢の中で「何を」作るのかということをきちんと明確にしなければならない。その上で、農産物加工の成功ポイントとして、①マーケットを明確にした商品開発、②身の丈に合った生産体制の構築、③安全な商品の安定供給の3点を挙げたいと思う。
では、成功ポイントごとの具体的な内容について事例を用いながら解説していく。
マーケットを明確にした商品開発
6次産業化において、農産物の付加価値を高める為に加工は重要なプロセスであるが、前述のようにただ加工をすればよいというものではない。素材を活かして、誰をターゲットに、どのようなシチュエーションで飲食されたり、利用されるのかを想定して商品開発をすることが大切である。
沖縄県読谷村にある(株)御菓子御殿の主力商品は今や沖縄土産の代名詞になっている「紅いもタルト」だが、当社が村おこし事業で地元農家と連携し、全国で初めて「紅いも」を使用したお菓子として開発した。ターゲットを「観光客」とし、沖縄県内に「御菓子御殿」という直営店舗を8店展開している。
最近では、これから増えるであろう東南アジアの外国人観光客向けに一部の工場でハラル認証も取得している。
身の丈に合った生産体制の構築
農産物を加工するためには、技術やノウハウ、また加工施設や保存する為の設備も必要であるが、無理な投資をせずに身の丈に合った生産体制をいかに構築するかが重要となる。
高知県安芸郡にある馬路村農業協同組合は地元農家が栽培するゆずを活用して、「ごっくん馬路村」(ゆず果汁ドリンク)や「ゆずの村」(ぽん酢しょうゆ)を中心に様々な商品を開発している。
現在では自社工場内に受注窓口であるオペレーター室やデザイン室、配送センター、研究所なども同施設内に設置し、一貫体制を構築することによって新商品の開発から生産までスピード感を高めている。
しかし、加工に取組み始めた1975年当初から前述のような一貫体制を構築していたわけではなく、最初は小さな規模からスタートし、少しずつ利益を確保し、実績を積み上げ周囲を納得させながら、徐々に規模を拡大していったのである。まずは共同加工センターなど地域にある施設を活用しながら、身の丈に合った生産体制で加工に取組むことが重要である。
安全な商品の安定供給
農産物を加工しても、安全で品質が安定した商品を製造できなければお客様から信頼を得ることはできない。その為にISO(国際標準化機構が定める各種国際規格)やHACCP(食品の製造工程における品質管理システム)を取得することも一つの方法になる。また、1年を通じて安定して商品を供給できなければならない。しかし、多くの農産物は収穫できる期間が限られていることから、産地リレーをすることで調達期間を伸ばしたり、原料を長期保存することで安定的に原料の確保をすることが重要である。
千葉県香取市にある農事組合法人和郷園は92戸の農家が組合員となり、野菜、きのこ、花卉を生産している。彼らは安定した品質の商品を提供する為に、農薬や堆肥の使用に関する和郷園独自の生産管理基準を設け、組合員の農家にこの基準の遵守を求めている。また、野菜は収穫時期が限られるホウレン草や小松菜を旬の時期に大量生産し、収穫後すぐに加工して冷凍保存をすることによって、1年を通して最も美味しい状態で提供できるようにしているのである。
農産物加工を成功に導くために
農産物加工においては、よく「プロダクト・アウト」と「マーケット・イン」という言葉が用いられる。「プロダクト・アウト」とは、自分が生産した農産物ありきで加工品を作ることである。実際に加工してみたものの、誰に、どうやって販売したらよいのかわからないという状態に陥りがちである。反対に「マーケット・イン」は、お客様のニーズを把握して、お客様が求めている商品を開発することである。
商品開発には「マーケット・イン」の考え方が重要であると言われる。しかし、必ずしも顧客ニーズに合った加工品の原料となる農産物を生産できるとは限らない。よって、生産者の農作物の良さを活かした「プロダクト・アウト」と「マーケット・イン」をすり合わせて、お客様が求める「その地域にしかない」商品を開発することが最も重要なのではないだろうか。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
公開日