1.提案型で出口を攻めよう
農産物の出口戦略を考える上でまず大切なことは、売り込まなくてもよいようにすることです。相手の意向を聴いて提案してから生産すれば双方の問題解決になり、未知の市場を創りだす可能性すらあります。そこでは余っているからと言って相手にいらないものを押し付けないことがポイントです。
みなさんもたまには高級寿司屋に行くこともあるでしょう。そこでは着席してすぐに自信のあるネタはどうで、旬は何でおすすめはどうだ、といった話はしないはずです。まずは「お嫌いなものはございませんか」と尋ねられるのではないでしょうか。顧客は押し付けを嫌うことをよくわかっているのです。その後店が気に入ってリピーターになれば必要なものは察しがつきますし、常連になってはじめて「あなただけですよ」と言って希少なネタをおすすめすればよいのです。提案が評判になれば顧客が次の顧客を呼んでくれるでしょう。経営上営業コストもムダにはできません。ネタの提案力を磨くことこそ第一歩です。
2.売れる農産物の7つのポイント
さて、提案されたいような、具体的に売り込まなくても売れる農産物には時流により以下の7つのポイントがあります。まず生産方法は①自然の生理にかなったものであること。オーガニックなどの環境保全型農業が事例です。次いで②個性③機能性に注目できること。違いを示しやすく、フィットするものが見つかれば顧客の気持ちは豊かになります。さらに食の④サラダ化⑤手軽化が提案できること。カロリーを控え、野菜と鶏肉や魚を中心とした健康的な食生活志向が年々強まっています。また高齢化に加え女性のさらなる社会進出を後押しする手軽化も顕著であり、これらは最も伸びている分野です。かつ飽食の時代ですから⑥おいしさを追求しなくてはリピーターになってもらえません。最後に⑦「いいね!」という共感性で顧客の心を離さないことが最重要と言えます。共感性を上げるには「見える化」も有効で、生産現場のありのままを情報発信することで生産者と消費者の関係は近づきます。
7つのポイントを効果的に生かすために大事なのはターゲットを明確にすることです。例えばレストランのシェフはお客の呼べる①②③を欲します。働く女性なら④⑤。スーパーや外食産業はカットした形で提供することを忘れてはいけません。また⑥おいしさ(嗜好)は人それぞれですし提供の仕方で異なります。しかし画一的にするのは農産物では極めて困難です。そこで不特定多数の人に提供する場合は某国民的女性アイドルユニットの売り方が参考になります。このユニットはさまざまなタイプの女性を何十人と揃えているグループです。大勢で売るのは誰がおいしい(売れる)のかなど事前にはわからないからです。また彼女たちは共感性が大事だということも教えてくれます。想いを伝えることで人の心を動かし、民主的に投票で選抜されています。農産物も同じです。生産者ご自身がご家族や身の回りの大事な人に喜んでもらおうと生産したものを、同じ気持ちで消費者に提供しているケースがヒットにつながります。喜ぶ人がいないものは生産しても仕方がありません。
3.出口のポートフォリオを管理しよう
二十数年にわたり人気を誇ってきた国民的男性アイドルユニットの解散が報じられたことがありました。原因は事務所都合のようですが、これはどんなに売れていても何らかの経営判断で取引がなくなってしまうことを示唆しているのではと筆者は考えています。つまり収入を一か所に依存していては危険であり、常に突然売れなくなることを織り込んでいなくてはいけません。そこでこのアイドルユニットと同じように個性を生かしA社20%、B社20%というように五分割の販売先のポートフォリオを作ってバラ売りで運用していくことを勧めます。安全性が増すだけでなく普通は出荷先毎にニーズが異なるものなので、サイズや等級、部位の偏りを解消できる可能性もあります。
同じように経営資源に余力があって増産を考えているのであれば、先の7つのポイントを参考にして商品化を考えた上で、五分の一だけ増産するようにしましょう。一方こうした販売戦略を考える以前の問題で、日本の農業では経営資源か技術のどちらかが不足していて増産できないケースが大多数のように感じます。皆消費者の減少に対応して付加価値(=単価)向上を目指していますが、一方で、売れるのに生産が減り希少価値が出てきているケースも多いのです。ですからまずは時間のあるときに必ず既存の売り先上位のもとへ足を運び、自分の話をせず相手の話を聞くことから始めましょう。それだけで経営効率はかなり違ってくるはずです。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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