コラム・法務では、農業経営者であるA社長が中学時代の同級生であるB弁護士に身の回りで起きた法律問題について質問したり、相談したりします。
今回は、A社長の知り合いの農業経営者Cの購入した機械(生産ライン)が決められた納期までに納品されなかった話のようです。さて、どんな問題について質問、相談したのでしょうか。
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A社長
- 元気そうだな。そうだ、聞いてくれよ。この前、知り合いのCが7,000万円かけて新しい機械(生産ライン)を導入したんだよ。
でも、機械が納期までに納品されなかったんだ。出荷の忙しい時期に間に合わなくて、大変だったんだよ。
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B弁護士
- 久しぶりに会って、いきなりトラブルの話かよ。しかし、Cさんは困っただろうね。
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A社長
- そうなんだ。Cのやつ、「新しい生産ラインになるから、今までの倍の生産が可能だ!」とか言ってはりきってたのに。
ただ、それだけじゃないんだよ。仕方がないから、代わりの機械をレンタル会社から借りて生産したんだけど、そのレンタル機械の不具合で製品に不良が出て、出荷した製品を全部回収することになってしまったんだ。ものすごい損害が出ただけでなく、信用まで失ってしまって…。Cに掛ける言葉もないんだよ。
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B弁護士
- お気の毒に。
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A社長
- こういう場合、当然、Cの損害は全部機械メーカーに補償してもらえるんだよな?
機械メーカーが納期に納品しなかったのが悪いんだから。失った信用はお金では取り返せないけどさ。
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B弁護士
- まずは機械の売買契約書を見てみないとな。
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A社長
- えっ?何を言っているんだよ。契約書なんてどれも一緒だよ。それに、納期に遅れたんだから、その責任を取るのは当たり前だろ。
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B弁護士
- まず、納期に遅れたという点だけど、それは本当に機械メーカーのせいなのか?
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A社長
- 当たり前じゃないか。
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B弁護士
- 発注者が納期間際になって、機械メーカーに仕様を変えるように指示する、なんてケースもあるよ。
そういう場合は、納期に遅れたのは、機械メーカーのせいなのか、発注者が無理な指示をしたことによるのかが問題になるんだ。
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A社長
- 納期に間に合わなくなるのなら断ればいいだろう。
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B弁護士
- 機械メーカーのほうで、「このタイミングで仕様を変更した場合、納期に間に合わない可能性が高い。」といった説明をしたり、書面を出したりしていないか確認した方がいいかもね。
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A社長
- そういうものなのか。
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B弁護士
- それから、契約書はどれも一緒じゃないんだよ。例えば、損害賠償の範囲を制限するような契約も有効なんだ。
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A社長
- そんなのずるいだろう。
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B弁護士
- いや、ずるくはないんだよ。
契約自由の原則といって、法律の規定と違った契約をしたら、ほとんどの場合、契約の方が優先するんだ。
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A社長
- 契約書なんて普通はろくに読まないだろう。
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B弁護士
- 契約書の中に、「損害賠償の範囲は、金1,000万円を上限とする」とか、「損害賠償の範囲は、機械の代金の範囲に限られる」といった条項があれば、損害賠償の範囲は限定されてしまうんだ。
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A社長
- 知らなかったよ。
これからは、うちが契約を結ぶときは事前に契約書をチェックしてくれ。
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B弁護士
- わかったよ。まあ、契約書で、損害賠償の範囲について、変な制限が付けられていることは少ないけどね。
高い機械を売っておいて責任は負わないのかーって、営業マンがお客さんに怒られちゃうからな。
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A社長
- それはそうだな。
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B弁護士
- あと、契約書におかしな条項がなければ、Cさんが全ての損害について機械メーカーに補償を求められるかというと、そうともいえないぞ。
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A社長
- どういうことだ。
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B弁護士
- 損害賠償の範囲は、「通常の損害」に限られるのが原則なんだ。
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A社長
- Cの損害は、全て通常の損害だろう。だって、実際に起こったことなんだぞ。
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B弁護士
- 実際に起こったから「通常の損害」になるとは限らないさ。
Cさんのケースだと、レンタルした機械に不具合があって製品を回収しなければならなくなったというのは、機械メーカーの納品に遅れがあったら通常起こり得ることといえるのかな。
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A社長
- うーん、そうか。機械をレンタルせざるを得なくなったのは、納品が遅れたからだが、そのレンタルした機械に不具合があったというのは、通常起こることとまではいえないかもしれないな
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B弁護士
- そういうこと。だから、その損害は、機械メーカーではなく、レンタル会社に請求するのが筋だね。
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A社長
- 機械メーカーにはどんな請求ができるんだ?
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B弁護士
- Aが言ったように、機械をレンタルせざるを得なくなったのは、納品が遅れたからだよな。だから、機械のレンタル料は請求できるだろう。
それから、新たな生産ラインで生産できなかったことで、生産能力が落ちて売り上げが減少したとする。その場合の売上減による損害も請求できるだろう。
また、生産能力が落ちた分、人を増やして対応したという場合は、増加した人件費も請求できると思うよ。
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A社長
- 失った信用については、お金で補償してもらえないのかな。
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B弁護士
- 信用を失ったことで損害が発生するかどうかは、現時点ではわからないよね。
今回のことで得意先を失い、今後の売上げが大幅に減ってしまったというようなことになれば、請求できる可能性が出てくるんじゃないかな。
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A社長
- なるほど。でも、損害賠償を請求できても、得意先を失っては仕方ないからな。
Cが立ち直れるように応援しないとな。明日、Cを励ましに行くことにしよう。
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