前回、日本のコメ市場の予測について論じたが、今回は食品全体の将来予測について書いてみたい。
将来予測に利用したデータと手法
将来予測は、総務省統計局の「家計調査年報2010(二人以上世帯)」と「全国消費実態調査(単身世帯)」の時系列データを利用し、コウホート分析を実施することで行った。
コウホート分析とは、意識や消費量などの目的変数に影響を与える要素を、時代による変化(時代効果)、加齢による変化(年齢効果)、世代に特有の部分(コウホート効果=世代効果)などに切り分けて分析する手法である。
時代効果とは、世代や年齢に関係なく、集団の意識や意見が1つのベクトルに変化する部分である。例えば、「黒酢ブーム」が到来した結果、お酢の消費量が増えた、といったものが「時代効果」であると言える。
年齢効果(加齢効果)とは、時代背景がどうであれ、人が一定のライフステージや年齢に到達することで変化する意識や行動を捉えたものである。例えば、「70歳以上になった場合、歩く速度が50歳の時よりも20%遅くなる」といったものは、時代や世代に関係なく年齢によって変化するものであるため、年齢効果であると言える。
世代効果(コウホート効果)とは、ある時期に生まれ育った世代固有の考え方や特徴を指す。世代効果は、個人が生まれ育った時代の影響と、個人がその年齢に到達するまでの経験の影響といった社会的変化と個人的変化の交互作用によって形成される。例えば、「イタ飯ブームを体験した世代以降は、家庭料理としてパスタを食べることが多い」というのは、その世代に固有の価値観であるため、世代効果であると言える。
2020年、食料品全体の消費はどうなるか?
図表1:食料消費支出の実績と予測結果(実質ベース)
図表1は、2010年を起点とした食料消費支出の将来予測結果である。2010年を100%とした場合、2020年ではマイナス5.6ポイント、2050年にはマイナス32.4ポイントという結果となった。日本国内における食料消費支出、つまり食べ物に使われるお金は減少の一途をたどっていくということだ。
これは主に国内における人口減少と少子高齢化によるところが大きい。1人当たりの消費量(=食べる量)が大きく、成長に従って伸びていく子供が減少し、食べる量が減少していく高齢者の割合が増加することにより、全体の消費量がシュリンクしていくのである。
品目別に見る消費予測
図表2:2人以上世帯の食料品目別の消費変化予測(2010年→2020年)
野菜や果物の需要創造に向けて
ここまでの結果について、全体を通じて言えることは、食の洋食化の傾向と、生鮮から加工品へのシフトの傾向である。
コメ以外の穀類(パスタやパン)、乳卵類、肉類が食料全体平均よりプラスで、魚介類や野菜・海藻がマイナスであるということは、魚がメインディッシュとなる和食から、肉類がメインディッシュとなる洋食へのシフトが2020年まで続くことを意味している。魚介類の大きな消費支出の減少は、この洋食化傾向にあると考えられる。
そして、菓子類や調理食品がプラスであり、果物や野菜・海藻がマイナスであるということは、生鮮食品を購入して調理する食生活から、加工食品(含・冷凍食品)や調理済み食品(含・惣菜)を利用した食生活への変化を表している。果物の大幅な消費支出の減少は、菓子類にデザートや間食の地位を奪われている可能性がある。
以上を踏まえると、今後の野菜・果物のマーケットを活性化していくためには、新たな需要を創造していく必要があると言えるだろう。最後に本稿では、この需要創造のカギとなる3つの要素をあげておきたい。
野菜・果物の需要創造のカギ①:新たな食への対応
洋食化の傾向も含め、現代の食生活に合わせた生産と流通を野菜と果物で図っていく必要がある。例えば、ホウレンソウを例にあげると、いつまでも「おひたし」で訴求すれば良いわけではない。「サラダ」向けに生でも食べやすいホウレンソウの生産と売場での訴求を実施するなど、現在の消費者ニーズに合わせた生産と販売を考えていく必要がある。
野菜・果物の需要創造のカギ②:手軽さ・簡便化への対応
果物の消費が減少し、菓子類が増える背景には、食べる時の手軽さがある。実際に果物の中でも「皮ごと食べられる種無しぶどう」や「カットフルーツ」などの消費は拡大している。こうしたことから、果物の消費減少は、包丁で切らないと食べられない、皮をむくのが面倒、種が多くて食べにくい、といったことが要因であると考えられる。この消費者の「面倒なものは嫌だ」という意識は、裏を返せば「手軽に食べられるものが良い」というニーズである。こうした意味での「手軽さ」について今後は考えていくことが求められる。
さらに、この手軽さの先に簡便化がある。これは、できるだけ手間をかけずに食事を準備したい、というニーズである。調理食品や加工食品、調味料などの消費支出が食料全体よりもプラスであったことからも、この傾向を読み取れるだろう。こうした背景には、共働き世帯の増加や、高齢者の独り暮らしの増加がある。そのため、手軽さに加えて「簡便」ということも重要なポイントとなる。場合によっては、手軽さと簡便化は加工(6次産業化)への切り口にもなるだろう。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日