ここ数年、自治体や農業法人、農業関連団体の皆様から頂く相談内容として、「販路拡大」が非常に増えている。特に大消費地における販路拡大、というご相談が多い。なかでも「東京の百貨店で売りたい」、「東京の高級スーパーと取引したい」と言われる方は多い。確かに東京の百貨店や高級スーパーは、付加価値の高い商品を展開していく上では非常に重要なチャネルである。
しかし、売場は有限である。大消費地にある店舗の売場の広さは決まっている。そしてそこには現在、何も陳列されていないわけではない。自分の商品を置いてもらうということは、その売場に元々あった商品をどかす、ということに他ならない。つまりは、棚の取り合いなのである。
本稿では、こうした大消費地への販路開拓に向けて、そして棚の取り合いに勝っていくにあたり、最も効率的・効果的であると考える戦略である「戦国武将戦略」について説明する。
なお、この「戦国武将戦略」は筆者が様々な組織の販路開拓を支援してきた経験や、流通業のバイヤーの意見を基に勝手に提唱しているものであることを申し添えておく。
今は食の戦国時代
前述のように、現在、多くの地域の自治体や生産者が大消費地への販路拡大を目指している。その結果、東京や大阪、名古屋などの大都市圏の百貨店や高級スーパーでは、棚の取り合い合戦となっている。戦国時代に例えれば、こうした大消費地は関ヶ原と化している。東陣営、西陣営と分かれてはいないが、名のある戦国武将(=名産品や農産物)が陣地(=売場の陳列棚)を取り合うべく、凌ぎを削っているのである。これは農産物も6次産業化商品である加工品も同じである。大消費地はチャンスも多いが、ライバルも多い。そしてそのライバルは非常に強い。
戦国武将(大名)は、どうやって天下を目指したのか?
筆者は歴史の専門家ではないので、個々の戦国大名の戦略や戦い方については論じないが、一般的に戦国武将たちは、地元を平定し、足場固めをしてから天下を取りに行っている。そして、天下を取りに行く場合も、いきなり遠い陣地を攻めたりはしない。近隣の陣地に攻め入っていき、要所をおさえ、じわりじわりと勢力を拡大していったのである。そして、状況によっては、遠方の戦国武将と連合を組み、陣営を構築して天下を目指したのである。
戦国武将に学ぶ農産物と6次産業化商品の販路拡大戦略=戦国武将戦略
農産物やそれらの加工品の販路拡大を考えていくにあたり、こうした戦国武将の戦い方に学ぶところは大きい。 販路拡大を目指す場合でも、いきなり遠方の大消費地(関ヶ原)に向かうことは得策ではない。その前に、地元を平定する、つまり地元で売るところから始め、実績を積み上げていくことが重要なのである。それが出来たら、次に近隣の大きな都市に進出するのである。例えば、東北であれば、まずは地元、次に仙台を目指すということである。
地元で展開するメリットは非常に多い。何より商品の配送距離が短く済むため、物流コストを抑えることができるし、商談などで取引先に訪問する場合も交通費や移動時間といったコストが低く済む。そして地元の人の味の好みは分かりやすい。加工品を作る場合など、地元の人の味覚に合わせた商品ならば作りやすいだろうし、地元の人がどのような野菜や果物を良く食べているか、どのように食べているか、といった情報も把握しやすい。
また、地元顧客をしっかりと確保しておけば、それが生産の出口(売り先)の安定的なベースとなるのである。地元顧客には「地元産」であることを訴求できることも大きなメリットになるだろう。販路拡大においては、まず、地元を平定し、自分の陣地を持つことが肝要なのである。
そして実は、この地元での実績は、食品小売業のバイヤーも重視している。
「これって、地元で売れてるの?」
これは、地域商品や地場農産物の商談において、バイヤーから良く出る質問である。この質問の本意について聞くと、地元で売れていない、売られていない商品は怖くて取ることができないということであった。言い換えれば、バイヤーは地元ですら売れない商品は、自分の店でも売れるはずはない、と考えているということである。多くのバイヤーは、地元で売れていて、まだ自分たちのエリアに来ていない商品を最も求めているのである。こうしたバイヤーのニーズを考えても、地元での実績は非常に重要である。
まとめ:戦国武将戦略のポイント①
ここまでの内容を踏まえ、戦国武将戦略の第一のポイントとして、「地元に陣地をつくる」ことをあげる。図表1に示すように、地元の売りやすいところから販路の構築をスタートし、コツコツと陣地(=販路・売場)を拡大し、取引量を増やしていくことが重要なのである。このように進めていけば、生産量も需要に合わせて段階的に伸ばしていくことができる。そうすることによって、大量に生産したけど売れない、取引先の要求ロットが大きすぎて対応できない、といったことが無くなっていくだろう。
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