<上篇>で述べたように、国内のコメの市場は縮小していくことが予想される。それでは、今後、コメ市場に対して、どのような施策を打っていくべきであろうか。本稿では、JAや農業生産者が、将来のコメ市場に向けて考えるべき施策について考えてみよう。
コウホート分析結果から分かる「コメ好き世代」の育成の必要性
<上篇>で分析したように、コメの消費量の減少には、世代効果が大きく影響している。この世代効果に対して何かしらの対策を考える場合、「既に特定の世代にできあがっている価値観」を変容させる意味で、短期的な施策は難しい。
しかし、長期的な対策として考えれば、新たな世代の育成という可能性がある。若い頃からコメを食べさせ、コメ好きの世代を育成し続ければ、コメ市場の低迷を打破できる可能性がある。 コメを食べることを習慣化する世代の育成が、長期的なコメ消費を支えていくのである。一過性のある時代効果に比べ、世代効果は年を重ねてもスライドする形で継続的に市場に影響を与える変数であるため、コメを食べる世代の育成は長期的にコメ消費に貢献する。
そして、コメを食べる世代の育成に効果的であると考えられるのは、実態で現れた年齢効果の活用である。先に述べたように、コメ消費の年齢効果は、子どもにお金がかかる40代と50代前半で大きくなる特性がある。 この特性を生かし、この年代をターゲットにパンや麺などその他の穀類・主食に比べ、コメのグラムあたりの値段や腹持ちの良さといった経済性と食品の優位性を確実に伝え、意識変容を誘発するのである。 この意識変容を親に起こさせることにより、その子どもをお米好きに変えていくことができるだろう。こうした長期的な取り組みによって、新しいコメ好き世代を創出できる可能性がある。
さらに、最近のトレンドも踏まえて考えれば、食育を通じて幼少期からコメに対するコミットメントを醸成していくことも効果的であると言える。 田植えや稲刈りといった農業体験、脱穀や精米といった白米への加工体験を通じて、稲がどのように育つのか、食卓にご飯が並ぶまでにどういったプロセスが必要であるのか、を次世代の消費の主役となる子供達に示すことで、コメへの愛着を増加させることができるだろう。
ブランディングという名のコメ戦争。需要拡大も視野に入れる。
現在、多くの自治体がコメの新品種の開発と、そのブランディングに腐心している。 2015年に大きな話題となっただけでも青森県の「青天の霹靂」や、新潟県の「新之助」などがあげられる。多くの自治体が山形県の「つや姫」や、北海道の「ゆめぴりか」のブランディングの成功を見て、それに続こうと努力を重ねている。
美味しいお米を開発し、ブランド力を高め、付加価値をしっかり取っていくことは、その地域の生産振興や農業者の手取り向上にとって非常に重要であると言えるが、コメ市場全体がシュリンクしていくことには注意が必要である。 <上篇>で述べたように、少子高齢化と人口減少を背景に、長期的にコメの消費市場は縮小する。 つまり、現在のコメのブランディングの実態は、縮小していく市場に対し、様々なメーカーが新商品を次々に投入し、それぞれブランディングを行っているようなものであると言える。 よって、現在のコメ市場は、産地間、あるいは品種ブランド間における完全な競争状態にあり、市場の奪い合いであることを理解しておく必要がある。もっと分かりやすく言えば、「A県の〇〇というブランド米が売れる」ということは、「別の県のお米が売れなくなる」ということに等しい。
もちろん、コメは今や自由な競争市場であるため、自分のブランドの育成を行い、縮小していく市場の中でのシェアを高めていくことを目指すのは当然であるが、ここで考えて欲しいのは、市場全体のパイを大きくするような需要創造の取り組みである。 お互いにシェアを奪い合うだけの競争ではなく、お互いに競争をしていく中で、切磋琢磨しながらコメの新しい需要を創造していくことが、日本のコメの将来には重要ではないだろうか。
具体的には、以下のような視点で、新たな需要を掘り起こしていくことが必要であろう。
- 新しいお米の食べ方の提案(新しいメニュー等の開発と提案)
- 現代のニーズに合わせたコメのメリット訴求(簡便、短時間料理、健康…など)
- 消費者のニーズに合わせた新しい販売方法の創出(WEB活用、定期購買サービス等)
- 新しいコメ加工品の開発(菓子、飲料、惣菜などの分野
これらの需要創造の結果は、<上篇>のコウホート分析では「時代効果」に相当する。コメに携わる事業者の努力で、新しい需要を生み出すことができれば、時代効果の係数が大きくなり、コメの消費量の増加につながるのである。
以上、<中篇>では、将来のコメ市場を考えていく上での重要な視点として、コメ好き世代の育成と、ブランディングを行うだけではなく、需要創造も実施していくことの重要性について述べた。次の<下篇>では、コメにおける具体的なマーケティング施策について考えたい。
※本稿の一部は、筆者が(株)博報堂 政策企画部 南部哲弘氏と共著で日経消費インサイトに連載した「実態と意識からさぐる 未来市場戦略プロジェクト」を基にしています。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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