<上篇>では国内のコメの市場の将来予測を行い、<中篇>では縮小が予想されるコメ市場における大きな対策の方向性について述べた。本稿では、コメの需要創造と消費量の拡大に向けた具体的なマーケティングプランを考えてみよう。
和食機会の減少を前提としたマーケティング
コメは和食文化の根幹を成す食材である。そのコメの国内消費が減少するということは、和食自体の消費が減少することを意味している。 つまり、コメ消費の減少の背景に食の多様化、多国籍化が大きく影響していることは<上篇>で述べた通りであるが、こうした生活者の食の変化は意識的なコメ離れ―和食離れではなく、和食を食べる機会が減少していることを示唆していると言える。
そのため、国内マーケットでは、和食機会の減少を前提としたマーケティングを考えていく必要がある。 ただ、注意が必要なのは生活者が「和食が嫌い」で、意識的に「和食離れ」をしているのではなく、和食以外の選択肢も柔軟に選択する結果として和食を食べる機会が減っていくと考えられる点である。
和食機会の減少を前提とした場合のマーケティングとして、ここで提案したいのは、新しい食文化の創造である。 和食へのこだわりが現在よりも低いマーケットは、今まではあまりメジャーではなかった食文化や、全く新しい食文化が受け入れられやすい土壌を持つと考えられる。 具体的には、今まで日本市場ではあまり見られなかった外国の食文化の輸入、あるいは和食を時代に合わせてカスタマイズしたような新しい和食文化の創造や家庭惣菜の開発などがあげられる。 昨今、朝食市場の王者であった食パン市場をグラノーラが脅かしていることも、こうした文脈の一つとして考えることができるかもしれない。
コメの輸出― 海外市場を狙う
日本では和食機会が減少する一方で、世界に目を向ければ、2013年に和食はユネスコの世界無形遺産に登録されるなど国外マーケットにおいてはカロリーが低く、健康的であるというイメージも相まって注目が集まっている。 JETROが2013年に実施した調査においても、日本料理は外国人が好きな外国料理として83.8%の回答を獲得し、調査結果の中でNo.1となっている。
よって、コメの生産量拡大と生産農家の所得向上を考えるのであれば、積極的に海外マーケットを狙っていくことも重要であろう。特にコメを単独で輸出していくだけではなく、和食の文化全体として日本の食を世界に向けて展開していくことが重要である。 日本食のソリューションとして展開していくことで、コメだけではなく、おかずとなる食材や調味料の販売も見込めるだろう。 こうした展開については、政府による支援も必要であるが、様々な商材を持つ複数の企業が共同で事業展開を行っていくことが大切であると考えられる。 海外でも日本産のコメにこだわるような顧客がいるマーケットにおいては、付加価値の高いブランド米の展開も十分に可能性がある。
従来の「高齢者のイメージ」を捨てる
漠然と、高齢者はコメを食べ、和食を好み、洋食やエスニックなどはあまり食べない、と思ってはいないだろうか。戦前戦後に思春期を過ごした世代が高齢者の中心である時代まではそうだったかもしれない。 しかし、<上篇>で述べた分析結果は、はっきりと将来の高齢者は、今の同年代の高齢者ほどコメ好きではなく、消費量も少ない、ということを示している。
将来、特に団塊の世代が後期高齢者になる2025年以降のマーケットを考える場合、65歳以上となっているのは1960年以前に生まれた世代である。前にも述べたが、これらの世代は20代〜30代にバブルを体験した世代であり、多様な食文化に触れた世代なのである。 このような世代で構成される高齢者を、今までの戦中戦後を経験した世代で構成される高齢者と一緒に考えてはいけない。
つまり、将来の食のマーケティングを考える場合、年齢・性別といったデモグラフィック変数でセグメンテーションするだけではなく、その年齢層がどういった世代であるかについて十分に考えなくてはならない、ということである。 単純に、「○○という商品だから、高齢者をターゲットにする」といったロジックは通用しなくなる。 「○○という商品だから、高齢者の中でも△△という特性を持つ、19XX年代生まれの世代を狙う」といった形で丁寧にセグメンテーションやターゲティングを行う必要性が生じてくるのである。
以上、<下篇>では、コメのマーケティングにおける具体的な視座について述べた。読者の皆様が将来のコメ市場を考えるにあたり、一連の記事が少しでもお役に立てば幸甚である。
※本稿は、筆者が(株)博報堂 政策企画部 南部哲弘氏と共著で日経消費インサイトに連載した「実態と意識からさぐる 未来市場戦略プロジェクト」を基にしています。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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