暫定任意適用事業とは
一般企業等(個人事業含む)は、労働者を一人でも雇用すれば、労働保険(労災保険と雇用保険)の加入手続きが義務付けられていますが、農業のうち個人経営で常時使用する労働者が5人未満で、 かつ危険・有害作業をともなわない事業や事業主が労災保険に特別加入していない事業は「暫定任意適用事業」といい、労災保険が任意加入となっています。また、個人経営で労働者5人未満であれば、雇用保険も任意加入です。
例えば、暫定任意適用事業が任意加入の申請をしていないために労災保険の適用事業所として認可を受けていないときは、その事業所で働く労働者は労災保険による補償が受けられないことになります。 したがって、たとえ暫定任意適用事業であっても、人を雇用するのであれば、労災保険や雇用保険には加入すべきです。農業に興味をもち、農業に就職することを希望する若者も年々増えています。 就職は、就職する側からすれば一生を左右する選択ですから、受け入れる側である農家等も、できる限りの条件を用意すべきでしょう。
使用者は災害補償義務を負う
労働契約とは労働者の労務供給に対して使用者が賃金を支払う契約です。使用者(事業主等)は労働者の労務提供に対して約束の賃金を支払うのは当然ですが、同時に労働基準法等の様々な法律を遵守する義務を負うことになります。
労働基準法は、憲法25条1項(生存権)と憲法27条2項(勤労条件の基準)を具体的に法律にしたもので、労働者の保護を目的とし「労働条件の最低基準」を定めたものです。 したがって、たとえ1人でも労働者を雇い入れて農業を営む場合は、個人経営であれ法人経営であれ、労働基準法の適用を受けることになります。 そして、労働基準法では使用者に対して、労働者の業務上の負傷に対して、治療費の負担や休業補償等の様々な災害補償義務を課しています。(図1)
(図1)労働基準法で定める災害補償
補償名 | 内容 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
療養補償(75条) | 必要な療養を行い、又は療養の費用を負担する | ||||||||||||||||||||||||||||||||
休業補償(76条) | 休業初日より1日につき平均賃金の60% | ||||||||||||||||||||||||||||||||
障害補償(77条) | 傷病が治癒したときに、障害等級の程度に応じて、平均賃金に下の表に定める日数を乗じた金額
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遺族補償(79条) | 平成賃金の1,000日分の一時金 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
葬祭料 (80条) | 平均賃金の60日分 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
打切補償(81条) | 療養開始後3年経っても傷病が治らない場合、平均賃金の1,200日分の一時金の補償をもってその他の補償を打ち切ることができる。 |
しかし、法律で災害補償を義務づけても使用者が無資力のため補償されないことも考えられます。そのため、国が労働者に対し直接災害補償する制度が必要となり誕生したのが労働者災害補償保険(労災保険)です。 「労働者が労災保険法に基づいて補償を受けられる場合には、使用者は災害補償義務を免れることになる」のです(労働基準法84条)。
労災保険は、従業員の業務上及び通勤途上の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うことを主な目的としています。 労働基準法は、従業員が労働災害を被った場合には事業主が補償することを義務づけており、そして、その補償給付を確実に行うために、労災保険に強制的に加入させているのです。 具体的には、労災保険は、国の直営事業など適用除外とされている一部の事業を除いて、労働者を使用するすべての事業を適用事業としています。 ただし、災害発生率の低い小規模な事業は、当分の間、法律上当然には労災保険が適用されず、その加入は事業主又は労働者の意思に任されており、 これを「暫定任意適用事業」といい、農林水産業の一部で、農業では、個人経営で使用する労働者が常時5人未満の場合がこれにあたります (ただし、一定の危険又は有害な作業を主として行う事業、または、事業主が労災保険特別加入制度に加入している事業は労災保険の強制適用事業です)。
労災保険の加入は労務管理の基本
農業の場合は、有限会社や株式会社等の一般会社であれば、社会保険(健康保険と厚生年金保険)と労働保険(労災保険と雇用保険)は強制加入となりますが、 個人経営の事業で常時労働者が5人未満の場合には、上でみたように「暫定任意適用事業」といって、労働保険は当分の間任意加入となっています。また、社会保険は従業員の数にかかわらず任意加入となります。
上でみたように、暫定任意適用事業は、労災保険の加入が「任意」であるため、労働者を雇用していても労災保険に加入していないケースがあります。 この場合に万一従業員がけがをしたときには、使用者自ら被災労働者に対して労働基準法で義務づけている災害補償を履行することになります。 従業員の業務災害は雇用型農業の経営の最大のリスクと言ってもよく、労災保険の加入は労務管理の基本中の基本です。
なお、通勤途上の災害については、使用者は労働基準法上の災害補償義務はありませんが、労災保険の適用を受けることができます。
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