3.野菜に対する石灰質資材の選定
野菜では水稲に比べはるかに多量のカルシウムが吸収されており、その役割は、①細胞や膜の安定化・強度維持、②根や花粉管の伸長、③体内酵素反応の賦活化、④細胞の浸透圧調整、など生育にとって重要な元素です。
またストレスに対する耐性を高まるはたらきにも関与しており、野菜の品質を高まるうえでも有益です。このように、野菜栽培においてはカルシウムを意識して積極的に供給することが必要です。
カルシウムは水とともに吸収され植物体内に運ばれますが、その量は土壌溶液中のカルシウム濃度に応じて吸収され、またそれは若い根で旺盛なことが知られています。
一般に土壌中でのカルシウムの存在形態は図1のような3つの形態(交換性、水溶性、難溶性)が考えられています。交換性とは土壌の粒子表面に付着しているイオン状態のもの、水溶性とは土壌から離れてイオン状態で水分に含まれるもの、難溶性は他のイオンと一緒になって化合物を作っているものを指します。
土壌水分(土壌溶液)中では、水溶性のカルシウムはカルシウムイオン(Ca2+)として硝酸イオン(NO3-)のカウンターイオン(マイナスイオンとプラスイオンがペアになるがその片方のこと)として存在しています。根が吸収できるのはこの水溶性カルシウムですが、これが野菜の根に吸収されて濃度が低くなると、十分にカルシウムがある場合は、交換性のカルシウムが土壌の粒子を離れて水溶性カルシウムとなり補給されるしくみです。
一方、難溶性カルシウムは炭酸カルシウムのような物質になって安定しており、水に溶けにくいカルシウムです。
図1 土中のカルシウムの存在形態
野菜の生育ステージや栽培時期によっては、生育が旺盛なためにカルシウムの供給が追いつかず体内の濃度が低下することがあります。このような場合に見られる生理障害の多くがカルシウム欠乏であることからもその重要性がわかります。
ただし、カルシウムの吸収には、窒素だけでなく同じ陽イオン(プラスイオン)であるカリウム(K+)やマグネシウム(Mg2+)の存在量(3成分が拮抗するのでバランス維持が必要)、または施設内の湿度レベルに応じた蒸発量や温度(高湿、低温下では吸収減)などが強く関与しているので、供給量を調整するときは併せて対策をとる必要があります。
表1に主な石灰質資材とその特徴をまとめました。
これまでの一般的な施用目的は、土壌のpHを高める効果とカルシウムの供給の双方をねらったもので、生育環境を整えスムーズな生育に導くことができます。溶けにくいですが、持続的なpH改善効果が期待できる炭カルや苦土石灰などがよく使われています。
ただし図2のように、溶けにくいために土壌表面に蓄積して下層に移行しにくい性質があるので、土壌とよく混和し時には深耕して下層のカルシウム含量を高める必要があります。
表1 主な石灰資材とその特徴
図2 苦土石灰施用後のカルシウムの分布
4.施設栽培における土壌消毒の事例-太陽熱消毒-
ハウスなどの土壌病害の防除は安定生産のためには欠かせません。施設では密閉することで太陽光でも消毒ができるほど土壌の温度を上げることができます。消毒効果としては、キュウリのつる割れ病、ナスの半身萎凋病、トマトの青枯れ病、ホウレンソウの立枯れ病、またキュウリのネコブセンチュウ、イチゴのネグサレセンチュウなどに有効とされています。加えて雑草の種子も一定程度抑えることができます。
薬剤での防除と違い、土壌中の有効な微生物を完全に滅菌することなく生態系にやさしい土壌消毒ができることと、使用する資材(石灰窒素)は土づくりの効果も期待できることです。ただ、温度は一定の深さまでしか高温にならないため、下層の消毒が十分でないことがあるため、下層土の病害菌が心配な場合は、遮根シートを使って下層土への根の伸長を抑えることも組み合わせると効果的です。
図3 太陽熱消毒のイメージ
処理時期としては、梅雨明けの7月中旬〜8月下旬の夏の高温期が最適です。切りわら(1〜2トン/10a)などの有機物と石灰窒素を10a当たり50〜100kgを散布します。例えば、もみ殻(0.5〜1トン/10a)、青刈り緑肥作物(5〜7トン/10a)、バーク堆肥(4〜5トン/10a)でも代用できます。
散布後、ロータリーなどで30〜40cmの深さに耕うんします。しばらく放置したのち、畝を立て(高さ30cm、幅60〜70cm)土の表面をビニールで完全にマルチして畦間に水を張ります。施設を1ヵ月程度密閉し、その間は土壌の温度を高温に保つようにすれば消毒完了です。
遮根シートを利用する場合は、図4のようにベッドになる部分の土を30cm程度の深さになるように掘り上げて底面を平らにしたのちに遮根シートを敷いて船底状にしたところに土を埋め戻してベッドをつくります。その土の表面をビニールで全面マルチして畦間に水を張り、ハウスを密閉してそのまま30〜40日間放置することで消毒ができます。
図4 太陽熱消毒の実施方法(茨城,1990)
表2は太陽熱消毒の効果を調べた結果です。
表2 太陽熱消毒の期間や時間による菌類や雑草の抑制効果
地温が40℃以上となった時間が積算で200時間以上あれば、無処理土壌に比べ大きく菌数が減少し、雑草の本数も抑えていることがわかります。このように、完全滅菌ではないですが菌の抑制効果は十分にあります。
シリーズ『土づくりと土壌診断』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
公開日