相次ぐ自然災害
この夏、日本列島は相次いで自然災害に襲われました。6月、最大震度6弱がおそった大阪北部地震。広島や岡山、愛媛に、ため池の決壊や大量の雨をもたらした7月の西日本豪雨、そして、8月にはこれまでにない数の台風が発生、さらに9月には北海道で最大震度7を記録した地震が発生。震源地のそばにあった発電所が被災し、北海道全戸が停電するというこれまでに無い被害が発生しました。施設園芸や酪農はいまや機械に頼る部分が多く、牛の健康や集乳などに大きな影響を与えるのでは無いかと心配されています。
西日本豪雨災害と柑橘産地
災害に遭った場合、重要なことは短期的な対応と長期的な対応を分けて考えることです。例えば7月豪雨の愛媛県宇和島市での対応です。ミカンの生産で有名な宇和島市は、海に向かって急峻な傾斜地が続き、その水はけの良さから、ミカンの栽培には最適で、愛媛ミカンの発祥の地だとされてきました。
しかしながら、急峻な斜面は災害には脆弱です。一時間あたり60ミリという、経験したことのない急激な雨で、ミカン畑は崩落。収穫寸前だったミカンが流されただけでなく、ミカンを山から運び出す運搬機や、薬剤を散布するスプリンクラーなどの農業設備も大きな被害を受けました。
崩落した農地は、わかっているだけでも宇和島市全体で820カ所、被害額は190億円と年間の農業生産額の1.4倍に上ります。
急がれる当面の対応
産地が豪雨や地震などの災害に遭った場合、最も怖いのは農家の人たちが意欲を失って、地域が衰退してしまうことです。産地としては、まずは被害の全体像を把握し、被害を受けていない作物だけでも収穫しなくてはなりません。
国は東日本大震災以来、被災した農家への様々な支援策が整備してきました。農地への道路の復旧などのほか、流入した土砂の除去や機器類の破損、それに農業再開に伴う雇用などへの支援策などです。
宇和島市ではまずはミカン畑につながる道路の修復を行う他、農家が行う畑の土砂除去や、薬剤散布を行うスプリンクラーなどの修理、そして出荷するための共同施設などの復旧などに対しての支援を行い、この秋の出荷が滞りなく行えるようにすることにしています。
長期的課題にどう対応するか
残る問題は長期的な課題です。
豪雨によって被害を受けた820カ所もの農地を、今後どうするかです。
今回国や県は、被災した畑の復旧に関して、作業効率の悪い傾斜地をそのまま復旧するだけでなく、山を切り開くなどして大規模な造成工事を行い、比較的平坦なミカン畑として整備することを提案しています。
今の畑のまま復旧しても、作業のしにくさは変わりません。産地を維持していくためには、機械が導入できるような、作業がしやすい畑に作り替える必要があるとの考え方からです。
農家にとっても、農地中間管理機構を遣えば、農地整備は負担なしで行うことができます。雨の降り方が変わる中、急な傾斜地は再び、災害を引き起こす可能性があります。今の畑で農業を続けていくことに不安を持つ農家は少なくありません。
未収益期間をどうするか
ただ、ミカンは苗を植えてから安定して実を収穫できるまで、最低でも8年かかります。部分的な補修ならともかく、広い土地を基盤整備するとなれば、農地所有者との調整や、工事にも長い時間が必要です。その間、生活をどうしていくのか、です。
農業は基本的には、生きた植物や、動物を扱う事業です。災害によって被災し、中断した場合、回復するためには長い時間がかかります。それはミカンなど果樹に限ったことではありません。しかも、その影響は、専業農家ほど大きくなります。
産地を弱体化させないために
国は東日本大震災以降、地震などで被災した農家については、事業再開まで、土木工事などに、優先的に雇用する仕組みを作り、地域の農業を守る取り組みを進めて来ました。
しかし、災害からの復興でわかってきたのは、事業再開まで、長い時間がかかる農業はその仕組みだけでは不十分だということです。
豪雨などの災害が多くなってきた今、被災した地域を疲弊させないための、新たな仕組みが求められています。
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