出資申し込みから資金を受けるまで
今回は、出資による資金調達を検討している人のために、出資申込から実際に資金を受け取るまでの手続きを説明します。
前回の復習
第1回目では、農業法人投資育成制度とは出資と育成からなること、そして農業法人投資育成制度による「出資」と「借入」をうまく組み合わせて利用することが有効であることを説明しました。
今回の内容は、具体的な例を示しながら、以下の出資の一連の流れを解説します。
- 誰に申し込むのか?必要な書類はなにか?
- いくら出資がうけられるか?
- どうやって株式を発行するのか?
- いつ入金されるか?
①誰に申し込むのか?必要な書類はなにか?
投資育成株式会社等への出資者・組合員となっている金融機関に相談に行きます。
農業法人投資育成制度で出資ができるのは、農林水産大臣から承認を受けた株式会社又は投資事業有限責任組合(LPS)(以下投資育成会社等という)でなければなりません。現在1つの株式会社と17の投資事業有限責任組合が承認を受けています。承認会社のリストは農水省のホームページに掲載されています。
「農林水産大臣承認投資育成会社等リスト」
URL: http://www.maff.go.jp/j/keiei/kinyu/toushiikusei/daijinsyounin2.html(出典:農林水産省ホームページ)
最初に出資の相談に行くのは、この農林水産大臣承認投資育成会社等リストの出資者・組合員の欄に記載されている金融機関となります。もし、取引がある金融機関がリストにない場合は、お近くのJAバンクまたは日本政策金融公庫の本支店にご相談ください。ここでは、出資の相談をする金融機関を「紹介金融機関」と呼びます。
②いくら出資がうけられるか?
出資額の計算
出資額は、A社が発行する「株式の価格」×「発行する株式数」で決まります。
③どうやって株式を発行するのか?
株価は、投資育成会社等との協議で決まります。
出資時の株価は、B社長と投資育成株式会社等との協議で決まります。株価の算定方法は、投資育成会社等で異なります。例えば、アグリ社では、株価を算定するために、過去3年分の決算書と今後5年間の事業計画の提出をお願いしています。
株価ですが、民法には契約自由の原則がありますから、B社長が「うちの会社の株は1株10万円だ」と主張、この10万円がたとえ根拠のない数字であったとしても、その株価で相手が合意したら契約は成立します。しかし、注意が必要です。国税庁が、取引相場のない株式の評価方法を定めていて、この評価額と実際の売買価格が大きく乖離すると、贈与税等の税務上の問題が発生します。アグリ社では、ご提出いただいた資料を用いて、必要に応じて顧問税理士にも話し合いに加わってもらい、客観性のある株価を決めさせていただきます。そのため、A社についても、設立時の株価である1万円と異なる株価になる場合もあります。株価に加えて、投資育成会社等より、A社の成長に適した株式の内容(種類株式)についても提案することとなります。
投資育成会社が出資できる株数は、発行する株の種類や投資育成会社等により異なります。
出資できる株数は、議決権がある株式については、総議決権の百分の五十を超えてはならないと※法律で定められています。議決権のない株式について、出資できる株数は投資育成会社等により異なります。例えば、アグリ社のアグリシードファンドでは、無議決権配当優先株式とよばれる株式を、発行済の株式数と同じ数まで出資できると要件で定めています。出資を受ける場合は、紹介金融機関に発行可能な株式についてご確認ください。
※農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法施行規則第4条
④いつ入金されるか?
出資決定後の事務手続き
「第三者割当増資」とよばれる方法で、新株発行手続きを行うことが一般的です。この第三者割当増資の手続きについて、ここでは、アグリ社が種類株式により出資をするやり方を例に取って流れを説明をします。
(1)臨時株主総会を開き、定款の変更を決議します。定款の変更点は、発行可能株数や今回新たに発行する種類株式の内容等についてです。
(2)新たに内容を定めた種類株式を発行することを決めます。そして、その種類株式をアグリ社に割り当てることを決めます。(割り当て先については、取締役会がある場合は取締役会で決めます)
(3)変更した定款の内容について、会社法(911条)にもとづき、商業登記簿に追加・変更登記をします。
(参考)商業登記簿に関する登記費用
- 登記事項の変更登記については1件につき3万円(複数個所を1回で変更する場合は1件とカウントする)
- 資本金増加の登記については1,000分の7(3万円に満たないときは、申請件数1件につき3万円)
参照:国税庁HP No.7191?登録免許税の税額表
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
※金額の詳細は、法務局にご確認ください。
(4)変更登記が完了したところで、投資契約書の締結です。契約書については、契約者、出資額、出資金額、投資期間、配当等が記載されています。合意した通りの契約内容になっているか確認のうえで契約を締結します。そして投資契約締結時に合意した日に、出資金が振り込まれます。
(5)資金の受渡しは完了しましたが、出資手続きはこれで終わりではありません。会社法(915条)では、資本金等の変更から2週間以内に資本金の額等の変更登記が必要とされており、もう一度、商業登記簿の変更登記が必要となります。
(6)アグリ社へ、新しい株主としてアグリ社を加えた株主名簿を提出します。
以上(1)〜(6)が出資申込から資金の受け取りに至るまでの主な手続きとなります。
農業法人投資育成制度を利用する場合、多くの投資育成会社等は、農業経営基盤強化促進法で規定する認定農業者であることを出資の条件としています。出資の相談をする時に、必ず確認をしてください。
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