「農業法人投資育成制度」の仕組みや出資に関する実務とアグリ社を例に、これまで説明をしてきました。より具体的に出資についてイメージをもっていただけるように、出資事例をご紹介していきます。
今回ご紹介する(有)コセンファームは、鹿児島県の北西部にある出水市で、養鶏を中心に露地野菜(じゃがいも、高菜、大根、米など)の生産を行っています。養鶏農家としてスタートした当社は、2003年から加工用ジャガイモの栽培を行っていましたが、漬物の加工会社として(株)北薩漬物を買収した後は加工用の高菜や大根へと生産作物を広げてきました。2009年からは鶏糞を利用した循環型農業に取り組んでおり、現在の飼育羽数は13万羽、作付面積は水稲6ha、加工用ジャガイモ10ha、キャベツ5ha、高菜3ha、大根10aの計24.1haとなっています。
後継者への事業承継を見据えて、外部出資を受けた事例
コセンファームでは、娘夫婦が入社して以来、事業承継を含めた今後の事業展開を見据え、2010年の鶏舎の増改築を行ったり、周辺の耕作放棄地を入手して作付面積の拡大を行ってきました。娘夫婦のお二人は、入社当初は農作業を中心に行っていましたが、2012年頃より生産計画や業務改善にも携わるようになりました。
こうした事業承継を見据えた設備投資を続ける中で、古川社長は農林中央金庫福岡支店の担当者から、アグリシードファンドの説明と、資本が経営に与える影響について丁寧な説明を受けました。古川社長はアグリ社の「出資先の独立性・自主性を尊重する」と言う投資スタンスが良いと判断し、また計画的に事業承継を行うために有効であることから、出資を受けることとしました。
―古川社長がアグリ社からの出資を受けたのは、なぜですか。
「出資を受けたのは、金庫の担当者が熱心に訪問し説明してくれたことがきっかけです。もちろん、売上を伸ばして、会社を大きくしていきたいという思いもありました。
うちは加工用の野菜の引き合いが強く、自家製のため肥料にもまだ余裕があります。これらを活用できる状況を整え、これから野菜の生産を特に伸ばしていきたいと考えています」
―ファンドから出資を受けるというのは、なじみがなかったのではないですか。
「そうですね。でも、よく考えると今はクラウドファンディングで資金を集める人もいるので、その考え方を持てばよかった。当時は出資について詳しく勉強をしていなかったものの、当時出資を受けてよかったなと考えています。アグリ社の出資は出資者の顔が見えるので安心感もあります」
古川社長の「会社化」と「循環型農業」への思い
―当社が法人化した経緯を教えてください。
「私は元々会社化する考えがありました。というのは、特に畜産の場合は、1年365日休みがありません。会社にして、社員を1人2人入れていかないと、自分達が休みも取れません。これでは鳥を飼うのではなく、鳥に飼われてしまいます。それだけはしたくなかったから、会社を早く設立したかったのです」
―コセンファームが循環型農業に取り組みようになったきっかけは何ですか。
「私も若いころは何も知らないで、化学肥料だけで作っていましたが、周りの人に聞いて、おいしい野菜を作りたくて始めました。うちの肥料を使うと、出来る野菜が全部甘くなります。お米もおいしくなりますね。
コセンファームは養鶏を主体としていますが、同じ地域に養鶏をする農家が集まっていることもあり鶏糞の処理には困っていました。もともと一時処理を自社で行わなければならなかったので、鶏糞を肥料として使うことにしました。まず米で実績が出たので、それから他の作物へと利用の幅を広げていきました。自家肥料は発酵鶏糞を使います。はじめは乾燥鶏糞を使って試行錯誤し、今では製造技術も上達し、いい有機肥料が作れるようになってきました」
―「北薩漬物」を買収した経緯について教えてください。
「後継者がいない、ということで『うちでやってくれないか』と声がかかりました。漬物の販売先はすでに確保できていたこともあり、6次化を含めて買い取りました。当時は中国産の野菜が使われていたため、原材料を我々で生産もしくは県内で調達するようにして国産のものに切り替えました。そのときに高菜や大根の生産を始めました。今は、漬物がもっと売れるように、食べ方を提案していきたいなと考えています」
人材育成への思い「どこまで失敗していいかを示すのも、社長の役割」
―社内の教育体制について教えてください。
「現場では社員も実習生も私が一から教えています。各自に現場での役割を持たせて、基本的に現場は社員に任せ、お前たちに任せているのだと社員には伝えています。また現場のことは自分達で考えてボトムアップになるように、と伝えています。
全体は私がしっかり方向を把握するようにしています。そして、決断を下すのは自分ということは徹底しています。それをしていかないと、後継者も社員も迷います。社員から『社長が責任をとるからといってくれるので、安心してやれます』と言う話も出ます」
―インターンシップの受入れについて、どのように取り組まれていますか。
「今度インターンシップで農業大学校の学生が3人くるので、徹底的に教えなければなりません。採用活動の一環でもありますし、私は社員よりいろいろ経験があるので、その役目は私がやろうと考えています。
今後は会社の計画については、後継者や社員に任せ、新人の研修は私がやるなど、役割を分けてやったほうがいいと思っています」
―後継者の育成としては、どのような取り組みをされていますか。
「娘婿には、だいぶ現場を任せています。最初の3年間で基本を覚えてもらい、4年目からはどんどんいろんな現場を視察させて、5、6年目からは計画書を作らせるようになりました。娘は社内のコミュニケーションを円滑にするため、ベトナムからの実習生に週2回日本語を教えています。
娘夫婦はいずれ社長、経営者になるので、会社の大切なことは我々夫婦と娘夫婦の4人で話し合って決めるようにしています」
―コセンファームでは後継者だけではなく、社員や外国人実習生、そしてインターンシップを活用して様々な人の育成に取り組んでいますが、うまくいく秘訣は何でしょうか。
「後継者でも社員でも、仕事を任せて責任を持たせて成長させるということでしょうか。私も25歳のとき、親に現場を任され何も言われなくなりました。全部好きなようにさせてもらい、その代わり責任が出てきました。いろんなところに行き、勉強してきて、今を築いてきたのです。
これからは、次の世代の担い手を育てていかないといけない。外国人実習生も必要なので10年以上受入れていますが、同時進行で社員も育てていかなくてはならない。それにはまず、社長がしっかりとセミナーなどに出席して情報を集めて、勉強して、そういう方式を会社のなかで作っていくしかないと考えています」
―社長ご自身の経験をもとに、一人ひとりに仕事を任せて成長できるようにしているのですね。指導などで気をつけていることは何でしょうか。
「社員らの様子を見ていると、もっとこうしたらいいのにと思っても、言わないようにしています。と言うのは、娘が社員や実習生一人ひとりの性格をよく見ていて、『みんなそれぞれ性格が違うから、社長のいう通りにはいかないのよ』と諭されるのです。あとは、やはり失敗しないと本人たちも成長しないと思うので、社員それぞれの失敗をどれだけ許容させるか、どこまでなら失敗してもOKだというのを示すのが社長の役割だと考えています。
現在は外部のコンサルタントに依頼し、毎月訪問してもらい後継者と社員の育成に取り組んでいます。社長である自分が言うと、どんなに会社のために考えたことでも“社長目線の意見”でしかない。たとえ同じことでも、外部の人から言われたことは客観的で伝わりやすいと思うのです」
―経営方針など、社員の方に伝えていることはありますか。
「それは常に伝えるようにしていますね。私は、出水で一番でいいとは考えていない。循環型農業を成功させたい、だからそれぞれが頑張ってもらわないと困る。頑張ってもらえば、それが報酬としてみんなに帰ってくる。それは伝えるようにしています」
現在、古川社長は鹿児島県農業法人協会の会長を務めておられますが、出資を受けて自社の財務が安定したことで、以前にも増して積極的に自社そして地域の更なる発展、農業後継者の育成に取り組んでいるとのことです。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
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