3.適正状態なら作物の根は1mほど伸びる
土壌が健全な状態であれば作物の根は広く深く伸び、根系の十分な発達は収量増や高品質につながります。例えば、図1にあるホウレンソウやトマト、キュウリの根の伸長範囲は、深さ100cm以上、株元から50〜100cmの範囲まで拡がることがわかります。根域が拡大すると、水分や養分を吸収できる範囲が拡がることから、水不足などによる乾燥や養分不足などのダメージに対して強くなります。

図1 ホウレンソウ(左図)、トマト、キュウリの根系(Weaver,Bruner)
健全な土壌とは、水分や養分が適当にあることだけでなく、本来根が伸びていく下層の状態が良好であることが重要です(地下水位の高さやpHの安定など)。
図2はキュウリの根系範囲と根の活性分布に及ぼす地下水位の影響を調べたものですが、地表から15cmのところまで地下水位が上がっている場合は明らかに20cmより深い層の根量が減少しており、根の活性も著しく低下しています。根域が地下水のため過湿となり、根が発達しなかった影響が収量にも影響し、他の区に比べて15%程度低下しました。
また図3-1は、ハクサイを用いて異なる土層別のpHの影響を調べた試験ですが、地表から10cmごとの3層の土壌のpHを、5、6、7の3段階に調整し様々な組み合わせをつくり、苗を植えて生育量と根の分布をみたものです。
結果は図3-2のとおり、地上部(葉や茎)、地下部(根)の乾物重がいずれも高かったのは、555、666、777(=上中下の各pHが同じ)の区でした。層別にpHの変化があった区では根域が極端に狭くなりました。
これは土層別のpHが、高い低いには関係なく、途中で変化することで生育に大きなダメージがあることを示しており、さらに特に下層のpHが適正であることが根域の拡大に関係しています。下層まで土づくりをすること、深耕することでpHの偏在をなくすことがいかに重要かを示しています。
図2 地下水位とキュウリの根活性分布(二見,1990)

図3-1 ハクサイの土層別pH試験の方法

図3-2 ハクサイの土層別pH試験の結果(生育量と根の発達域)
以上のとおり、表面からはわからない深い層の土壌の状態をきちんと把握して、状態に見合った適正化をはかることが必要です。
4.土壌観察のすすめ方
土壌の成分分析だけでなく圃場にて土壌を観察することは非常に大切です。栽培されている場所の土壌の状態を調べて、その結果から診断をして改良につなげます。ただそのためには、栽培の状況、圃場の周辺情報を踏まえて総合的に判断します。
実際に現場で土壌を調べる大まかな順序を以下に示します。
作物の生育から推測する
まず作物の生育を他の地点や圃場と比べてどう違っているか確認します。併せて作物の種類や連作の回数などを記録しておきます(土壌・肥培管理の経過と関係があるため)。また、もし生育不良の場合は、原因が病気や虫の被害、あるいは薬害ではないことを確認します。土壌・肥培管理の状況を確認する
耕うん方法(ロータリ耕、プラウ耕、深耕の有無と使用機械)、圃場の水はけの良し悪し(明渠、暗渠の有無)、施用有機物の種類と量、肥料の種類と量、消毒回数などを調べます。施設では客土しているか(土壌を動かしていないか)も大切なポイントです。
圃場の周辺環境を確認する
圃場の周囲をよく観察し、日当たり、風当たりが良いかどうか(作物の出来に関係する)、傾斜がきついか平坦かどうか(作業性や降雨後の排水性に関係する)、隣は水田かどうか(水の影響がある可能性)、道路かどうか(道路が圃場よりも高いと、大雨時に圃場が水びたしになる可能性)などを記録します。
土壌の状態を調べる
地面の上から先の尖った棒を刺して入らなくなる深さを調べると、およその作土の深さ(耕うんされている深さ)がわかります。棒は長さ1m程度の栽培用支柱などを使います。作土の深さは水田で15cm以上(最低12cm)、畑地で25cm以上(最低20cm)が理想です。
水田で12cm以下、畑地で20cm以下の場合は、トラクターの走行速度を遅くして耕すようにします。ただし、一度に深く耕すと、養分の少ない下層の土壌が混ざって地力が低下したり、稲わらが作土の下層部に入ってしまい分解が遅れて、水稲の根を傷めることがあるので、圃場(土壌)の状況をみて耕うんするようにします。
さらに詳細に土壌を観察するためには、穴を掘り断面調査をすることをお勧めします(次項に調査方法を記します)。
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