土壌改良資材とは
土壌は多くの機能をもっていますが、そのいずれかの機能を高めたり、不足する場合に補完したりすることができる資材を土壌改良資材と呼んでいます。法律(地力増進法)での分類では土壌改良資材には含まれない資材(石灰質資材、有機質資材など)も、ここでは目的や効果からみて該当するものを併せて紹介します。大別すると、石灰質資材、リン酸質資材、ケイ酸質資材、含鉄資材、有機資材に分けられます。
石灰質資材
石灰は植物の必須要素のひとつで、植物細胞膜の生成やタンパク質の合成などに関係していますが、農地では石灰質肥料は主に酸性を矯正するために施用されます。石灰質肥料には炭カル、消石灰などいろいろな種類があるので、その特徴を活かして施用することが大切です。
(1)種類と性質
生石灰:
砕いた石灰石を約1,200℃で焼いたもので、成分は石灰石の品質に左右されますが、公定規格はアルカリ分約80%以上です。石灰質肥料のなかではもっとも強いアルカリ性を示し、酸性矯正力は非常に強いものです。ただし吸湿性が強く、水をかけると激しく発熱し、膨張する性質があるので、保管する場合は封をしっかりして水分吸収を防ぐようにします。
消石灰:
生石灰に水を加えて化合させ、水酸化カルシウムとしたものです。公定規格はアルカリ分約60%以上です。白色の粉末で水に溶けにくいですが、溶けた部分は強いアルカリ性を示します。空気中で長く放置すると炭酸ガスを吸って炭酸カルシウムとなり、容積が増大するため保管には注意が必要です。アルカリ性が強いので、アンモニア塩類や水溶性リン酸を含む肥料と配合すると窒素の揮散やリン酸の不溶化を起こすことがあり注意が必要です。
炭カル・苦土炭カル:
石灰石を微粉砕したもので、ドロマイトまたはそれを含む石灰石を原料としたものが苦土炭カルで、公定規格はアルカリ分約50%以上です。酸性の中和力は、生石灰や消石灰に比べて穏やかで、その矯正の速さは粒子が細かいものほど早くなります。品質は比較的安定しており保管中の変質はありません。
貝化石肥料:
貝化石粉末、またはこれにマグネシウム(酸化物、水酸化物)を混合し、造粒したものです。公定規格はアルカリ分35%以上です。
カキ殻肥料:
カキの殻を原料とした土壌中和資材で、炭酸石灰の結晶であり有機石灰を含んでいます。付着した動物由来の窒素、海水由来の微量要素類も含まれるため、カルシウムと微量要素の補給、pHの矯正に役立ち、土壌の団粒化を促進します。
(2)施用法
土壌診断の結果をもとに状況に応じて石灰質肥料を選択します。図1のように早くpHを上げたい場合は消石灰、長期的に上げたい場合は炭カルが適しており、必要に応じて苦土入り資材を選択します。

図1 石灰質肥料の選び方
石灰質肥料を施用する場合、資材が土壌とよく混ざるようにすることが大切です。圃場全面にムラなく散布したあと、ロータリー耕などで耕起混和します。一度に多量に散布(200kg/10a以上)する場合は、2〜3回に分けて施用するほうがよいでしょう。
リン酸質肥料
リン酸は植物の生命活動には欠かせない元素です。リン酸を作物に十分に与えるためには、土壌中のリン酸含有量を有効態リン酸として一定に保っておく必要があります。土壌診断目標値を目安として、土づくり肥料として施用することが重要です。そのうえで、施肥リン酸として基肥で施用します。土づくりのためには「く溶性」などの緩効性リン酸を含む肥料を、施肥リン酸として施用する場合は速効性の「水溶性」のリン酸を主体としたリン酸質肥料を用いるのが一般的です。
表1 リン酸質肥料の特性

(1)種類と特徴
土壌リン酸を適正水準に維持・改善するには土づくり肥料(主にく溶性リン酸(CP)を保証したもの)が、基肥施肥には可溶性リン酸(SP)や水溶性リン酸(WP)を保証したものが使われます。主な種類や特性は表1のとおりです。(過リン酸石灰=過石、重過リン酸石灰=重過石、熔成リン肥=ようりん)
土づくりのためのリン酸質肥料はく溶性リン酸を含む「ようりん」等が使われます。可溶性リン酸も緩効性ですが、く溶性リン酸のほうが肥効が遅く長期的な改良に適しています。また含まれる他の成分(ケイ酸や苦土、微量要素など)も重要な要素ですので、これらの特徴を考慮して選択すると改善の幅が広がります。
一方、施肥のためのリン酸としては、化成肥料や配合肥料(BB肥料)などに含まれるリン酸成分が使われますが、原料は過石やリン安、有機質肥料が中心です。一般的に施肥リン酸は速効性が求められますが、効果を持続させるためには一定の緩効性も必要でありく溶性や可溶性リン酸もバランス良く施用するのが大事です。
(2)施用法
リン酸は土壌中で難溶性になりやすい成分であり、土壌分析により過不足を常に把握しておくことが必要です。わが国では十分に施肥する指導がされてきたことや堆肥など有機肥料を継続施用すると蓄積されやすいことから、不足よりもむしろ過剰になっている圃場が多くなっています。リン酸の過剰害は出にくく作物への影響は小さいですが、減肥でコスト削減ができるケースもあるため、土壌診断で的確に判断するのが得策です。
ケイ酸質肥料
ケイ酸は植物の必須元素ではありませんが、特に水稲などイネ科の作物は吸収量が多く欠乏すると生産量が低下するため有用元素と呼ばれています。ケイ酸は自然に土壌から供給されることが知られていますが、連作により不足すると生育や収量に影響が出ます。
ケイ酸の効果は、水稲の葉の病害虫に対する抵抗性を高くする、茎が丈夫になり倒伏に強くなる、葉が直立し受光態勢が良くなる、根の酸化力が強化され根腐れや秋落ちに強くなるなど、増収や品質向上につながることで知られています(図2)。

図2 ケイ酸質肥料の水稲への効果
(1)種類と特徴
可溶性ケイ酸を保証する肥料は、ケイ酸質肥料では、鉱さいケイ酸質肥料、シリカゲル肥料など5種類、リン酸質肥料では、熔成リン肥(ようりん)、熔成ケイ酸リン肥など5種類、カリ質肥料では、ケイ酸カリ肥料、熔成ケイ酸カリ肥料など3種類があります。また複合肥料の分類でも、化成肥料や、配合肥料などに可溶性ケイ酸を保証する肥料があり、多くの肥料に含有されます。
水稲へのケイ酸の重要性が認められて以来、鉱さいケイ酸質肥料であるケイカルが水稲用肥料として多用されてきました。その後ケイ酸成分の肥効を高めたシリカゲル肥料や熔成ケイ酸リン肥など、価格は高いものの、ケイ酸の肥効を高め施用量を削減できる肥料が開発され普及が進んでいます。熔成ケイ酸リン肥の公定規格は、可溶性ケイ酸30%、く溶性リン酸6%、アルカリ分40%、く溶性苦土12%であり、ケイカルに比べて中性でケイ酸の溶解性が高く、ケイカルの約半分の施用量(10a当たり60〜80kg程度)で同等の効果が得られるとして知られています。
(2)施用法
水稲を健全に生育させるには、土壌中の有効態ケイ酸(中性PB法分析の場合)が、非黒ボク土では15mg/100g以上、黒ボク土では5mg/100g以上が望ましいとされていますのでこれを目標にケイ酸質肥料を施用します。荒起こしする前に全面に散布し、土によく混ざるようにします。秋に生わらのすき込みと同時に散布するとわらの腐熟が促進されるのでより効果的です。
近年、労働力不足のため土づくりが実施されない傾向があり、ケイ酸資材の施用量も徐々に減ってきています。ケイ酸質肥料は長期的に効果が出る資材であるため、窒素肥料など他の成分に比べ施用量を減らしてもすぐには影響が出にくい肥料です。
しかし水稲が吸収するケイ酸の量は非常に多く(SiO2で約50〜70kg/10a)、稲わらを田んぼに戻すことによる補給や灌漑水からの供給では十分でなくすぐ欠乏してしまします(図3)。いつの間にか水田からケイ酸が失われて、収量が低下している場合がよく見られるようになっています。安定した収量や品質を確保するためには十分なケイ酸質肥料の補給は欠かせません。

図3 水稲のケイ酸量の収支(収量500kg/10aの場合;富山)
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