オランダの施設栽培といえば、「大規模で先進的」というイメージを持たれると思います。では、一体どれくらいの規模でしょうか?作物の育て方はどのようになっているのでしょうか?これから2 回にかけてオランダの施設栽培の中身を具体的に紹介していこうと思います。
グリーンハウスのサイズ感
大規模と言われているオランダのハウスですが、僕の研修先の農場には2つのハウスがあり、4.0 ha と4.4 ha で総面積8.4 ha です。広さだけでなく、高さも5m 以上あり、ぱっと見てそびえ立つような感じがあります。このハウスの高さは、環境制御の精度を上げることや収量をあげるために必要です。より高さがある方が、環境制御しやすく、また植物をより高くまで生長させることができ、高収量が期待できるというメリットがあります。最低でも4メートルの高さは必要だと言われています。また、ハウスはガラスでできており、壊れた場合は安全を考慮し、落ちると砕けるようになっています。8.4 ha の広さに約13 万株のナスが植えられており、収穫量は年間で1㎡あたり50~80 kg です。 (1 ㎡は1.5 株に相当する)ナスは3 本支立で、病気の耐性を考慮してトマトと接木してあります。ナスは病気に弱いため、もし接木をしなかったら、収穫量は30 kg/ ㎡ぐらいに落ちるだろうと言われています。自分で作業をするのではなく、業者からすでに接木されたものを仕入れてきます。
年間スケジュール
次に、グリーンハウス内での年間のスケジュールについて紹介します。シーズンは、11 月中旬からスタートします。その時期に種を購入し、 1 ヶ月後に定植をします。ナスは、1 ヶ月で約30 cm ほど生長し、 1 月の2 週目には、ナスの収穫が始まります。収穫は各株1 週間に2 回行います 。収穫が終了するは10 月中旬です。最終的にはナスの全長が約 6 m ぐらいまで育ちます。その後、2 週間でハウス内の中の全てのものを片付けて、ハウスの中を全て綺麗にします。そして、次の 2 週間で来シーズンに向けて準備を行うといった流れになっています。このように、冬に定植をし、秋に収穫を終えるというスケジュールが組まれているのは、オランダの冬に日照時間が少ないことと関係しています。 冬に定植するのは、まだ果実がついてない期間は、日光をさほど必要としないからです。LED ライトなどの導入をすれば、この時期をずらせるので、また違ったスケジュールが考えられるのですが、それにはコストとハウスの高さ(7 m 以上)など環境とマーケットの動向を考えた戦略が必要で、現在のところこのスケジュールをこれからも続けていくようです。
ハウス内の環境は、温度をはじめ、二酸化炭素濃度、水、湿度などの環境は全てコンピュータ管理されていて、ある程度コントロールすることができますが、日光はその日の天気によって影響するので、これをいかに供給するかが鍵になります。そこで細かい話になるのですが、ハウスの透明度を保つことが重要になってきます。オランダのハウスはガラスでできていることは先に紹介しましたが、十分な日射量を得るために、ハウスの天井は年に数回、専門の業者よって掃除することで透明度を保ちます。もし、この作業をしなかったら10%ほど収量が落ちると言われています。また、ハウス内のガラスも同様に、収穫が終わった時期に、業者を雇って入念に掃除し、透明度を保ちます。これはオランダのどのハウスも同じようにやっています。
また、オランダはEU 圏内であり、常に周辺国の動向を気にしなければなりません。他の国の生産量などで市場価格が大幅に変化するからです。オランダの周辺国でナスを盛んに栽培しているところではスペインがあります。スペインでは、秋に種を植え、春先から夏にかけて収穫を行います。したがって、その時期のナスの価格は下落します。オランダのナス農家にとっては、スペインがナスの収穫を終え、価格が上昇する秋にどれだけナスを生産できるかが、その年の売り上げを決めるようです。海外との貿易で収益をあげているオランダはこのように周辺国の事情も頭に入れながら栽培や経営の計画を立てなければなりません。
環境制御
ハウス内の環境制御はPRIVA 社のサービスによって行なっています。ここではハウス内の温度、湿度、天気、二酸化炭素濃度、水量、労働状況など栽培に必要なあらゆるデータが一括にコンピュータで管理されています。しかし、大切なことはどんな数字も正解がないということで、結局、最後は植物の状態を見て、数字よりも現場の勘や経験を大事にしているそうです。ハウス内の温度は日中、約26 ℃ぐらいですが、常にこれが正しいとかではなく、その日の作物の状態と天候によって、どの温度にするのかいつも試行錯誤しているようです。また、日中は、ハウス内の気温が高くなるので、日暮れ前に一旦ハウスを解放することで、ハウス内の気温を落として夜間は18 ℃ぐらいになるようにしています。これによって、着果を増やし、果実肥大しすぎないようにします。
水の循環システム
次にハウスで使用する水について話をしたいと思います。ハウス内で使用された水は殺菌され、また再利用されてハウス内で水が循環できるような仕組みになっています 。雨水はプールに溜められています。僕の研修先は1,000 万L と3,000 万L の2つのプールを所持しています。栽培に使用する水は基本的にここから使用していきます。
作物に与える水については、その日の気候のデータと作物の成長度合いで変化しますが、9 時から17 時までの間に、1 日あたり4 ~ 15 L/ ㎡ほど、間隔は15~60 分ごとに設定した時間に自動で与えられます。これらの水はチューブによって送られ、使用された水は、横の溝に溜まります。この溝も傾斜になっており、奥に流れていきます。使用された水の約3 割はこの方法で回収され、UV 照射後、またプールに溜まっている雨水と一緒に利用されます 。雨水はpH が8 ぐらいなので、硝酸によって、pH が5.2 になるように自動で調整され使用されます。EC については、冬は3.0、夏は1.0など日射量によって変化し、pH のように自動的に調整されます。その時期によって値が変わります。この際に、必要な肥料も一緒になって作物に与えられます。病気につながる湿度の管理は、葉かきやハウス内にある垂直式の扇風機などで対策しています。
まとめ
今回の記事ではグリーンハウスのサイズ感、スケジュール、環境制御、水管理などについて紹介させていただきました。オランダの施設栽培のほとんどがこの形をしていて、農家さんがそれぞれ工夫して行うというよりも、オランダの農家を支えるような土台がしっかりとしている印象を受けました。次回の記事では、さらに天敵昆虫、マルハナバチ、肥料、ロックウール栽培、二酸化炭素、オランダで問題となっている病気などを紹介させていただきたいと思っています。よろしくお願いします。
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