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販売チャネルの複数化とは
販売チャネルとは、「商品やサービスの販売する経路・場所」を意味するマーケティング用語です。農業の販売チャネルは、インターネットや直売所・道の駅など小規模農家においても拡大しており、生産した農産物をどの販売チャネルを用いて消費者に届けるのか、ひいてはそれを活用して所得向上にどう寄与するかを検討します。
売れるかどうかわからないので新たな農産物の生産を躊躇している生産者や、農産物を作ったもののどのように売ればいいかわからないという悩みをもっている生産者などは、マーケットインの考え方、すなわちマーケットのニーズにあった売れるものを作るという考え方を意識していく必要があります。そのニーズに沿った品目の選定や栽培にあたり、本コラムでは、販売チャネルごとの税務上の留意点を掲げます。
JAの販売事業(JAへの委託販売)
農業者がJA等を通じて農産物を販売する場合(委託販売方式)、消費税の軽減税率導入前は委託販売手数料を控除後の実際の入金額をもって課税売上げとする"純額処理"が認められていましたが、軽減税率導入後は農産物販売代金(軽減税率)を課税売上げとし、委託販売手数料(標準税率)を課税仕入れとする"総額処理"に変更しなければなりません。
なお、2023年10月からのインボイス制度では、無条件委託・共同計算方式によるいわゆる"農協特例"により適格請求書等の発行義務が免除されます。
市場への出荷
農業者が卸売市場等に出荷した場合においても、農産物の販売代金は軽減税率であるのに対し、販売手数料は標準税率となります。この場合においても委託販売に該当するため、JAの販売事業と同様に、"総額処理"を行わなければなりません。また、卸売市場から受け取る出荷奨励金は役務提供の対価として標準税率となる点で留意が必要です。
なお、インボイス制度では、いわゆる"卸売市場特例"により適格請求書等の発行義務が免除されます。
食品スーパーや業務用などの契約販売
食品スーパーなど量販店への販売については、委託販売方式と買取販売方式があります。買取販売方式は直接販売であり、その販売額をもって売上高を認識します。業務用についても同様に一定の契約に基づき外食産業や給食産業、食品加工業などへの販売となり、販売数量が確保できる一方で、供給責任が生じます。
また、飲食店等に直接配達する場合も同様に、その販売額をもって売上高とします。留意点として、農産物の販売代金と区別して、運賃や包装材料などを請求する場合のその運賃等に係る消費税は標準税率の対象となります。
なお、インボイス制度では、免税事業者から農産物を購入した事業者は、適格請求書等の交付を受けられないため仕入税額控除ができません。消費税の課税事業者である登録事業者(適格請求書発行事業者)に該当しない場合は取引減少のおそれもあること等、その事業者から登録事業者となることを求められる可能性もあるため、課税事業者となった場合の消費税の納税額の試算等を予め行っておく必要があります。
農産物直売所や道の駅などでの販売
直売所や道の駅では一般に委託販売方式が採られていますが、農産物の数量や価格を自ら決めることができる半面、売れ残った農産物を自ら回収する必要があります。
なお、インボイス制度では、"媒介者交付特例"により委託販売方式による直売所等の媒介者が適格請求書等を代理発行することで、農業者の適格請求書等の発行義務が免除されます。ただし、媒介者は免税事業者の代理発行ができないため、直売所等で免税事業者の農産物を購入した事業者は仕入税額控除ができません。
WEBによる販売(宅配)
主に一般消費者や飲食店等を対象としたもので、一般的な農産物以外にも、希少性のある農産物や野菜セットのような詰合せなどが販売されています。代金の決済方法はクレジットカードによることが多く、クレジット手数料が控除されて入金されます。このクレジット手数料は消費税の非課税取引であるため、農産物の販売代金そのものを課税売上げとする"総額処理"が必要となります。
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