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従業員採用にあたって留意すること
従業員を採用するにあたっては、次の点に留意してください。
- 要員計画を定める際には、まず「農業労働の特殊性」を理解することが重要です。
- 従業員を採用する場合、具体的には、正社員(フルタイム勤務労働者)として採用するのか、あるいは非正社員(パートタイム勤務労働者やアルバイト)として採用するかを検討します。
- 経営者は人を採用するための基本的知識である、従業員のタイプ(種類)、募集方法や面接のしかたなどを理解しておく必要があります。
農業労働の特殊性とは
農業では労働基準法でいくつかの適用除外事項がありますが、これは農業が他産業にない特殊性をもっているからであり、農業の労務管理にはこの特殊性を抜きに考えることはできません。農業のもつ特殊性はその作目の違いなどで異なるが、一般的に次のものをあげることができます。
イ 労働に季節性がある
農業では作物によって農繁期と農閑期があり、この結果、労働分配に不均衡が生じます。これを農業労働の季節性といいます。
ロ 異なる労働過程が多い
農業では作物の成長過程に応じて作業が異なり、この異なる作業は時間的経過の中で行わなくてはならないため、その一つひとつの作業を分業化して同時並行的に進めることができません。
ハ 作業に適期がある
作物にはその栽培に適した時期があり、時期に応じた作業を一定の順序で行わなければなりません。
ニ 移動労働が多い
作物栽培などは、一般的に広い耕作地で行われるため、移動労働が多くなります。
ホ 屋外労働が多い
農業は、一般的に屋外労働が多いため、天候などの自然条件の影響を受けざるを得ないという特徴があります。
要員計画を定める際の留意点
農業において雇用労働力を導入する際には、まず「農業労働の特殊性」を理解しておく必要があります。
具体的には、作物栽培の作業管理過程においては、播種から収穫まで、季節や時期に応じ異なる農作業等が必要となるので、農繁期と農閑期が生じます。このため、労働資源配分上不均衡が生じることを前提として労働力を確保することになります。
また、農繁期と農閑期で作業量に大きな差がある中で通年雇用の常勤労働者を雇用するときには、「農閑期に何をさせるか」を検討することも重要でしょう。
年間の総労働時間を他産業並みに設定している農業法人では、所定労働時間の設定を農繁期は長く、農閑期に短くするために、農閑期に休日を多く設定している例も数多くあります。
また、耕種農業のように屋外労働が主体の場合は天候の影響を大きく受けるというのも大きな特徴です。基本的に屋外労働の場合は、工場生産のような労働時間の計画配分は困難です。それを前提として、毎月の所定労働日や所定労働時間等をどう設定するか、あるいは必要な労働力をどのように確保するか、等の検討や運用が日常の労務・作業管理上のポイントになります。
反対に屋内等の天候の影響を受けにくい作業であれば、労働時間の計画配分は比較的容易となります。例えば、年間の必要労働時間が把握できれば、それを基に通年雇用の常勤労働者の所定労働時間を設定し、足りない分をパートタイマーや季節従事者の雇用で調節することができます。
正社員と非正社員
昨今の農業経営にあっては、その経営を中心的に担う専門的かつ高度な経営・生産技術をもった幹部従業員と、それを支える一般従業員やパートタイム労働者等の短時間労働者、さらには季節的労働者など多くの労働力を必要としている事業場が増えています。
これらの事業場の多くで、労働者を正社員と非正社員に分けて管理しています。正社員と非正社員の法的な定義はありませんが、一般的に正社員とは「期間の定めのない労働契約を締結している労働者」をいい、長期雇用を前提にした労働者です。
たとえば、定年制がある事業所であれば定年まで雇用することを前提として雇用される労働者であり、従業員教育と人事異動を通して職業能力を身につけ(キャリア形成)させていく労働者です。
反対に非正社員は、一般的に「期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結している労働者」(有期契約労働者)をいいますが、農業の現場では、期間の定めのない労働契約を締結している非正社員(パートタイム労働者等、正社員と異なる労働条件の従業員)も多いという実態があります。
雇用条件の明確化
従業員を採用する場合、正社員と非正社員の雇用条件の違いを明確にしておく必要があります。とくに、パートタイム労働者は、所定労働時間等の違いによって労働・社会保険等の取扱いが異なるので注意が必要です。
また、従業員が多くなると雇用条件が不明確なことを理由とするトラブルが起きることも珍しくありません。そのようなトラブルを防止するためにも自社内の雇用形態の区分として、その地位、定義、処遇等を就業規則等によって明確化しておくことが何より重要です。
募集方法
募集方法には、一般的に次に挙げる(1)から(7)があります。費用その他について、各々一長一短がありますので、事情等を考慮した上でどの方法を利用するか決めてください。もちろん、同時に複数の方法を使うことも可能です。
一般的に、従業員の募集については、求める「人材の質」とコストは比例すると考えられていますので、募集方法を決定するうえでのポイントは「費用対効果を見極める」ということになります。
正社員の募集方法については「農業法人等の雇用の実態と改善の記録(2012年度)」(全国農業会議所発行)によると、下記のような募集方法が多くとられています。農業という特殊性、その規模、地域性などを考え併せても、おおよそ次のような優先順位と考えられるでしょう。
面接
採用方針が決まり、募集が始まり、就職希望者(応募者)からの連絡が入るようになると、いよいよ次は面接となります。
人材の採用では、募集から決定の中でもっとも重要な行為は経営者が応募者と直接コミュニケーションがとれる面接と言えるでしょう。
面接の準備
面接で重要なことは、いきあたりばったりで行うのでなく、きちんと「聞くべきこと」と「話さなければならないこと」などを事前に整理しておくことです。面接リストなどを準備しておくといいでしょう。
面接に際しては、次の2点が特に重要です。
- 応募者の態度・振る舞いを客観的に評価する
- 自社の現状と将来像を夢をもって相手に解りやすく伝える
採用面接のときにしてはいけない質問事項
採用面接のときにしてはいけない質問事項は、法律等で決められているわけではありませんが、本籍地や家族に関する質問など、タブーとされている事項はあります。
面接は、本人の人柄や仕事への意欲などを確認する上でなくてはならない大事なものですが、面接においては本人に対してどんなことを質問してもいいということはありません。
あまり神経質に考えることはありませんが、本人の能力と無関係な事柄や、とくに後々大きな問題になりかねないセクハラまがいの質問などは、絶対にしてはいけません。
面接時にしてはいけないとされている質問事項は、次のとおりです。
- 本人に責任のない事項 例えば・・
・本籍・出生地に関すること
・家族に関すること(職業、地位、収入、資産など)
- 本来自由であるべき事項 例えば・・
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・労働組合・学生運動など社会運動に関すること
・男女雇用機会均等法に抵触すること(交際している異性のこと、結婚の予定など)
採用決定と手続き
面接で、「この人だ!」と思う人がいた場合には、なるべく早く採用決定の連絡をするようにしましょう。希望に叶う人がいなかった場合には、妥協することなく求人を続けることも必要です。納得するまで求人と面接を行い、より希望に叶った人材の採用を目指しましょう。
なお、採用決定後には各種書類の交付などが必要ですので、入社日前に、一度面会することが望ましいでしょう。
労働条件を決定する上で考慮すること
繁忙期に一時的に雇用する季節労働者や片手間的に手伝ってもらう目的で雇用するパートタイマー等ではなく、通年雇用を前提とした正社員として地域の若者等を雇用するというのであれば、「地域雇用の受け皿」として、それなりの条件を用意する必要があります。いわゆる「他産業並み」の労働条件を用意する、もしくは用意する努力が必要となります。
- 他産業並みの労働時間
他産業では、労働基準法で定められた原則1日8時間、1週間40時間を超える所定労働時間(事業所で定めた労働を義務づけた時間)の設定はできません。たとえば週40時間を超えた労働時間は、時間外労働となり、その時間に対しては25%以上の割増率での割増賃金を支給しなければなりません。一方、農業では労働時間関係が労基法の適用除外です。
したがって、1日10時間とか1週間48時間の所定労働時間の設定も可能であり、月給制であれば、月額賃金を所定労働時間で割った1時間あたりの額が地域別最低賃金を下回らなければ、他産業では考えられない長時間の所定労働時間の設定も可能です。しかし、優秀な従業員を確保するためには、所定労働時間をできるだけ法定時間である「1週40時間」を目安に設定するようにしましょう。
- 地域別最低賃金額の遵守
賃金の最低額は、法律(最低賃金法)で定められており、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない(最低賃金法4条)」としています。これは、正社員はもちろんのこと、パートタイム労働者、アルバイト、外国人労働者(外国人技能実習生含む)等雇用形態の違いにかかわらず、すべての労働者に適用されます。
賃金が時給制であれば、その賃金額は当然地域別最低賃金額を下回ることはできません。日給制の場合は日給額を1日の所定労働時間で除した額が、月給制の場合には月額賃金を月の所定労働時間(月によって所定労働時間が異なる場合は年平均1か月所定労働時間)で除した額が、地域別最低賃金額を下回らない
雇用契約書の作成
労働者を雇用する場合、賃金や労働時間などに関する重要な労働条件は正社員であれ、パートタイム労働者であれ、必ず書面で明示しなければなりません(労働基準法15条)。
労働条件は、雇用される側にしてみれば非常に重要なものですから、後からトラブルにならないよう、初めにきちんと説明し、納得してもらったうえで、気持ちよく働いてもらうようにしてください。
書面で明示する方法は、具体的には、雇用契約書を作成するか労働条件通知書を交付することになります。法的にはどちらでも構いませんが、より効果的なのは、雇用契約書の作成です。労使双方で記名捺印し1部ずつ所持するため、労働条件の透明性が高まり、誤解や不信感が生じにくくなります。
口頭のみでの雇用契約は労働基準法違反ですし、何より、後で「言った」「言わない」というトラブルの種を残すことになり、従業員に不信感を抱かれる原因となりかねません。雇用契約は、雇われる側からすると生活を左右する大切な契約で、それを口頭で済まされるとしたら不安は小さくありません。労使関係の始まりにあたって、雇用契約書の果たす役割は非常に大きく、その締結は必須といえます。
雇用契約書に明示すべき労働条件
労働者を雇用する際、明示しなければならない労働条件は下記のとおりです。
イ 必ず明示しなければならない事項
(労働基準法第15条1項施行規則5条1項1号〜4号)
ⅰ)労働契約の期間(期間の定めがない場合は、「期間の定めなし」とする。)
ⅱ)就業の場所、及び従事すべき業務
ⅲ)始業・終業の時刻、所定労働時間を超える勤務の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制における就業時転換
ⅳ)賃金に関する事項(決定、計算、支払方法、締切り、支払時期、昇給)
ⅴ)退職(解雇の事由を含む)
ロ 定めをする場合には、明示しなければならない事項
(労働基準法施行規則5条1項4号の2〜11号)
ⅰ)退職手当の定めが適用される労働者の範囲など退職手当についての事項
ⅱ)臨時で支払われる賃金、賞与等、最低賃金額
ⅲ)労働者に負担させる食費、作業用品等
ⅳ)安全及び衛生
ⅴ)職業訓練
ⅵ)災害補償及び業務外の傷病扶助
ⅶ)表彰及び制裁
ⅷ)休職
上記イの必ず明示しなければならない事項(ⅰ〜ⅴ)のうち、ⅳ賃金に関する事項の「昇給」に関する事項は除き、書面による交付による明示が義務づけられています。
また、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(パートタイム労働法)により、労働基準法で労働条件の明示が文書の交付によって義務づけられているイ及びロの事項に加え、「昇給」、「退職手当」、「賞与の有無」「相談窓口」についても文書の交付等による明示が義務となっています。
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。