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新規就農に関する税務
新規就農の方法は、主に、①農業法人などに就職、②親元就農、③個人事業主として独立、④法人を設立して独立、が考えられます。それぞれの場合に分けて説明します。
農業法人などに就職
農業法人や大規模農家などに就職して従業員として働く場合は、支給される給与に対して所得税・住民税が課税されます。
所得税は、毎月の給与から天引きされ、暦年で区切って年末調整が行われます。
住民税は、就職した翌年以降、給与から天引きまたは市役所等から送られてくる納付書により納付します(給与から天引きする"特別徴収"とすることもできます)。
なお、就職した年の1月1日以降、就職するまでの間に、農業次世代人材投資資金(準備型)などを受けた場合には、雑所得として、給与と合わせて確定申告を行う必要があります。
農業次世代人材投資資金(準備型)の支給を目的に先進農業法人で研修することもありましたが、令和元年度より先進農業法人は支給対象となる研修機関等から除外されています。
親元就農
個人で農業を営む親元に就農する場合には、親から受け取る給与に所得税・住民税が課税されます。給与に関する所得税・住民税の取扱いは、上記「農業法人などに就職」と同じです。
ただし、親が青色申告者で生計が一緒であるときは、給与(「青色事業専従者給与」といいます)について税務署への届出が必要です。親元に就農した日から2ヶ月以内(ただし、1月1日〜15日の間に就農した場合には、その年の3月15日まで)に、氏名、職務の内容、給与の金額、支給日などを記載した「青色事業専従者給与に関する届出書」を親が税務署へ提出します。
青色事業専従者給与を受ける人は、親の扶養親族になることができません。
なお、親元に就農して親から独立した部門経営を行う場合に受ける農業次世代人材投資資金(経営開始型)は、「雑所得」となります。親から受ける給与と合わせて、親とは別に自分自身で確定申告を行います。
また、親元に就農し親から事業を5年以内に継承して受ける農業次世代人材投資資金(経営開始型)は、経営全体について親の名義で確定申告をする場合は「雑所得」、自身の名義で確定申告をする場合は「事業所得(農業所得)の雑収入」として確定申告を行います。
個人事業主として独立
個人事業主として独立する場合は、農業を事業として営むことになりますので、開業から1ヶ月以内に税務署へ「個人事業の開廃業届出書」を提出します。同時に、「所得税の青色申告承認申請書」を提出することをおすすめします。青色申告とは、正しく記帳し、帳簿書類等を保存することで税務上のメリットを受けられるものです。
事業により得た所得(事業所得)に対しては、所得税・住民税が課税されます。
所得とは、収入金額から必要経費を差し引いた金額ですが、青色申告者はさらに、青色申告特別控除額を差し引くことができます。青色申告特別控除額は、複式簿記による貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付する場合は最大65万円*、貸借対照表がない場合は10万円です。
また、初年度は事業所得が赤字となることがありますが、青色申告者は、その赤字を翌年以降3年間、繰り越すことができます。税務以外の分野では、収入保険制度において青色申告が加入の要件とされています。
個人事業主が受ける農業次世代人材投資資金は、事業所得の雑収入になります。なお、所得税の申告を行うと、住民税の申告も同時に完了するしくみになっています。
*税制改正により、令和2年以降は55万円。ただし、電子帳簿保存またはe-Taxにより期限内申告を行う場合は65万円になります。
法人を設立して独立
法人を設立して独立する場合は、法人の所得を基礎に、法人税・住民税(道府県民税・市町村民税、東京都の場合は都民税のみ)・事業税が課税されます。
また、法人から受ける役員報酬は、給与所得となり、上記「農業法人などに就職」と同じ扱いです。農業次世代投資資金(経営開始型)は、個人が交付を受けるのが原則ですが、法人が交付を受けることも可能です。
個人が交付を受ける場合には、雑所得、法人が交付を受ける場合には、一般助成収入に計上します。法人設立当初は一般的に、収入は不安定な一方、費用が嵩むことから、税金面だけを考えると、資金を法人で受ける方が有利な場合が多いと考えられます。
(参考)農業次世代投資資金の交付対象者である個人が法人を設立して法人で資金を受け取るためには、個人事業で独立する場合と同様、その法人が認定新規就農者の認定を受け、人農地プランに中心となる経営体として位置づけられる必要があります。これらの手続きをスムーズに進めるために、法人の設立前から市町村の担当者と連携し相談しながら進めるのがよいでしょう。
設備投資と消費税
個人事業主と法人は、事業を始めた年は原則として消費税の免税事業者となりますが、開業時に数千万円規模の多額の設備投資がある場合には、敢えて、消費税の課税事業者を選択することで消費税の還付を受けられることがあります。
その判断は初年度が終わる前に行う必要がありますので、多額の設備投資が先行する事業の場合には、早めに税理士などの専門家へ相談するとよいでしょう。
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