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農地制度の概要
農地制度は、優良農地の確保や農地の効率的な利用の促進等を図ることを目的として、農地法、農業振興地域の整備に関する法律、農業経営基盤強化促進法、農地中間管理事業推進法などの関係法律により構成されています。これら関係法律の概要は次のとおりです。
1.農地法
(1) 概要
農地法は、農地が農業を営む上での必要な生産基盤であること等から、「効率的に利用する耕作者による農地の権利取得の促進」、「農地を農地以外のものにすることについての規制」、「農地の利用関係の調整と農地の農業上の利用の確保」により、食料の安定供給の確保を図ることを目的としています。
このために、「農地」に対する①権利移動の制限(転用目的を除く)、②転用規制、③賃借権の保護、④遊休農地に関する措置などを定めていて、その内容は次のとおりです。
① 権利移動の制限
「権利移動の制限」は、農地等の権利移動を許可制とし、効率利用しない者や不耕作者による権利取得を排除することを目的としています。この許可の性格は、これをもって権利が設定・移転されるわけではなく、その権利移転に効力を与えるものです。許可を受けない権利移動は無効であって、違反行為者には罰則の適用があります。
② 農地転用規制
「農地転用規制」は、農地を農地以外に転用又は農地転用のための権利移動を許可制とし、周辺農地の営農条件への支障を防止することなどにより、優良農地を確保することを目的とします。許可を受けずに、無断で転用した場合には、違反行為者には罰則の適用や原状回復措置などが命ぜられることがあります。
③ 賃借権の保護
「賃借権の保護」は、賃貸借の対抗力、賃貸借の法定更新、賃貸借の解約等に関する制限などです。いわゆる耕作権の保護に関する規制です。
④ 遊休農地に関する措置
「遊休農地に関する措置」は、遊休農地の解消、発生の防止を図る措置です。
(2) 沿革
1952年に制定された農地法は、農地改革の成果を維持することを目的にしていて、その内容は農地の利用・処分のあらゆる部面に及ぶ農地規制を定めるものでした。その後、農業内外を巡る大幅な情勢変化に対応し、農地の有効利用と経営の規模拡大を進める観点から、規制の緩和等を内容とする農地法の重要な改正が何度も行われました。
中でも2009年には、大きな改正が行われました。改正内容は、農地改革の考え方に基づく自作農主義の基本の変更を含むものでした。
法制定以来変更されなかった目的規定も、「農地はその耕作者自ら所有することを最も適当であると認めて耕作者の農地の取得を促進し・・・」と定められていたものを、前述のように「農地を効率的に利用する耕作者による地域との調整に配慮して農地についての権利の取得を促進し・・・」と改正されています。
また、権利移動制限についても、従来は、農地の権利取得が出来なかった農地所有適格法人以外の一般法人について、書面による解除条件付き貸借であれば農地の取得が可能となりました。
2.農業振興地域の整備に関する法律
農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)は、1969年に制定された法律であり、農地法が農地一筆ごとの規制を定めているのに対して、農振法は農業振興のため市町村が作成する農業振興地域整備計画に関する制度です。
農振制度の目的は、総合的に農業を振興すべき地域の指定と当該地域の農業的整備のための計画的な施策の推進を図り、必要な農用地等の確保・農業の健全な発展を図るとともに、国民に対する食料の確保及び国土資源の合理的な利用に寄与することにあります。
法律に基づき、都道府県知事が農業振興地域を指定し、市町村が農業振興地域整備計画を定めます。整備計画のうち農用地利用計画で設定される「農用地区域」では、土地の農業上の用途が指定され、この指定用途への土地利用を確保するための規制や誘導措置が定められています。
制度の概要

3.農業経営基盤強化促進法
農業経営基盤強化促進法(以下「基盤強化促進法」という。)(1993年制定)は、効率的かつ安定的な農業経営を育成するため、地域において育成すべき目標を明らかにし、その目標に向けて農業経営を改善する者に対する農用地の利用の集積、経営の合理化など、農業経営基盤の強化を促進するための措置を総合的に講じるものです。主な内容は次のとおりです。
① 農業経営基盤促進基本方針(都道府県)及び農業経営基盤強化促進基本構想(市町村)の策定
② 市町村ごとに「育成すべき農業経営の目標」の明確化と目標達成のための
- 経営の改善を計画的に進めようとする農業者の計画を認定(認定農業者制度)
- 新たに農業経営を営もうとする青年等の就農計画を認定(認定新規就農者制度)
③ 農用地の利用の集積を進めるための、農業経営基盤強化促進事業の実施等
本事業は市町村が実施するもので、その中心となる「地域計画推進事業」は(※)、基盤強化促進法改正(2023年4月施行)により制度化されました。その目的は農用地の効率的かつ総合的な利用を確保するもので、主として次の二つの取組から成っています。
- 地域計画(地域農業経営基盤強化促進計画)・目標地図の策定・公告
市町村が、農業者等による協議の結果を踏まえ、地域の将来の農業の在り方、将来の農用地の効率的かつ総合的な利用に関する目標等を内容とする地域計画を策定(人・農地プランの法定化)するものです。なお、地域計画では、その目標として農業を担う者ごとに利用する農用地等を定め(10年後の農地利用の明確化)、地図に表示したもの(目標地図)を作成することとなっています。
- 地域計画達成に向けた利用権の設定等の促進
権利関係の方向付けを示す目標地図の実現に向け、農地中間管理機構(「機構」という。)による農地中間管理事業及び農地中間管理機構特例事業を活用し、農地の集積・集約化を促進するものです。具体的には、農業委員会が関係機関と連携しつつ、機構への貸借等を積極的に推進することにあります。
※「地域計画推進事業」の制度化に伴い、集団的な農用地の権利移動を目的とする事業であった従来の「利用権設定等促進事業」は廃止されました。これに伴い、これまで農地の権利設定について市町村が作成していた「農用地利用集積計画」は、2025年4月から機構が作成する「農用地利用集積等促進計画」に統合一本化されることとなりました。なお、2025年3月末日(それまでに地域計画が定められ公告されたときは、その公告の日の前日)までは経過措置として、市町村の「農用地利用集積計画」も引き続き活用可能とされていました。
4.農地中間管理事業推進法
農地中間管理事業推進法(以下「中間管理事業法」という。2013年制定)は、担い手への農地の集積・集約化を一層推進し、担い手の生産性の向上を図ることを目的としています。主な内容は次のとおりです。
① 農地中間管理機構※の指定
都道府県、市町村、農業団体等が出資して組織される法人で、都道府県知事が県に一つに限って指定します。
※地域によっては、「農地バンク」「機構」「公社」などと呼ばれています。アグリウエブでは、基本、「機構」と記述します。
② 農地中間管理事業の実施
- 機構は、農地を貸したい人(出し手)から、農地を借り受け、必要に応じて整備した上で、耕作を希望する人(受け手)にまとまりのある形で貸し付ける事業を行っています。
- 機構の貸付先は、従前は、機構が公募を行い、応募者から選定し・機構に登録された者でしたが、2023年度からは、農業者等による「協議の場」を経て、市町村が誰がどの農地を利用していくのかを一筆ごとに明確にした目標地図に位置付けられた者となりました。これに伴い、公募制は廃止されました。
③ 農用地利用集積等促進計画(促進計画)
促進計画は、地域計画(目標地図を含む)の実現のため、機構が農地を借り受けたり、貸し付けたりする際に作成する計画です。この計画を都道府県知事が認可・公告することで、この計画に記載された権利設定等が効力を生じることとなります。
この権利設定については、農地法上の許可を要しない、法定更新がされないなどの特例が認められています。
農地の権利移動の方法
1.二つの方法
農地の権利移動の方法には、二つの方法―「農地法第3条の許可を受ける方法」と「機構が作成する「農用地利用集積等促進計画」により権利を取得する方法」―があります。
2.農地法第3条の方法
農地法第3条の方法は、農地の出し手(売主、貸主等)と受け手(買主、借主等)相対での個別権利移動案件ごとに、当事者が農業委員会に申請して、許可を受ける方法です。
申請を受けた農業委員会は、法に定める許可要件に照らし審査します。許可されるためには、全ての許可要件を満たすことが必要です。
農地法の許可は、権利移転を目的とした当事者の法律行為(売買契約、賃貸借契約等)に効力を与えるものです(補完性)。許可を受けない権利移動は無効であって、違反行為者には罰則の適用があります。
3.機構が作成する「農用地利用集積等促進計画」により権利を取得する方法
(1) 内容
促進計画により権利を取得する方法は、機構による権利の設定を受ける者が、市町村(農業委員会)に(又は機構に直接)申し出て、機構に促進計画を作成してもらいます。
機構は、地域計画区域内の農用地等について促進計画を定める際には、地域計画の達成に資するようにしなければならないとされています(基盤強化促進法22の5)。したがって、機構が促進計画により、農地の賃借権の設定等を行う場合は、その受け手が地域計画(目標地図)に「農業を担う者」として位置づけられた者である必要があります。
地域計画実現のため、機構は、目標地図に即して、出し手・受け手の希望条件を踏まえて、一定の調整を行い調整後、促進計画を作成します。関係農業委員会の意見聴取等の結果を付して、都道府県知事に認可を申請します。
促進計画は、都道府県知事の認可・公告により、計画に記載された当事者間の法律関係(賃貸借関係、売買関係等)が発生します。促進計画による権利の設定等に関しては、農地法第3条の許可は不要です。
(2) 機構を利用した貸借に係る借り手メリット
次のものがあります。
- まとまった農地を長期間(おおむね10年以上)安定的に借りられる。
- 農地の集積・集約化により、効率的な農地利用が可能である。
- 賃料の支払い先や契約の相手方が機構であり、煩雑でない。
4.二つの方法の比較
二つの方法については、農地法3条の許可対象は当事者間の相対での個別権利移動案件であるのに対し、機構による促進計画は機構と関係者間との貸借関係等の権利移動関係をまとめた計画であること、また、農地法3条の許可の効力は、これによって権利が生じるものではなく、権利移転を目的とした当事者の法律行為に効力を与える(補完性)ものであるのに対し、促進計画は都道府県知事が認可・公告することで、この計画に記載された権利設定等が効力を生じることの違いがあります。
他方、「農用地利用集積等促進計画」に対する都道府県知事の認可要件、農地法3条許可要件を定めていますが、「農地をすべて効率的に利用すること」の借り手要件は、共通要件となっています。
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。
