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1.農地転用規制に係る二つの法制度
農地転用規制には、農地法による農地転用許可制度と農振法による農業上の土地利用のゾーニングを行う農業振興地域制度(以下「農振制度」という。)が関係します。
両制度の性格は、農地転用許可制度が、個々の農地を対象として申請に応じて転用の適否を判断する受け身の規制であるのに対し、農振制度は、農業を振興する地域をあらかじめ指定(都道府県知事)しておき、市町村が作成する農業振興地域整備計画において農業用に確保すべき土地を農用地区域として指定(ゾーニング)する地域計画制度です。
両制度は、相補いながら農業に必要な土地を維持・確保する働きをしています。
2.農地転用許可制度の概要
(1) 農地転用許可制度の目的
農地法では、国土の計画的かつ合理的な土地利用の観点から、農業と農業以外の土地利用計画との調整を図りながら、優良農地を確保し、耕作者の地位の安定と農業生産の増大を図ることを目的として、農地転用を規制(許可制)しています。
農地転用許可制度では、優良農地を確保するため、農地の優良性や周辺の土地利用状況などにより農地を区分し、転用を農業上の支障が少ない農地に誘導するとともに、具体的な転用目的を有しない投機目的、資産保有目的での農地の取得は認めないこととしています。(個別転用の規制)
(2) 農地の転用規制の対象
① 農地の転用の意味
農地の転用とは、農地を住宅用地・駐車場・資材置き場、公共施設用地、店舗等用地、植林等農地以外の目的に利用することを言います。
農地転用に該当するか否かの判断が分かりくいものに農業用施設の建設があります。
農地にガラスハウス等の温室を設置した場合でも、①その敷地を直接耕作の目的に供し農作物を栽培する場合、②敷地の形質に変更を加えずに、鉢、ビニールポット、水耕栽培等を行う場合には転用に該当しないものとして取り扱っています。
他方、農業用施設の敷地をコンクリートで地固めする場合やコンクリート等を敷地に埋設する場合は農地に当たらないもとして扱っています。
また、農作物の栽培のため農地に設置される通路等については、その部分が農作物の栽培に通常必要不可欠なものであり、その農地から独立して他用途への利用又は取引の対象とならないものについては、その部分を含め全体を農地として扱うとされています。
なお、一般的に農地の全面をコンクリート等で地固めする場合は転用に該当することになりますが、農業委員会に届け出て農作物栽培高度化施設の用に供される農地については、2018年の農地法改正で農地転用に該当しないものとされました(農地法第43条)。
(参照:「農地の活用_農作物栽培高度化施設」)
② 農地法第4条と第5条の転用規制
農地法第4条は、農地転用を行おうとする者は都道府県知事等の許可を受けなければならないとするものです。農地の所有者が自分で転用行為をする場合がこれに当たります。
これに対し、農地法第5条は、農地の転用を目的として農地の権利移動(所有権の移転、賃借権等の設定)をしようとする場合に都道府県知事等の許可を受ける必要があるとしたものです。
つまり、4条は権利移動を伴わない転用であり、5条は権利移動を伴う転用です。
許可を受けずに、無断で転用した場合には、農地法違反となります。無断転用は、罰則の対象となるとともに、特に悪質の場合は農地への原状回復を命じられることとなります。
③ 転用規制の例外
なお、市街化区域内の農地転用については、あらかじめ農業委員会に必要な書類を添付して届け出ることにより農地法第4条又は第5条の許可が不要となります。
(3) 転用許可手続き
① 申請人
農地法第4条の場合は農地を転用しようとする者、農地法第5条の場合は権利の設定移転の当事者(共同申請)です。
② 許可権者
都道府県知事及び指定市町村の長(都道府県知事等)です。
③ 申請手続き
許可を受けようとする者は、農地転用許可申請書に、必要書類を添付し、該当する農地がある農業委員会を経由して都道府県知事等に提出します。市街化区域内農地の場合は、農地転用届出書に必要書類を添付して関係農業委員会にあらかじめ届出します。
✳許可申請の具体的方法については、市町村農業委員会に問い合わせてください。
④ 許可の効力
法第4条の許可
農地を農地以外に転用する事実行為が可能となります。
法第5条の許可
許可が売買、貸借等の農地の権利移動を目的とする法律行為の効力発生要件となります。
(4) 許可の判断基準
農地転用の許可の判断は、法令に基づき全国的かつ公平に行われています。判断基準は、立地基準と一般基準の二つです。
許可権者は、申請があった場合には立地基準、一般基準に基づき審査し、許可、不許可の判断を行います。立地基準、一般基準の両方が適当と認められない場合は、許可できないこととされています。
① 立地基準
営農条件及び周辺の市街地の状況から農地を区分し、当該区分に応じて許可方針を定め、市街地に近接した農地や生産力の低い農地などから順次転用されるようになっています。

② 一般基準
申請目的実現の確実性、周辺農地への被害防除措置の妥当性、資金の有無、計画規模の妥当性、農地の利用集積への支障の有無、他法令の許可見込み等について審査し、次に該当する場合は不許可となります。
- 転用の確実性が認められない場合
>転用を行うために必要な資力及び信用があると認められない場合
>他法令の許認可の見込みがない場合
>関係権利者の同意がない場合等
- 周辺農地への被害防除措置が適切でない場合
- 農地の利用集積への支障を生じる場合
- 一時転用の場合に農地への原状回復が確実と認められない場合等
3.農振制度の概要
(1) 農振制度の目的
農振制度は、農業を振興すべき地域の指定(都道府県)と当該地域の農業的整備のための施策の計画的推進(市町村)を図り、農業の健全な発展と国土資源の合理的利用に寄与することを目的とします。
(2) 農用地区域
都道府県知事により農業振興地域として指定された区域の市町村は、農業振興地域整備計画を作成し、同計画の中の農用地利用計画で農業上の利用を図るべき土地の区域「農用地区域」とその区域内の土地の農業上の用途区分を定めることとなっています。
「農用地区域」は、市町村がおおむね10年を見通して農用地として利用すべき土地として設定する区域で、農地、採草放牧地、農業用施設用地などの農業上の用途が指定されます。設定基準では、集団的農用地(10ha以上)、農業生産基盤整備事業の対象地等の土地を「農用地区域」に含めるものとされています。
「農用地区域」内の土地は、指定された農業上の用途に利用されるよう、次の法的措置が設けられています。
指定された農業上の用途に利用されるよう誘導する措置として、土地利用促進のための市町村長による勧告、農業委員会のあっせん等の措置が定められています。
指定された農業上の用途以外の用途に供されないように規制する措置として、農用地区域内の農地転用は原則不許可とされ(表「立地基準」参照)、また、農地転用のための農用地区域からの除外を目的とする農用地利用計画の変更には厳しい制限が課され、さらに宅地造成などの開発行為は、農振法上都道府県知事等による許可制となっています。
4 農業振興地域制度と農地転用許可制度について
(1)農用地区域内農地の場合
① 原則として農地以外の用途へ転用できません(農地転用許可制度)
② ただし、次の場合は、農用地区域のままで転用できます(農用地区域内農地の不許可の例外)
- 農用地利用計画に指定された用途に供するための農地の転用(例えば、農業用施設用地として用途区分が行われている農地で農業用施設を建設する場合)
→農振制度としては、農地転用に先立って農用地利用計画の用途変更を行う。
- 仮設工作物の設置その他の一時的な利用を供するために行うもの
→農振制度における処理は不要です。
したがって、上記以外の場合で転用を行うためには事前に農用地区域からの除外を行った上で、農地転用許可を得る必要があります(ただし、農地転用の許可の見込みがなければ農振除外もできないこととされています。)
(2)農用地区域内の農地以外の土地の場合
① 農地ではないため、農地法に基づく農地転用許可は不要です。
② ただし、農用地区域のままその土地で開発行為(建物の建設等)を行うためには、農振法の開発行為の許可を受ける必要がありますが一時的な利用などを除き原則として不許可となります。
したがって、開発行為を行うためには事前に農用地区域からの除外を行うことが必要(その後の農地転用は不要)となります。
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。
